張飛とその嫁は長坂坡で夏侯軍団に狙われる
私の名前は三娘。張飛益徳の嫁ですわ! ウチの旦那ったらぁ~、実用性筋肉の持ち主だし、優しいし、カッコいいし、かわいいしぃ。
今は、益徳さんの義理の兄者さんと、流浪の末に荊州にたどり着いて、劉表さんのお世話になってましたの。
劉表さんたら、何もない私たちに新野の一城を貸してくださいました。ありがたいんですけど、敵対する曹操さまの勢力に隣接する土地でしたの。
明らかに前線に立たされたようなものですわ!
そして実は私に少々問題がありまして。私の実家はその曹操さまの腹心である夏侯一族なのです。
父は夏侯淵伯父さまと兄弟ですし、曹操さま、夏侯惇おじさまとは従兄弟の間柄。幼い頃はとても可愛がられました。
最近、曹操さまったら漢の丞相になったんですってね! 親類としては鼻高々ですわ。
うっう~。ですから、私は劉備一家にいるものの、曹操さまとはド血縁!
でも私、益徳さんとは相思相愛で、私が引っ付いて結婚して貰ったんですけど、その時の劉備一家は曹操さまから逃亡中。ですから実家には、荊州に落ち着いてから手紙を送ったんです。
ですが実家のほうでは益徳さんが私をさらった。三娘は無理やり手紙を書かされたんだと、一族を巻き込んで大変怒ってるようですの。
夏侯一族は一族の絆は絶対切れないと自負してますの。そもそも曹操さまの曹一族と夏侯一族は、“漢”の忠臣、曹参と夏侯嬰コンビの末裔ですから、四百年以上の絆があります。
その一族がブチ切れたみたいなんです。
「なにぃ! 俺の姪が張飛にさらわれただとぅう!?」
「ああ三娘よ。今頃張飛に体を弄ばれて泣いているに違いない!」
「あいつらこの漢の丞相である曹孟徳をなめくさってやがる」
「どうする孟徳よ?」
曹操さまの目に光が宿り、全軍に命令です!
「決まっておろう。かねてよりの計画通り天下統一のため“南進”を開始する! 第二目標は“三娘を取り戻し、張飛を殺す”だ!」
「「「えい! えい! おうおう!!」」」
──となりまして、今現在は曹操軍百万に追われて民を引き連れた劉備一家は荊州の半ばで瓦解。軍師の孔明さまの指示で益徳さんのもう一人の義兄である雲長さんは援軍を求めに行き、孔明さまも別方向に援軍を求めに行きました。
頼りになる趙子竜さんも兄者さんの二人の奥様も見失い、今は益徳さん、兄者さん、他の見知った家臣さんたちで隠れるように長坂坡にて夜営をしておりました。
「ムー。ムー。ムー」
「まったく。こんな状況でも益徳さんは寝れちゃうんだから」
私は益徳さんとの間にできた子供二人を寝かしつけながら、呆れたように呟きました。
「みんな怖がってるけど、私は全然怖くない。ううん。いざとなったら曹軍に行けばいいなんて思ってない。益徳さんと一緒にいると安心というか……」
その時、益徳さんがガバッと跳ね起きました。そしてテントの外を確認します。てかホントに寝てたの? すごく動きが素早いんですけど?
「夜襲だ。三娘、従者を起こして子どもと馬車に乗れ。オイラは兄者を起こす」
「はい」
子どもたちを馬車に乗せ、従者を起こすと戦々恐々。大変にビビっております。そこに兄者さんも焦りながらやって来ました。
「お、奥様。早く逃げないと」
「そ、そうだ三娘。早く馬車を出せ! なにをのんびりしてやがる」
とやってますと、鎧を着た益徳さんが馬に股がって騎馬武者スタイル。カッコいい。
「のんびりなんてしてねぇよ兄者」
「だ、だって他の連中は逃げちまったぞ?」
「当たり前だよ。オイラ殿だもん」
「はぁ!? な、なんで殿? 普通俺を先に逃がすだろうが?」
「兄者が勘違いしてこっちに来たんだろう。今から別な馬車を探しても間に合わねぇ。三娘と共に馬車に乗ってくれ」
「ええええええーー!!」
まぁ! 兄者さんの叫び声で曹軍に位置を教えてしまいましたわ!
私と兄者さんが馬車に乗り込むと、馬蹄と鬨の声が上がりました。
「あっちだ!」
「劉備を探せ!」
「きっと近くにいるぞ!」
わあわあと曹軍が旗をなびかせ、鳴り物を鳴らしながらこちらに近づいてきます!
従者は馬に鞭打って、馬車の中ではゲロ吐きそうなくらい兄者さんがブルブル震えてます。
その後方に益徳さんが、自慢の蛇矛を水平に構えて立ち入り禁止の意思表示。カッコい~、痺れるぅ!
「豪華な馬車だ! 高貴な人だ!」
「守る衛士は強面の武将だ!」
「関羽か趙雲に違いない」
それを聞いて、益徳さんは馬の上でズッコケました。
「なんで義兄と子竜の名前が出てくるんだよ!」
「誰だ、お前は!?」
「ええい! 遠からんものは音に聞け! 近くに寄って目にも見よ! 我こそは劉備一家にその人ありと言われた燕人張飛だ!」
決まったーーーっ!! 名乗りもポーズも!
完全に決まったでしょ。劉備一家。いや、この漢において今や益徳さん以上の武勇を持った人はいないハズよ。
ん? なんか、シーンとしてるんですけど?
「……張飛だ」
「一人で一万の兵に匹敵すると言われてる……」
「関羽が認めた男だ」
「逃げろーーーッ!!」
ホッ。よかった。やっぱり有名だったのね。兵士たちは蜘蛛の子を散らすように逃げてったわ。ざまぁ! まさにざまぁですわ!
益徳さんを見てみると……。照れてる。かーわいい。私がデレちゃうわーー。今すぐ飛び付いてキスしたい。
「おいおい、今のうちに逃げるぞ」
あら兄者さんたら現実的。私たちは馬を急がせて全速力!
ですが悲しいかな、前には逃げ惑う民衆の為に減速せざるを得ません。するとキチンと訓練された千人ほどの兵を引き連れた一隊が迫ってくるではありませんか。
兵を率いる将はお世話になった劉表さんのところにいた文聘さんだわ! 忠義ある勇猛な人。まさか助けに来てくれたのかしら!?
益徳さんが文聘さんに問いかけます。
「なんでぇ文聘じゃねぇか」
「ああそうさ。やっと追い付いた。劉備どのはいるかな?」
「ああ。ここにいる。荊州兵を連れて助けに来てくれたのか?」
「ふふ。まさか。俺は丞相閣下に乞われて配下となった。お前たちを捕縛にきたのさ」
「なんだ。だったら帰んな。顔馴染みを討ちたかねぇからよ」
「実はな張飛。俺は一度お前さんと槍を交えてみたかったんだ!」
そういうと文聘さんは益徳さんに襲いかかって来ました!
一合目。文聘さんは真っ直ぐに槍を突いてきます。それを益徳さんは横薙ぎに振り払うと槍は弾かれ回転して地面に落ちました。あっけない……。
二合目? ではないか。相手は武器持ってないですもん。益徳さんの矛は先ほど振り払った戻り際に文聘さんの横腹を打って落馬させました。勝ちですわね!
「殺しゃしねぇよ。恩があるからな。だが次来たら分からねぇぞ?」
うーん、控えめに言ってもカッコ良すぎ。さすが、さすが、さーすがぁぁあ!
「分かった。益徳。早く逃げよう」
余韻に浸る間もなく兄者さんの命令でその場からとっとと離れます。しかし、敵は次から次に迫ってきます。
次に来たのは三隊。率いるのは……。
「お前が張飛か! 曹彰見参!」
「三娘いるのか!? 覇兄ちゃんが助けに来たぞ!」
「尚兄ちゃんもいるぞ!」
キャー! 懐かしい! 曹彰兄ちゃんは曹操さまのご子息。夏侯覇兄ちゃんと尚兄ちゃんは従兄でみんなには昔よく遊んで貰ったな~。
私、一族の末っ娘だったからすごく可愛がられたもんね。あの三人も今では立派な武将なのね。そりゃ私も二人も子が出来るわけだ。
「くぅぅううう! 張飛! 憎っくき仇!」
「あんなチビッこい三娘がクソデカいお前に抱かれたと思うと……」
「三娘を返せ! この悪鬼め!!」
んっもう! みんな従妹好なんだから! 私だってもう大人なんですからね!?
「なんでぇ、お前ら三娘の従兄だろ。若ェんだ。怪我しないうちにとっとと帰ンな」
あうあう。益徳さまったら。一応武勇で音に聞こえた三人を子どもを諭すように。カッコいい。たまらん。
「問答無用! この曹彰、勝負を所望!」
「夏侯覇の槍をくらえ!」
「三人まとめていくぞ!!」
え!! 三人!? 彰兄ちゃんも覇兄ちゃんも尚兄ちゃんも恥も外聞もない本気じゃない!?
ビシィッ!!
あ、あっけない。益徳さんの矛の横薙ぎで三人とも一撃落馬。しかも柄尻だから誰も怪我してない。
三隊の兵士たちは、主人を助けるために一時の混乱。しかも大人数だから道も塞がれて次が来ないわね。
「逃げよう、逃げよう」
兄者さん、もはやヘタレ! 一応群雄よね?
民たちの大渋滞でなかなか前に進めませんけど、道も狭いので後ろの追っ手もなかなかこちらに来れない感じ。
そうこうしてますと、目の前が開けてその先には大きな川。それにかけられた一本橋。橋にかかる傍らの石碑には『長坂橋』の文字。
その時、空気が張りつめます。後ろの曹軍の兵士も左右に避けて、その後方から精兵が隊列を揃えてやって参ります。
「来やがったか。こりゃしくじれん。三娘、兄者、橋を急いで渡るんだ」
「なんで俺の扱いが三娘の後なんだよ!」
あら兄者さんたら、そこにこだわります? とはいえ、この空気は私も感じる……。今までとは違う英傑だわ。
すると遠目に赤鎧の武者が二人。間違いないわ! そしてめっちゃ怒ってる!
「張飛! この鬼畜野郎!」
「三娘! 大丈夫かぁ!!」
「来たか、夏侯惇に夏侯淵。許にいた際は世話になったな」
益徳さぁーん。軽口言ってる暇じゃないですよぅ。さすがの益徳さんも族父さまたち二人はちょっと無理じゃないかしらぁ?
「世話になったお返しがこれか! 一族の末子を奪いやがって!」
「あーマジやべぇ。惇兄俺に殺らせてくれ」
「お前さんたち、三娘の族父なんだろう? だったらオイラにとっても義族父ってことだな」
「「な、なにぃ!?」」
わぁ! 挑発! 益徳さんにとってはフランクに話しかけてるみたいだけど、族父さんたちには火に油。二人とも槍をしごきだしたぁーっ!
「「お前だけは絶対に殺す!」」
ヤバい! 私の背筋に冷たいものが流れる。
でも益徳さんは、槍をくるんと回して柄尻を向けましたの。これは殺す意思がないという意味ですわ。
でも惇族父さまは苦笑なさいました。
「この夏侯元譲も嘗められたものだな! いくぞ!」
「惇兄! 独り占めはズルいぞ!」
ああ、私の大事な人たちが争ってる! と、止めないと!
でも益徳さんは矛で族父さまたちの槍をあしらいながら私のほうを振り返る。
「三娘。今のうちに橋を渡りきっちまえ。後から行くからよ!」
え? そのセリフ、フラグ? ダメよ、益徳さん! 死んじゃダメ!
橋を渡って馬車の後ろの幕を上げて益徳さんの姿を探すと、益徳さんは橋の中央で矛を水平に構えていた。
ウソ! 族父さまたちは?
族父さまたちは馬から落ちてのびていた。すごーい。益徳さんったら一人で勝っちゃったんだわ! しかも柄尻で。さすが。たまらんたまらん。
「三娘。早く後ろの幕を閉めろ!」
「ええ?」
兄者さんに言われて幕を閉めようとすると、橋の向こうから懐かしい声だった。
「三娘」
その声に兄者さんは馬車の中で伏せた。んっもう。臆病なんだから。
でもこの声は──。
「迎えに来たぞ。さぁおいで」
「フン。とうとう大将のお出ましかよ」
「うるさい、下郎! 控えよ! 余は汝の如き山賊の輩が口を利けるわけもない漢の丞相であるぞ!」
「なんでぇ。許都にいたときは話もしたじゃねぇか」
曹操さまだわ。丞相自ら先頭に出てきて私を呼ぶなんて本気だわ。
「三娘、三娘や。さぁ都に帰ろう。こんな山賊の元で怖かっただろう」
私は馬車の後部にある幕を上げる。そこには月明かりに照らされて、馬上で微笑みながら手を差し伸べる曹操さま。彼と目があった。そして他の夏侯一族とも。百万の軍勢にどよめきが走る。
「おのれ、悪鬼張飛めェ! この夏侯傑の槍の錆としてくれる!」
「待って!」
私は叫ぶ。飛び出したのは従兄の傑兄ちゃんだ。橋の上にいる益徳さんに槍を向けて突進の構え。
しかし、益徳さんは矛で馬の頭を打つと、傑兄ちゃんは馬ごと川に音を立てて落ちてしまった。
それに曹操さまは歯軋りをした。
「もはや許せん! 余を裏切り、三娘を奪ったお前たちは不倶戴天の敵! 劉備一家を鏖殺にせねば気が収まらん!」
「待ってください!」
私は長坂橋の中央まで走る。益徳さんのいるところまで。息を切らせながら立ち尽くす私を、みんな待っていてくれた。
「三娘。張飛に誑かされたんだね。お前は夏侯の娘だ。一族を裏切るわけがない。ましてや敵の妻にされるなど不本意で毎日泣いていたんだろう?」
曹操さまは優しく問う。しかし私は叫んだ。
「違います! 私……、私は……」
声がつまる。なぜか涙が出た。曹操さまや夏侯一族のみんなは、私をただ一心に信じている。でも私はこんな人たちの元を去った。
それは益徳さんの外見に魅力を感じたのもある。でも兄者さんたち率いる劉備一家のみんなと仲良く暮らしてる間に──。
こんな平和な世の中もいいなって、思ったんだ。
私は涙を流して立っていた。そんな私を心配そうに益徳さんは馬上から声をかけてくれた。
「三娘。言いたくなかったら、無理をしなくてもいいんだよ?」
その優しい言葉に私は首を横に振る。私が今からいう言葉は、一族を裏切る言葉。一族と決別する言葉なのだ。
私はもう、夏侯一族の末娘じゃない。
「私は……、夏侯三娘は、張飛益徳の妻です! 張益徳を深く愛しているのです!」
そして、馬上にいる益徳さんに手を伸ばす。益徳さんは、その手を優しく引いて、馬上へと乗せてくれた。その勢いで私は彼にキスをした。
曹軍百万がざわめく。
曹操さまは、表情を変えて叫んだ。もう優しい族父さまはそこにはいなかった。
「三娘! この裏切りものめ! 私の元を去るというのか! 張邈! 陳宮! 劉備! 三娘! みんなみんな私から去って行く! 信じれば裏切る! 裏切りものは容赦はしない!」
ああ。やはり。曹操さまは裏切られることに極度に反応する。親友だった張邈さん、信頼していた陳宮さん、信用していたのに去ってしまった兄者さん。そして私……。
きっときっと大嫌いになってしまったんだわ──。
「俺はアンタを嫌いじゃないぜ。孟徳どん」
「な。り、劉備か?」
私と益徳さんが振り返ると、馬車にキザったらしく寄りかかっている兄者さん。さっきまで百万の軍勢に震えてたのに、どうして出てきたのかしら?
「貴様、いけしゃあしゃあと。まだこの辺でのんびりしてたのか。逃げるのが得意なお前はみんなを置いてさっさとどこかに姿を隠したかと思ったよ」
「なぁーに。かつての親友と話したいと思ってここで待ってたのさ」
その言葉に曹操さまは、怒りに身を震わせました。
「かつての親友だとォ!?」
「俺は知ってるよ。陳宮を処刑するときに誰よりも慟哭した孟徳どんを。張邈の末路を聞いて涙したアンタを。俺が去ったのを知って大泣きしたと聞いたよ」
「だったらどうした!?」
「なぁ孟徳どん。アンタの情が厚いのは分かる。だがその反面恐ろしい。決して裏切りものを許さない。その恐怖にみんな従うだけだ。そして裏切ったものは、ずっと逃げ続けなくちゃならねぇ」
「当たり前よ! この曹孟徳から離れれば死あるのみだ!」
「そうかよ。じゃあ三娘の裏切りは三族誅殺か? 夏侯惇や夏侯淵も殺すのか!?」
「な、なにぃ!?」
「アンタは、董承の暗殺計画に腹を立てて、その一族を皆殺しにした! 皇帝陛下の妻である董貴妃も連座で殺した! 貴妃は妊娠中だったというのに! この逆賊め! だったら裏切りものを殺せ! 例外なく腹心の夏侯惇も夏侯淵も連座で殺せよ! だからアンタの回りには人がいなくなるんだ! だから裏切られるんだ!」
「こいつ、言わせておけば!」
どうして!? 兄者さんは曹操さまを煽るようなことを言うの!? いくら道が一本橋しかなくとも、兵士に泳いで川を渡るように命じれば一溜りもないわ?
さっきまで臆病だったのに、どうしてこんなに饒舌なのぉ!?
曹操さまは指揮棒を振り上げた。まずい! あの棒が振り下ろされれば全軍突撃の合図だわ!
益徳さんの私を抱く腕に力が入ることが分かった。
「三娘。死ぬときは一緒だ」
「ええ、益徳さん。どこまでもついて行きますわ」
しかし曹操さまは指揮棒を下げて笑い出す。
「はははははははは」
一同ぽかーんですわ。いったいなにがおかしいんですの?
「劉備!」
「なんだ!」
「臆病もののお前が私を罵声で挑発か。分かっている。これは“孔明の罠”であろう」
それに兄者さんは、“分かられたか”といった表情とゼスチャーをした。
「兵法に“令半濟而撃之利”だ! 関羽の姿が見えない。孔明の指示で、その辺に兵を伏せていんのだろう。三娘をここに配置し、お前が罵声を飛ばす。余が冷静を失い突撃すれば川の中央に矢の雨を降らせ我が軍に致命的打撃を与える……であろう。たわけ! その手に乗るか!」
「ほー。だったらどうするんだい?」
「退かせて貰おう。さっきの罵声で兵が動揺しておる。一時軍の立て直しだ」
曹操さまが手を振り上げると軍勢は一斉に回れ右をする。曹操さまを先に逃がした上で、軍勢は後方に退いていった。
曹操さまは、兵法を誰よりも深く学び、危険を誰よりも回避する術をもっている。それがために兄者さんの挑発を伏兵がいると考えた。
兄者さんは曹操さまのその能力を逆手に取って、伏兵がいるように見せかけたんだわ。
まるで狐と狸の化かし合いね!
私と益徳さんは急いで橋を渡って兄者さんの元へ。
「すごいすごい、兄者さん! 私、見直しちゃいました!」
「そうかいそうかい」
「あの言葉は兄者さんの計略だったんですね! 百万の軍勢を追い返すなんて、カッコいいですぅ!」
「だろう。益徳よ」
「なんでぇ兄者」
「ちょっと手を引いて馬車に入れて貰えるか? 腰が抜けちまった」
あらら。やっぱり怖かったのね。
それから私たちは橋の上に油を撒いて火をつけて焼き落としました。敵の進行を少しでも遅らせるためです。
その後、関羽さん、孔明さまの援軍と合流してようやく一息。そのまま夏口へと落ち延び、軍勢をまとめて一応対抗できる形になりました。
それから孫呉と同盟を結んで、さらに南進してくる曹操さまを敗走させて荊州に落ち着くのですが、その話はまた次回と致しましょう。
お読みくださりありがとうございます!
「張飛と嫁」シリーズ二作目です。
長坂の戦いは、張飛の活躍で曹操軍を追い返しましたのは史実です。
劉備は女房、子どもを置き去りにしてさっさと逃げてしまい、実際にはここにはいませんが、お話なのでね。許してください。
しかし劉備はここで妻を失い、娘は曹純に連れていかれてしまいます。
ですが、張飛は一人で曹操軍を追い返した割に、妻も子どもも失っていないんですよね……。この差!
片方は逃げて、片方は戦っても女房子ども無事! さすが張飛カッコいい!!
二人の子どもは張苞と張紹です。まだ小さいので活躍はなしでごめんなさい。これから活躍するかも?
面白かったら☆☆☆☆☆で応援お願いいたします!
ヽ(〃´∀`〃)ノ