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殺しても殺してもキリがない。
いくつ目かの首を切り落とし、浴びた返り血を袖で拭う。
黒犬の群れは一度、獲物と定めた標的から逃げることをしない。知能の低さのためか、あるかも分からないプライドのためか。
吠えて駆け出し、飛びかかってきた黒犬の下顎にコブシを叩き込む。倒れた隙に横腹へナイフを突き立てた。
ギャインと一つ鳴き、絶命する。
息絶えた黒犬の胴体は砂のように崩れ去り、小さな白い獣石を残して消えた。
周囲に獣の気配がないことを確認し、地面に散らばった獣石を回収した。
獣ひしめく穴で唯一、持ち帰ることのできる戦果だ。
街の酒場に控えている冒険者専用の宝石商に渡せば金になる。これを目当てに潜る者もいれば、獣との命のやり取りに興奮を覚える者もいる。
いずれも愚かな人間。
だから冒険者は街の人々に陰で愚者と蔑まれていた。
光の精霊の祝福を受けた神官の力が発揮されているかぎり、獣は穴の外には出られないのだから。
自ら進んで危険に身をさらす者を愚者と呼ばずに何と呼ぶか。
傍から見れば俺もまた愚者の一人に過ぎない。
獣の血にまみれ、獣を殺し続ける俺もまたケダモノと呼ばれて然るべき存在だ。
とりわけ俺は愚者の中の愚者、狂人と陰口を叩かれていることを知っている。
金儲けも腕試しも興味のない俺はなるほど、狂っているのかもしれない。