懐かしい顔ぶれ
「なんなのよ。あなた達」
ケイトさんは、半分呆れながら軍基地の中に入って行く。
あれから、一切の戦闘に巻き込まれなかった。
突然飛んで来た魔力弾を撃ったと思われる敵は、そのまま東側へと移動していき、西側を回っていた僕たちの車は遠くからその戦闘の爆発の光りを見るだけという、不思議な状況を作り上げていたのだ。
時々ミホが目をつぶっているのは、情報を処理しているからだろう。
肩を密着させてきている彼女の右手が完全に僕の腕を包み込んでいる。
体の一部スーツ化だが、これも、シミさんとの特訓の成果だ。
「戦況は最悪」
ぼそっとミホが呟く。
ミホが感じているのは、魔力の流れ。
僕が使える魔力感知の力も使って、状況を把握しようとしている。
時々、ギュッと腕が締め付けられるのはあまり見たくない光景を見ているだからだろう。
僕も戦争は嫌いだ。見たくない光景なんて、本当に見たくない。
人が死んでる姿とか。
そんなことを思っていると、車は基地の中へと入って行く。
「生きてたのか!!本当に良かった!!!!」
第2隊 都市防衛隊の基地に入り、僕たちが車から降りると突然声をかけられる。
その声のする方を見ると、本当にうれしそうに手を振りながら走って来る超イケメンの金髪少年。
その後ろを必死に追いかける、美人とは言えない普通の顔の少女。
「シュウ!」
僕の手を握って来る。
「ミホもよかったぁぁっぁ」
全力で泣きそうな顔をしながら、ミホを抱きしめる少女。
「久しぶり。アカリ。元気だった?」
ミホが、アカリを抱きしめる。
その目から涙がこぼれ落ちる。
「本当に、生きていてよかったよ。シュウ君」
ユウキは、2年前と変わらず、さわやかな顔で笑うのだった。
「いっぱい同級生も死んだよ」
ユウキは小さく呟くように話しかける。
「うん。お姉ちゃんも」
アカリは再び泣きそうな顔になる。
その頭をそっと撫でているユウキ。
いろいろあったんだろうけど。
それでも寄り添って、相変わらず仲の良い二人を見ていると、少し嬉しくなる。
いやそれよりも。
「何でここに?」
僕はそれだけ言うのがやっとだった。
ここは、軍の基地。しかも、第2隊。今から最前線へ出撃するはずの部隊だ。
「僕も一応支配者なんだ」
そう言うと、ユウキは後ろに顔を向ける。
そこに鎮座しているのは、灰色の自動機構兵器。
「僕の、、生きる証だ」
ユウキが口を噛みしめる。
この2年間。
ユウキにも何かあったのだろう。
そう思わせるには十分な顔だった。
「支配者同士の親睦はその辺にして頂戴。」
ケイトさんがきつい口調で声をかけてくる。
「はっ!すみません!隊長!」
ユウキが敬礼を返す。
アカリも敬礼をしていた。
「調整は今からして頂戴。シュウ伍長」
そう言って、ケイトさんが指さしたのは、見覚えのある、白い自動機構兵器。
「あれは、、」
僕が呟いていると。
「そう。あなたに昔、渡した機体です。結局あなた用に循環魔力石と増幅器を調整したから、あなた以外使えないのよ。あの機体は」
そう言うケイトさんの顔はどことなく暗い顔をしていたのだった。
「あ。コクピットが、パイロットタイプになってる」
僕は、白い自動機構兵器に乗り込む。
そこは、前のムーブトレースシステムから、パイロットタイプのシート型のコクピットに変わっていた。
「コクピット部分が全部だめになってたのよ」
ケイトさんが苦い顔をしている。
「ね?シュウくん?」
ミホは僕を見て笑う。
「うん」
僕もそれだけの返事を返すと、ミホは一瞬でスーツ化する。
スーツ化したとき、ギュッと全身を締め付けてくるのは、ミホの癖になっているようだ。
お互いの体温を感じながら、お互いに気持ちが昂る。
ゆっくりとシートに座ると。
「あ。これ」
ミホが一瞬で気が付く。
僕も気が付いていた。
「これ、、、、」
「「シュウくん(僕)だと、壊れる」」
二人でシートに座ったまま唖然とする。
機体調整とは、魔力をなじませ、動かしやすくする事でもあるのだが。
魔力を流すまでもなく、すぐに分かってしまった。
機体を動かす魔力石の糸が、細すぎる。
魔力を細く、制限をかけたとしても僕の力は車で引っ張るくらいの力はある。
なのに、この機体を動かす魔力糸は僕の魔力の力に比べて、タコ糸くらいの細さしかないのだ。
「激しい動きをしたら、すぐ壊れちゃう」
ミホが呟くように言う。
「出撃できるかしら?」
ケイトさんが、聞いて来る。
出撃まで時間があまりない。
「どうする?」
僕が聞くと。
「あれ、、いい?シュウ君?」
ミホが逆に聞いて来た。
僕はシートに座ったまま笑う。
「いいよ」
それだけを返すと。スーツ化したままのミホが軽く揺れるのが分かったのだった。




