出会いと降格と
何時間経ったのか。
僕たちが座り込んでいると、何かが動いた気がした。
「ねぇ」
ミホの声に僕は顔を上げる。
少し先に、何かが動いたと思ったその先に、今までは見え無かった湖が見える気がする。
「あれは?」
「多分、幻覚だと思うけど」
ミホは小さく呟くが。
「行ってみようか」
僕の声に、ミホは小さく同意の返事を返してくれた。
ゆっくりと歩き出す。
しばらく歩いていたのだが。
ぶるっと、震えが来る。
「えーと、ミホ?スーツ脱がない?」
僕は小さくミホに声をかける。
「なんで?」
ミホが首をかしげるような声で返事をしてくれたが。
すぐに、その意味を察して「変態!!」と叫ぶ。
慌ててスーツ解除を行うミホ。
僕はと言うと、耐えきれなくなってその場に出すものを出す。
排せつをしなくてもいい、神血には分からないよ。
生血は、おしっこも出るんだから。
そう思いながら、盛大におしっこをしたまでは覚えている。
けど、そのまま。
僕は倒れた。
「ちょっと、まって、待って!」
まだ、おしっこがちょろちょろと出ている状態で倒れてしまったシュウを見て、ミホはすぐにスーツ化してシュウを覆う。
体温が41度を超えている。
「死なないで!」
スーツを解除してしまった自分を責めながら、ミホは自分の魔力を全開にしてシュウの体温を冷やし始める。
熱からか、息苦しそうにし始めたシュウの口に、自分の一部を管にして滑り込ませ。
液体をシュウの口に流し込む。
自分でも何をしているかはよく分かっていない。
しかし、相方を。
好きな人を助けたい。
その思いだけが、ミホを動かしていた。
はぁはぁと、苦しそうなシュウに。
絶望しかけた時。
「こんな所に人? 今の気温は、45度超えてるぞ?」
そんな声が聞こえて来た。
ミホは、シュウの事しか見えていなかった自分に気が付く。
周りをまったく気にしていなかった事に。
大分年と思われる男が、シュウと自分を覗き込んでいた。
「少年兵、、、か。まさかと思うが、、、、」
男は、シュウの前を見て。
「脱いだのか。。脱いだら裸になるからな。ああ。分かってる。このままじゃ、死ぬな。この子とこの子も」
しばらく何かを聞いているような時間の後。
「分かった。連れて帰ろうか。何処の兵士かは分からんが。分かってる。ん?ははは。家に帰れば、大分落ち着くさ」
そんな事を言った後。
男はシュウとミホを抱きかかえる。
「軽いな少年。もうちょっと鍛えないと、守れるものも守れないぞ」
そう言って笑う男の顔には、少しだけ寂しさが見えていた。
「ふざけるな!!!」
戦闘の開始と同じく、モニターに拳を叩きつけるカイダ。
そこには、ただ一つの命令が浮かんでいる。
『捜索は、打ち切りにする』
その返答に、怒り狂うカイダだった。
「行方不明か、、生死も不明か」
軍の会議。
司令官は、頬杖をついたままそれだけを読み上げる。
「彼を連れて行った自動機構兵器の撃墜は出来たと思いますが、魔力が尽きてしまい、私たちは行動不能に陥っていて、、、」
ケイトの言葉を手を上げて遮る。
「そんな事はどうでもいい。彼の捜索が困難である事。彼が死んだと思われる事。それが現実だ」
捜索の結果、シュウの乗っていた自動機構兵器は発見された。
敵の自動機構兵器と共に。
しかし、そのコクピットは、かなり凹んでおりとてもではないが、中にいる者が生きているとは思えないほどだった。
実際、敵の自動機構兵器は、落下の影響で接続者ごと、押しつぶされている。
しかも、調査時、あの場所の気温は47度まで上がっていたらしく。
「まだサバイバル経験もない、12歳の接続者に、あの環境でお互いに生き残るための技術、知識、実践経験は持ち合わせておりません」
その学校からの報告も合わせて見る。
「これらの資料と、襲撃から2週間と言う時間。無常ではあるが、死亡したと思うのが普通だろう」
司令官は、頬杖をついたまま、机をトントンと指で叩き始める。
「で、そなたの言い訳は?」
司令官が目を向けたのは、第二隊と言われる、この都市の防衛を任されている小隊。
その小隊長。
「小隊だけでは、対応不可であると思い、、、援助要請を、、、敵が、市街地に入ってしまいすぎていたため、、、敵機の誘導を、、、」
しどろもどろになりながら返事をする小隊長。
「それを、少年兵に?」
司令官の視線に耐えきれず、下を向く小隊長。
「軍曹という事もあり、、、戦闘も出来るかと、、、それでも、戦闘は避けるように、、電信を、、、誘導だけでも、、、、最新機だと、、、」
返事にもなっていない返事を聞き流しながら、司令官は小隊長を見る。
「これは、戦果後の懲罰会議だのだよ。君は、軍司令官の私を無視して、さらには、軍本部の意向すら無視して、彼を出撃させた事になる。戦時特権ともいうべき、緊急戦時応援要請というものを使ってね」
もう、返事すら出来ずに下を向くしかない小隊長。
「結論は一つだ」
その言葉に、慌てて顔を上げる小隊長。
「待ってください!私の部隊の全力をあげて、彼を見つけてっ、、、」
その言葉が言い終わらない内に。
彼の胸は大きく穴が開いていた。
一瞬で蒸発した血が焦げ臭いにおいを放つ。
「小隊長の接続者は?」
「すでに解体されております」
「そうか」
それだけ言うと、司令官は、ケイトを見つめる。
「で、君も監視不足という事になるな」
その言葉に、ケイトは本来出ないはずの冷や汗で全身が濡れているような感覚を覚えていたのだった。
「小隊長の二人は処分、、、っすか」
ケイトから報告を受けたカイダは力なく椅子に座り込む。
光の無い目でケイトを見る。
「この、、、研究所は解体。私たちは、降格の上、第2隊配属、、、ですって」
「処分されなかっただけ、、、、マシ、、、っすか。
まあ、命拾いした事を喜び、、、出来るわけないっすね。大尉」
「一応、私たちが次の第2隊の小隊長よ。少佐」
泣けないはずのケイトの顔には、なぜか水が滴っていた。
その気持ちを一番よくわかるカイダは。。
「なんとか抜かされずに済んだっすね、、階級。。」
どうでも良いと思いつつ、そんな事を呟くしかなかった。
泣けない神血が泣いているのに、生血の自分が泣けない事にかすかな絶望を感じながら。




