荒野。敗退。
「ふざけるなって話だ!」
カイダは、目の前の敵機を切り倒す。
これで、2機目だ。
「そろそろ、私も限界かも」
カイダさんのスーツが、泣きそうな声を上げる。
圧倒的不利な戦況の情報を全て彼女が処理して、勝つためにどうしたらいいかを計算しているので、オーバーヒートしかけている。
「あの子のためだ。もう少し頑張れ」
「分ってるわよ!」
激しく言い返す。
2機目の頭を飛ばしながら、カイダは周りを見る。
「シュウの自動機構兵器は?てか、第2隊は何してるんだ!」
「別動隊に見事に引っ張られてる。町の外で交戦中よ。シュウ君は。。。なんて事!」
やっと索敵できたスーツの女性。
そう。ケイトが悲鳴のような声を上げる。
「拿捕されてる!国境近くの湿原地帯までもう行ってる!あの先は、荒野よ!」
「なんでだよ!気が付かなかったのか!」
「さっきの奴がダミーの情報を流してたみたい!国境を超える!」
「ケイト!この辺にあれ、置いてあるだろ!」
突然の提案に驚くケイト。
「え?あれ?確かに、第二研究所に突っ込んだけど、使えないわよ!」
「やるしかねぇだろぉ!」
「無茶よ!」
そう言いながらも、ケイトは自動機構兵器経由で、指示を出していた。
そう。
研究所からの、武器の強制射出命令。
そして、研究所から飛ぶように出て来たのは、巨大なライフル。
シュウが試射をさせられていた、アレだった。
「ケイト!魔力ふりしぼれ!無茶でもやるぞ!」
「ああ!もう!あなたと一緒になるんじゃなかった!」
「愚痴でも、物でも投げるのは後だ!気合いれてくれよ!」
ガチャン。とライフルが起動する。
「これって」
「ラッキーかな。シュウの魔力がまだライフル内に残ってやがる。一発ならいける!」
「目測も目測だから、当たらなかったらゴメンなさい」
「ケイトなら、誤差修正くらいできるだろ!」
無茶振りをするカイダに、無茶な照準を当てるケイト。
「今!」
その言葉と同時に、青い自動機構兵器の持つ巨大ライフルから発射された一撃は、国境の端まで光を伸ばして行く。
「当たった、、、か?」
「多分。。。。国境を超える前に落とせたと、思う、、、わ」
「回収部隊の要請、急ぐ、、ぞ」
「けど、今は休ませて、、、、。夜も、、、ムリよ、、、、」
「僕も、ちょっと、、、、ムリ、、、、かな、、、、」
魔力を振り絞った二人は、コクピットの中でぐったりしていた。
その二人の前に、降りてくる3体の白い自動機構兵器。
肩に、青い星のマークがついている。
「第三機動隊、、、、。遅すぎだっつーの」
その姿を見た、残っていたバルカン帝国の自動機構兵器は、一斉に空へと飛んで行く。
その後ろ姿を見ながら、カイダと、ケイトは魔力切れによる眠りに落ちるのだった。
「おきて、おきて、、」
そんな声が聞こえて、ゆっくりと目を覚ます。
僕が起きた時。
目の前は、砂だった。
「うぷっ」
砂を噛んでいたらしい。
じゃりじゃりする口の中の砂を吐き出しながら、僕は体を起こす。
後ろにあるのは、大破した僕の自動機構兵器。
そして、それを掴んでいる、バルカン帝国の自動機構兵器。
その支配者 は。。。
「うぷっ」
中がちらっと見え、思わず吐きそうになってしまう。
敵の機体から流れる大量の赤いものは、オイルじゃない。
そもそも、自動機構兵器はオイルなんて使わない。
そう。
支配者の血だ。
「・・・・」
「・・・・・」
何も言えずに、スーツ姿のミホと二人で僕たちはその光景を見るしかなかった。
完全につぶれたコクピットの中。
「ねぇ。あの人の接続者は?」
ミホが小さく呟くが。
「多分、、、」
僕はそれだけ言うのが精いっぱいだった。
何故なら、スーツそのものが紫色になっているのが見えたからだ。
何か、腐ったようなにおいすらする。
「うん。。。。」
ミホは力なく答える。
「スーツ、解除する?」
僕がミホに尋ねると。
「ダメ。今の外の温度、知らない方がいいくらいだもの。今解除したら、シュウ君焼肉になるよ」
ミホは小さく呟き返す。
一年生とは言え、情報解析の能力は、神薙の家の子供と言う事もあって、申し分なかった。
自動機構兵器は、、、壊れてる、、、か
とりあえず自分の自動機構兵器のコクピットに入ってみるも、起動どころか、魔力すら受け付けてくれない。
敵の自動機構兵器のコクピットには流石に入る勇気は無かった。
とりあえず、砂の上に座る。
あたりは 荒野と言うのがふさわしい、岩しかないようなごつごつした地面が何処までも広がっている。
地面がゆらゆらと揺れているのは、気のせいでは無い。
あきらかに今スーツを脱ぐと生死に関わる気温である事が一発で分かった。
接続者が変化したスーツは、真空状態の宇宙空間でも生存可能なほど高性能な生命維持スーツでもある。
寒い日は、お互いの体温で温め合い、心地いい温度になるし、周りが熱くなるすぎると逆に接続者の生体ナノマシンが冷却を始めてくれる。
「私たち、死ぬのかな、、、」
ミホが小さく呟くが。
「僕がいるかぎり、死なせない。全力で、僕の魔力を吸い取ってでも、君は生きて」
僕は小さく返す。
キュッと、スーツが動いた気がした。
僕たちは、何をするでもなく、壊れた自動機構兵器の下で座り込むのだった。




