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街に戻り、獣石を換金してそのまま酒場で食卓につく。
冒険者でごみごみした酒場は酔っぱらいの笑声や怒号が飛び交っている。
蒸した鶏肉に香草で香り付けした料理を食べていると髭面の酔っぱらいが近づいてきた。隣の席に座り、無遠慮に俺の肩に腕を回してきた。
「おいナイフ。てめえ今日は何匹の犬っころを仕留めた?」
「覚えていない」
「てめえは数の数え方も知らねえもんな」
肩に回された腕を振りほどく。
髭面が片手をあげて人差し指を立てた。
「これが一だ。俺様の女房の人数だ」
中指も立てる。
「これが二だ。俺のガキの人数だ」
酒臭い息に辟易する。
薬指を立てる。
「そしてこれが三。俺の自慢の足の本数だ。へっへっへ」
周りの酔っぱらいどもがゲラゲラ笑った。三本目だけやけにぶっといなおい、と野次が飛ぶ。
小指を立てる。
「これが四。火、水、風、光、精霊様の数よ」
精霊の加護を受けた人間は冒険者としての資格を得る。
街の住人にも加護が与えられた者とそうでない者がおり、また街の外でも力を発現した者がいるらしく、その中で酔狂なやつがこの街にやってくる。
親指を開いて手のひらを向けてくる。
「そしてこれが五だ。俺が今日ぶっ殺してやった犬っころの数だ」
「そうかい。そりゃあすごいな」
第1階層の黒犬はただの犬じゃない。図体こそでかくないが力も凶暴さも桁違いだ。
それを五匹も殺したのなら十分に立派な戦果と言える。
だが髭面は俺の言葉を皮肉と受け取ったようで、
「けっ。愛想のねえガキだぜ」
立ち上がり、酔っぱらいたちのテーブルに戻っていった。
他人と馴れ合うことのない俺にも声をかけてくる変わり者だが腕は確かだ。数人の仲間とパーティを組んで黒犬退治を生業にしている。
酒癖の悪さも相まってこの酒場では有名な常連冒険者だった。




