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「ここが第2階層か」
長剣の男が辺りを警戒しながら呟いた。
周囲の様子に変化はない。
ごつごつした岩肌も、うっすらただよう獣の気配も第1階層とそう違いはない。
ただ一点だけ異なるのは、
「……血のにおいがしやがる」
三叉に分かれた道奥の一つから漏れてくる鉄のにおい。
三人に警告しようとした矢先、においのほうから駆ける音と荒い息づかいが聞こえてきた。
「はぁっ……はぁっ……な、おめぇ、ナイフ!?」
足音の正体は酒場の常連、髭面だった。
引きつった顔に無数の返り血。
武器も持たず、手ぶらで駆けてきたということはーー
「ナイフ! それにおめぇらも! たのむ、助けてくれ!」
ローブの女が革袋の水を飲まし、長剣の男が経緯を聞いた。
この先の小部屋で獣に襲われたらしい。
仲間の一人が重傷を負い、それをかばいながら他の仲間が戦っている、と。
そして自分は別の冒険者の助けを得ようと第2階層の入口まで駆けてきたという。
「たのむ! はやくしねぇとあいつらがやられちまう!」
俺が長剣の男に目線を送ると、長剣は筋肉男、ローブの女と顔を見合わせ、うなずいた。
「今すぐ案内してくれ!」
「助かるぜぇ!」
今にも崩れそうだった髭面の顔に光が灯った。
俺は警戒しながら髭面の後を追った。




