新しい機体。
打ち上げがあった日から、数日後。
学校から帰って、僕たち二人が家に帰り玄関を開けると。
玄関の空中に突然モニターが開く。
「痛っ。これって、招集?」
「緊急命令みたいだけど」
ミホは突然の事にびっくりしている。
僕もびっくりしてミホの手をさらに握ってしまったらしい。
ミホが繋いでいた手を痛がっていた。
モニターには、1830 まで、自宅にて待機要請発令。
と出ていた。
「迎えが来るって事だよね」
その質問に頷いて返事をする。
「準備しないと怒られるよね」
僕は小さく呟くのだった。
制服を脱ぎ。
適当に保存食を食べて。
動けるラフな格好に着替える。
シャワーを浴びる時間はないなぁと思っていると、玄関のチャイムが鳴る。
18時30分 きっかり。
二人して玄関を出ると、そこにはオープンカーが止まっていた。
「よぉ。久しぶりっていうほどでもないけど、まぁ久しぶり」
カイダさんは、笑っているが、助手席のケイトさんは怒った顔で何か調べものをしている。
「お誘いしたい所なんだけど、お仕事だ。准尉」
カイダさんが真剣な顔になる。
カイダさんが、僕を階級付けで呼ぶ時は、何か起きた時。
最近やっとその事に気が付いた。
「これを、受領してください」
いつもとはまったく違う場所に連れて来られて。
ケイトさんが指さした、目の前にあるのは、巨大な人型機械。自動機構兵器だ。
しかも、10メートル級と小さめの軽量オートモーターと呼ばれる物だ。
「外見のクラスはC級扱いですが、中身は別物です。循環魔力石の容量は、A級を超える物が積んであります。武器は、ソード付きライフル。実験していたアレの改良版です。各種内骨格も最新鋭の物が使われています」
「操縦席は、トレースシステムを採用しています」
ケイトさんは、淡々と目の前の自動機構兵器の説明を続ける。
「なんで突然?」
僕が驚いていると。
「以前拿捕したC級自動機構兵器 3体。あの支配者及び、接続者の救出に、バルカン帝国の小隊が入って来たとの報告がありました。軍規の結果・・・」
ケイトさんの言葉を、遮るカイダさん。
「君が、またあの機体に乗ると、いろいろとめんどくさいんだよ。
あれは、うちの軍の切り札というか、最終兵器扱いだからね。さらに、あの機体を求めて大隊が来る可能性もある。だから、ダミーの機体を渡せと上からの命令があってね」
面倒そうに、説明するカイダさん。
「僕、戦争嫌いだから、戦闘は極力しませんよ」
僕はカイダさんに言い切る。
しかし、それを聞いても笑っているカイダさん。
「僕も嫌いだよ。切った張ったなんて、殺し合いもまっぴらだね。でもね」
少しへらへらした顔が一気に引きしまる。
「君を探しに、僕たちを殺しに奴らはやってくる。君は死にたいか?死にたいなら、僕が今、ここで頭を打ち抜いてあげるよ。死にたくないのなら、飛んでくる火の粉を振り払う武器は必要だと思わないかい」
ぐりっ。と銃口が僕の額をこする。
ミホが僕の腕をしっかりとつかんでいる。
カイダさんの真剣な時の顔は、本当に怖い。
「残念ながら、これは戦争だ。今戦争だ。好きも嫌いも無いんだよ。飛んでくる魔力弾は戦争が嫌いな人を避けて飛んではくれないからね」
カイダさんは銃を降ろすと。
「そして、君の両親は軍人で、君も今は軍人だ。役目とは言わない。だが、煙の元となる火がある限り、いつまでも煙はまとわりつく。その火が消せないのなら、ダミーで目をそらさないと、永遠に火の元を探しに来るよ」
「そのための、武器。私たちからの贈り物よ」
ケイトさんは、苦笑いを浮かべている。
結局、僕たちは、そのC級自動機構兵器を受け取る事になったのだった。
シュウたちが帰った後。
研究所に鎮座している自動機構兵器の前で、カイダはその機体を見つめていた。
「あら。定時で帰るあなたがめずらしいじゃない?」
「たまにはそんな事もあるっすよ」
チャラく返事をするが、ケイトさんは、その横に立つ。
「泣いてるなら、もう少し分かりにくくしなさい」
「それが出来るほど器用じゃないから、ここにいるっす」
おかしな口調のまま。
カイダは自動機構兵器を見つめる。
「思い出した?」
ケイトさんの言葉に。
「忘れたっす」
ただそれだけを返すカイダ。
そっと触れた手は、いつの間にかしっかりとつながれていた。
「戦争は、、、、やっぱり嫌だね」
どれくらい経ったのか。
ボソリとそれだけ言うカイダ。
「綺麗な手じゃなくて、ごめんね」
ケイトもただ自動機構兵器を見つめている。
人を殺すためだけに作られた兵器。
町を燃やす目的で作られたその兵器。
どれだけ殺したのか。
これから、どれだけ殺すのか。
そして、あの子たちは。
あの子のように。
二人は手を繋いだまま。
何も言わず、目の前の兵器をただ見つめるのだった。




