一時の休息
「だから言ったじゃないですか。動かしたら、壊れるって」
僕はカイダさんと向き合う。
その言葉に一発いいのを頬にもらったけど、僕は一切引かなかった。
偽の白磁は、もう立てないと思う。
着地時に、膝の関節部分が派手に壊れる音を聞いたから。
魔力の流しすぎというか、機体の魔力処理能力の限界をあっさり超えただけ。
機体そのものが動きにも、魔力にも追い付かなかったから、関節部分からエンジンである魔力石まで一気に摩耗、破損していた。
敵の機体は2機とも近くに落ちている。
敵の一人は逃げ出したらしい。
最初に落とした機体のコクピットの中は空になっていた。
「なんだよ。あのバケモンは」
敵の捕虜となった支配者は、僕を睨みつけていた。
「どうもこうも」
ユウキも少し苛立っているように感じる。
「とりあえず、、捕虜を本部に連れて帰るのが先か」
カイダさんの言葉に、びくっとする敵の支配者。
「なぁ、助けてくれよ。見逃してくれよ。なぁ」
猫なで声で、ユウキに命乞いをしている。
「ユウキ。絶対に逃がすなよ。後、殺すなよ」
カイダさんの声に、自分の銃を握り直すユウキ。
引き金を引きそうになったのかもしれない。今にも撃ちそうなくらい手が震えている。
「ハッキングする?」
ミホがこっそりと声をかけてくれる。
ハッキングして、相手の接続者を紐状にして、支配者を縛ろうかと言っているのだが。
「いや、大丈夫。というか、僕の魔力統制をあれだけ見せてるのに、ミホのハッキングまで見せたら、今度は僕たちが監視対象になりそうだと思わない?」
僕の声に、しばらく考え込んだ後。
「うん。どうみても、いい事にはならなさそう」
ミホは小さく返事を返してくれる。
ただ、ユウキの銃を持つ手はいつでも銃を放ちそうなくらい今も緊張していた。
結局、僕たちは本部に連絡を取り。
敵の捕虜を取った事を伝えると、一時撤収を申し付けられたのだった。
「あいつらは、友達を焼き殺したんだ」
ユウキは自分の手をもう片方で握りしめながら小さく呟く。
「学校が、燃えて。友達も燃えて。泣き叫ぶ声の中。さらにあいつらは撃ってきた」
ユウキの言葉はすごく低く。重たい。
その現場を見ていなかった僕たちが知らない地獄。
アラキさんと、シミさんに徹底的に訓練を施されていた2年間の間にあった事。
「だから、僕はあいつらが許せない」
カイダさんの撃つなよ。の言葉はそういう事だったらしい。
「そして、、、君もね、、その力があれば、助けれた命もあったかも知れない。あの時、あの場所にいなかった君が、、憎いんだよ」
君の力を見るたびに。
そう呟くユウキの肩にそっと触れるアカリ。
僕たちは何も言えず。
帰りの車の中で重たい雰囲気のまま過ごすしかなかったのだった。
「結果として、一時停戦だ」
本部というか、激戦区の西地区から少し離れた場所の大きめの基地の中で待機していた僕たちは
一時停戦の報告を聞いてほっとしていた。
「拿捕した二人の捕虜と引き換えに、一時停戦を持ち掛けられたらしい。ただ、西地区の一部はとられたままだがな」
カイダさんの悔しそうな声が心に残る。
「学校は、、」
「跡地は、敵の支配地になった」
カイダさんのその言葉に、手をにぎりしめるユウキ。
「いつか、、いつか、、取り戻します。あそこには、、友達が、、いる」
ユウキの手をそっと握るアカリ。
あそこには、同級生が、クラスメイトが、蒸発したまま眠っている。
そんなユウキを、カイダさんとケイトさんは辛そうな目で見つめるのだった。
その夜。カイダとケイトは二人でグラスを傾けていた。
「研究所も、押収されたって事よね」
ケイトの言葉に、カイダはちいさくうなずく。
「今回は、、負けだな。。惨敗だ、、」
酒のグラスを見つめながら呟くカイダ。
「本当に、、、」
2年間、、、短いようで長い戦争が終わった。
しかし、失った物が多すぎる。
二人はグラスを傾けながら、何も言わずに過ごすのだった。
「だから、、っ!私のパンツの替えくらい買ってくれてもいいじゃない!」
「給料減ったんだから、自分ので買ってくればいいじゃない」
「お金持ちの癖にっ?!」
小さな6畳くらいの部屋の中で、僕とミホは喧嘩していた。
前の家は無くなってしまっていた。
爆風で吹き飛ばされた家を見て、茫然とするしか無かった。
その上、とどめといわんばかりに、自分が住んでいた辺りまで全部敵地として占領されてしまった。
今自分の家の跡地に入る事すら出来ない状態だ。
もう、両親の写真などは諦めるしかない。
その代わりとして、新しく渡されたのは、コンテナルーム。
6畳一間で、お風呂とトイレは共同という物だった。
緊急的に作られた、避難用の家ではあるのだが。
そこで生活する事になって、困った事が次々と起きていた。
最初に困ったのは、調理器具やら、保存用の家電だった。
全ての物価がめちゃくちゃ上がっていて、思ったよりもどんどんとカードの中の残高は減っていってしまった。そして今、二人して給料のやりくりに困ってたりするのだ。
新しく生活するのに、こんなにお金がかかるなんて思ってなかったんだよ。
糧食も戦争が休戦に入った以上、軍からもらえなくなったので自分で食料も買うしかないけど。
全部が高い。
なにもかもが高い。
替えの服やら、可愛い服やらなんて特に買える値段じゃなくなっていたのだった。
もちろん、肌着類も。
「もう。もうちょっと彼女を大事にしてよね」
ミホはそう言ってすねるが。
相変わらず、毎日作ってくれるミホの料理は美味しいし。
夜は甘えまくられて、次の日の朝には、ミホの機嫌も良くなっているのだった。




