プロローグ2
放課後。
「で、どういうつもりだね」
「大体、君は、親の七光りであのクラスの隅に置いてもらっているというのに・・・」
こってりと。しっかりと、散々と呼び出されて、先生に説教をされてしまった。
気が付けばもう、とっぷりと周りは暗くなってきていた。
僕は、先生の説教をさんざん聞いた後。とぼとぼと家へと歩き始める。
まぁ帰宅部と言うやつだ。
その途中で、僕の真横に突然、オープンカーが止まった。
「迎えに来たよ」
そう言って窓を下ろしたのは、20代くらいの男性だ。
ヤサ男。そう言えるくらい整った顔立ちをしているのだが。
「早く乗って欲しいな。別に、ホテルなんかへ連れ込んだりしないから」
キラリと、光りが出そうなくらい、さわやかな笑みを浮かべる。
「カイダさん。いつも言ってますけど、僕、その気は一滴も、一ミリも無いです。それと今日は忙しいのでまた後で。」
僕が返すと。
「はは。相変わらず、手厳しいね。でも、君の事は本当に気にいっているから。ね。いつでもどこでも、その気になったら来て欲しいなぁ。受けでも、攻めでも。僕は全然オーケーだからね」
舌なめずりをするカイダさん。
「それと今回のお誘いも僕個人の事じゃなくて、軍からのお誘いだからね。拒否したら分かってるよね。」
いや。そんなさわやかな笑みで、夜のお誘いをしてくれないで欲しい。
そして、突然真剣な顔で、逃げれない脅迫もやめて欲しい。
僕は脅迫に負けるように、危ない人の後部座席に乗る。
車の後部座席には先に、一人の女性が乗っていた。
僕が乗った瞬間に、すぐに女性が、僕の手を取り、何かの機械を手のひらに押し付ける。
痛みもなく、数滴の血を取られる。
そのまま、彼女が空中の何かを操作すると、空中にディスプレイが大量に浮かび出す。
そこに何か数値が流れ始めた。
「体温も異常なし。血の成分から、ストレスもあまりなさそうね。精神状況も安定しているわね。食事は、、、少し栄養が偏っているのではなくて?好き嫌いをしてもらうと困るのだけども。来月から、配送食の内容の変更をしなくてはね。簡易食を食べ過ぎないようにしてよ」
車に入った瞬間、突然に血を取られ、そんな小言を聞かされてしまう。
「本当に厳しく言われているんだから。守ってちょうだいね」
空中に浮かんでいたディスプレイを消しながら続ける。
「今日は、さらに研究所で、簡易検査の後、研究中の武器の試射をしてもらうわ」
その言葉と同時に、車は、町の地下駐車場に入って行く。
駐車場の奥。どう見ても壁だったのに。突然左右に壁が開く。
緑色のライトがついたトンネルへと車は入っていった。
僕は、また、面倒な実験に付き合わされるのかと、大きくため息をひとつつくしかなかった。
いつもの通り。
実験の前に、精密な検査のためベッドに寝かされているシュウを、二人の白衣を着た男が見ていた。モニターの前で、横になっているシュウを見ながら、真剣な顔をしている。
「神機。まだ動かんか」
「やはり、接続者がいないと無理そうですね。しかし」
「彼の結婚相手を勝手に決められんのが、歯がゆいな」
「彼が、心の底から納得した相手でなければ、スーツの装着は無理のようです。何度も実験しての結果ですが」
隣で、修に着てもらおうとして、はじかれた女性が、裸で茫然としている映像が流れていた。
その女性は、どう見ても、研究員として今モニターを見ている女性。
そう車の中で修の横に座っていた女性だった。
まぁ、あっさりと言ってしまえば、フラられた。状態である。
「そっちは、待つしかないか。しかし、、、人間相手の測定器では戦闘力9だったな」
モニターに示されている数値を見ながら呟く研究員。
「はい。その異常さに気が付かなければ、ずっと気が付かないままだったでしょう」
「まさか、自動機構兵器用の測定器で、魔力1万などと出るとは思わなかったがな」
「普通に考えると、化け物ですからね」
一人の男は小さくため息をつく。
戦闘力とは、速さや、目の良さ。運動神経の良さなどすべてを含めた物の総量である。
力の強さだけで言うなら、戦闘力100で、米俵1俵。つまり60キロを持ち上げれるくらいの強さだと言われている。
戦闘力200なら、120キロ。
つまり、戦闘力800 はその全てを力にしてたとえるなら、480キロを持ち上げれる強さという事になってしまう。
人間の限界として、ありえない数値である。
正確には、足の速さや力、頭の回転の速さなど、全てを含んだ数値ではあるのだが。
「戦闘のプロの人間でも、魔力は、そこまでは上がらないからね」
モニターに写されている数値を見ながら、苦笑いを浮かべる研究員。
自動機構兵器の魔力ジェネレーターでも乗っているのかと言いたくなる。
「魔力数値は?」
「微粒魔力 1万。いつも通り、あり得ない数値のまま固定ですね」
魔力とは、全ての機械を動かす、燃料である。起爆剤ともなり、いわば火種でもある。
ほとんどの生物が魔力を持っているが、その総量が増えたり減ったりすることは滅多にない。
魔力の総量は、生まれつきだと言われている。
魔力数値は、1000あれば、最優秀と言われる。
平均値は、300~500程度だ。
火だねが小さければ、燃焼はゆっくり大きくなり、少しずつ落ちて行くものだが。
巨大な火種と、巨大な燃料タンクなら、爆発的に一気に燃え上がる。
そして、その燃える火はそのまま、魔力は、体の中にある生体ナノマシンを活性化させ、戦闘力に反映される。
はずなのだ。。。。
「学校で、魔力測定をされなくてよかったと言うべきなのだろうな」
「こんな数値出されたら、先生方はひっくり返りますよ」
魔力測定は、軍に入隊してから行う事になっている。
なぜなら、戦闘力が多くても、魔力が少なければ、起動する事も出来ない自動機構兵器が存在するからだ。
半面、日常生活では、家電を使う程度であるならば、魔力など、一切気にしなくていい能力でもある。
「本日の実験は、予定通りでいいですか」
「ああ。彼の状態に問題は無さそうですね。今日は、自動機構兵器用の魔力ライフルの起動実験でしょう?正直、彼がいなければ、ゴミ扱いされる代物ですね」
研究者たちは、普通の人間として表示されている測定値を見ながら少し笑ってしまう。
魔力1万の化け物。
その体の中に存在する生体ナノマシン1%未満。
普通なら、小さな切り傷すら完治に数日かかる程度の割合である。
しかし、彼の場合、どんな深い傷であっても、一瞬で治ってしまう。
昔の実験で、人間とは思えない身体能力を発揮する事も分かっている。
それが、魔力1万と言うことなのだ。
「彼は、自動機構兵器の魔力ジェネレータを積んでいるようなものなのでしょうね」
その言葉に、苦笑いで返す研究員。
その目線の先には、巨大な銃が鎮座している。
1万という、バカげた魔力でなければ動く事も無い、使えない武器に何の用事があるのかは知らないが。
この起動実験はずっと続けられている。
研究員の二人は真剣な顔で、準備に取り掛かるのだった。
目の前の少年は、軍にとって、機密の塊であった。