戦争という現実。
「生きていてくれた事は嬉しいんだけどね。残念なお知らせがあったりする」
カイダさんは、小さく呟く。
僕は、カイダさんの自動機構兵器の手に乗って移動していた。
僕たちの乗っていた白い自動機構兵器は、軍がすでに回収しているらしい。
僕たちを連れていったあの敵の自動機構兵器と一緒に。
まあ、乗り捨てたのは、数年前の話だから、十分ありえる話ではある。
そんなに大量の自動機構兵器があるわけじゃないのだ。
「一つ目はこの国は完全に戦争に入ってしまった事」
少し考え事をしていた僕の耳にカイダさんの声が、小さく響く。
良く見ると、2年前は傷一つなかったカイダさんの自慢の青い自動機構兵器には傷がたくさんついている。
少し疲れた声をしているカイダさん。
というか、カイダさんの接続者がケイトさんだった事の方が、僕としては驚きだったのだけれど。
「二つ目は、君たちは、死亡扱いになっている事。発見された以上、どういう判決になるかは分からない」
ため息のような声とともに、遠くを見るカイダさんに、僕は自然と震えが来ていた。
「軍議結果から言う。シュウ モリキ。 ミホ カンナギ。両名は、自分の自動機構兵器を破棄し、その保護を怠った。また、生存している事を報告しなかった。これは、逃亡罪に当たるものと思われる。軍の貴重な財産を損失させる可能性があった事、また、必要な時に逃亡していたその罪は決して軽くはない。
以上の事から、両名とも、下士官位から降格。伍長に任命す。両名とも、一般兵として軍に尽くすように。また、禁固刑100日を命ず。本来であるなら、死罪となるはずだが、両名が少年少女兵という事もあり、精いっぱいの温情も入っている。感謝するように」
その軍議の後。
僕たちは二人して牢獄に入れられてしまった。
ただ、僕たちが助かったのは、二人一緒に同じ牢獄に入れてくれた事かも知れない。
「寒い?シュウ君?」
スーツ姿になってくれたミホが小さく呟く。
「大丈夫。ミホがいるしね」
「ヘンタイ、、」
ミホはそんな事を言いながら僕をぎゅっと締め付けてくる。
最近思うのは、キスをしたり抱き合ったりするより、このスーツ化の方が密着度は高いと思う。
本当にさみしい時。
本当に苦しい時。
スーツ化して二人で一緒にいるときのほうが、とても落ち着いていられる。
「うまくサポートできなくてごめんね」
ミホが誤って来る。
なんの事を言っているのか、一瞬分からなかったが。
ふと、ミホの心が聞こえて来た気がした。
「2年も前の事だし。気にしてないよ。僕も何にも出来なかったからね」
僕は、小さく笑う。ミホも笑っているのが分かる。
暖房も、冷房も無いトイレすらない独房で、僕たちは幸せだった。
「出ろ」
僕はうたた寝をしながら、ミホのスーツから伸びている管から少し甘い液体を飲んでいると、突然牢屋の鍵が開けられる。
まだ、独房に入って20日しか経っていないのだが。
そんな事を思っていると、目の前にいたのは、ケイトさんだった。
「シュウ伍長、ミホ伍長、両名に軍からの命令です。以前受領した自動機構兵器に乗り、東の防衛線に即時参加するべしとの事です。両名は、今後、私たちの第2隊に配属となります」
それだけ言うと、ケイトさんは僕たちがいた牢を見て、目を見開く。
「というか、まだ少年、少女の二人を、重犯罪牢に入れるなんて何を考えているの!」
トイレも、暖房も何もない僕たちの牢屋は重犯罪者が入る場所だ。
本当なら、排せつする所を人に見られ、食事もろくに与えられず、寒さと孤独に気がおかしくなる牢屋である。
けど、二人一緒に入れてくれた事で、僕たちは全然平気だった。
なんて言ったって、アラキさんとシミさんのスパルタの2年の間に、1か月スーツ解除禁止という訓練もあったのだから。
「変態!馬鹿!信じられない!」
そんな事を叫び続けていたミホだったが、シミさんにスーツ解除のシステムを邪魔されているらしく、一切スーツを脱げなくなった一か月だった。
その間、僕たちは食事も無し。
おしっことか、、大きい方も、、、まぁ、、、、するしかないよね。
シミさんは微笑みながら。
「戦場では、半年以上二人で過ごす事もあります。スーツを脱いだら、即死するような場所も。
今から、慣れていなさい。支配者が、なぜ支配者と呼ばれるのか。それは、接続者の支配者でもあるからという事を」
その特訓というか、シミさんの怖い笑顔のおかげで、ミホはいろいろと分解できるようになっていた。
そして、それを循環し簡易的な食料に変換する事も。
「それが、接続者の本当の役目。私たちは、支配者。生血の生命を繋ぐ者。生血を人を生かすためだけにつくられた、生命維持装置。それを覚えておきなさい」
シミさんの言葉には、どこか深い寂しさすら感じ取れるものだったのを良く覚えている。
僕たちはスーツ姿のまま刑務所の外に出る。
裸のようにも見えるスーツ姿なんて、昔からしたら恥ずかしかったかもしれないが、僕たちはアラキさんたちの修行で慣れてしまっていた。
「後、車に、服があるから、二人ともきちんと着なさい」
ケイトさんの方が少し顔を赤らめているくらいには。
ケイトさんの運転する車の後部座席に乗っていると、僕たちの通っていた学校が見えた。
いや、学校の跡地と言った方がいいのかも知れない。
完全にがれきと化した学校に驚く。
「びっくりした?あれから、3度大きな戦闘があったの。学校はその時の流れ弾で完全に崩壊。
今も時々魔力砲が飛んでくるから、再建も出来ない状態よ」
ケイトさんは真剣な顔で続ける。
「この国というか、この町は、本当に最前線に飲み込まれてしまった。あなたの同級生もいっぱい死んだわ」
その言葉に、スーツ化を解除して、僕の隣に座っていたミホが僕の手をギュッと握ってくる。
するっと、ミホの一部が僕の腕にからみついているのはミホが本当にショックを受けているからだろう。
僕はそんなミホの一部を腕に纏わせたまま、周りを改めて見る。
2年前にくらべて、あきらかに壊れた家や、がれきが目立つ。
そこかしこに、魔力弾の痕跡ともいえる、少し赤くなっている穴も見える。
「魔力弾が来る」
ふと、ミホが僕にギリギリ聞こえる声で囁くのが聞こえた。
それから数秒遅れて。
「ちょっと!今? 着弾コースじゃない!」
ケイトさんが慌てているのが聞こえて来る。
アクセルを踏み込もうとするケイトさん。
しかし、完全に加速する前に赤い巨大な弾が僕たちの目に映る。
「大丈夫」
僕はミホの手を握ったまま。それだけ言う。
片手を上げ。魔力展開する。
空中に巨大な魔力の盾が生まれる。
魔力弾を軽く受け止め、弾き飛ばす。
魔力統制。魔力を自由自在に扱えるこの技術は、魔力を固め強固にする事も出来る。
今まで、網のように展開して包み込んで受け止めていた状態から完全な盾に変えて弾き飛ばす事が出来る。
「何?何が起きたの?」
車を止め、びっくりしているケイトさん。
ミホは、となりで目をつぶったままだ。
「ケイトさん、西側へ走らせてください。西回りなら安全にたどりつけます」
ミホは、目を開けると、そうケイトさんに伝えていた。




