鬱
「はぁ。クラブめんどくせぇんだよ。あ゛ぁぁ」
僕は叫びながら鞄を床に投げ捨て布団に大の字になった。なんだよほんとに僕だけトレーニングやり直しとか。僕顧問に嫌われてるだろ。あ゛ぁぁぁやめたーい。辞めたいのになんでかやめさしてもらえないし。やっぱ嫌われてるんだろうなぁーあいつには。辞めたいのにお前がいてくれてるからこのクラブがあるってただのいじられ役じゃねぇか。なんなの?
僕はカバンの中からレポートと教科書を出した。
もう人と会うのが怖い。僕は扉を完全に閉め切った。自分の部屋だからまあ母さんこねぇだろ。一応タンスずらしとくか。
扉はタンスに阻まれて全く身動きが取れなくなっている。僕は囲まれた安心感からか少しため息をついた。
カッ、カッ、カッ、カッ、カッ
僕の耳には時計の音しか入ってこなかった。そこから少しは安心できていたがレポートが完成に進むにつれて、つまり時間が経つにつれて体を縛られているような感覚になって来た。
少しずつ息が荒くなって来ている。そのことを伝えるかのように体の毛穴という毛穴から汗がダラダラと出て来た。
なんだよ児相行った意味なかったじゃねぇか。先生は僕にだけ……。あれ? これ……
視界が壊れた万華鏡のようにぼやけた。実際に壊れた万華鏡見たことないけど。
これ、涙か。
薬を飲もうと思ったが薬なんて効きやしない。一応飲むだけ飲んでもう寝るか。こんな悪循環続いて僕はどうなっていくんだろう。
僕は布団に入って毛布にくるまった。まあねれやしないけど。
友達に誘われてクラブ入ったけど友達はクラブの全員と仲良くなってて……だめだこれ以上考えないようにしよう。
僕は羊を数えた。
次の日
ピピピピピ ピピピピピ
寝ている僕に悪魔のうめき声が鳴り響く。恐怖感から身をすくめる。まるで負け犬のように。
リビングに行こうとするが昨日タンスをずらしていたことに気がついた。
リビングについていつも通りパンを食べようとする。そしていつも通り食べられない。普通だったらありえないルーティーンだ。もしもこれを動画にしてネットにあげてたら有名になるか炎上するかのどっちだろうな。まあそんなこと考えてても意味ないだけなんだろうけど。
ああ今日も学校に行かないと。そういえばここ一週間母さんに会ってないな。まあ朝から夜まで仕事で働いてくれてるしありがたいんだけど。
僕は震えながら学校に向かった。毎日これを繰り返してると疲れるな。
学校には誰かが何十にも結界を張っているようでクラスの中心にいくにつれて呼吸が速くなっている。僕の足は一歩、また一歩とすこしずつ遅くなっていった。そしてクラスに入ると友達が話しかけて来た。
「おお、昨日顧問に褒められてたじゃん。お前がいてくれるからこのクラブがある……だったっけ。お前すごいなぁ」
こいつは僕のことをなにも考えずに話して来た。仲良いから縁は切りたくないけど……。一応僕は「うん」とだけ言って自分の席に着いた。
そして少しづつだけども時は進んでいき、とうとうクラブ活動の時間になった。と言うかなってしまった。
僕は校庭という悪魔がいる土地へと向かった。僕はまるで勇者のように、心強いような顔を意識して進んだ。
「おおーお前いつも変顔してくれてありがとな」
僕は危うく顧問に飛び掛かるところだった。だが僕の周りには顧問を守る猛獣がたくさんいる。合理的に考えて無理だろう。
苦しい、苦しい。
僕は途中からそのことしか考えなくなってしまった。なぜか僕だけ休憩がない。なぜかじゃない。嫌われているからだ。
その日も地獄の最下層をも超える地獄を味わうと、最後に大会の出場者が発表されるという。まあ僕が入っているわけがない。僕は大会に行きそうな部員に対する褒め言葉を考えていた。よく考えればこの時が一番苦しかった。理由は出場者の僕が選ばれからだ。
「お前は今までよく頑張った。頑張ってくれ」
顧問は僕に向かって言ってきた。顧問の目は本物だった。
「今まですまなかった。だが確信した。お前ならいけると」
僕は許せなかった。この顧問を。だがそれと同時に信用もした。文字で伝えるのは難しいが。
そして出場者が全員発表された。周りからも行くだろうと思われていた僕の友達は僕に枠を取られて落ちた。その友達の顔は憎しみに満ちていた。
僕は遅くまで残って練習をすることにした。校庭を1人で走っているのはすごく楽しかった。というかこの時初めて走るのが楽しいと実感した。
辺りも真っ暗になった頃、月明かりに照らされて一人の人が僕に近づいて来た。
近づいてみると友達だった。
「お前ウゼェんだよ」
突然友達が僕に飛びかかって来た。
「俺の引き立て役になるかと思って呼んだら、真面目なフリして練習頑張っちゃって」
僕はなにが起きているのかわからなかった。ただ殴られていることだけがわかった。
「それで俺の枠奪ってなにがしてぇんだよ」
友達は声を荒げて僕を殴って来た。
目を開けると青空が広がっていた。
「あ゛っ」
立ち上がると身体中に電気が流れるような激痛が走った。
「きみ!」
すると警備員の人が走って来て僕を担いで保健室に連れて行ってくれた。
日めくりカレンダーは一日変わっていた。僕は保健室で昨日あったことを全て話した。
その友達は今日学校に来ていなかったらしい。親に電話すると朝から見ていないとのことで警察に捜索届けを出しているらしい。
僕は上から周りを眺めようと屋上にいかせてもらった。すると人が立っていた。あの帽子、友達だ!
僕は痛みを忘れ走ったが間に合わなかった。
その友達はすでに僕の視界から消えていて、下を眺めると赤い血に染まった台車に友達が乗っていた。僕は膝から崩れ落ちた。
僕は落ちてしまおうと思った。ゆういつの心の支えを失ったためか、元から嫌われていたことに気がついたためか。
だがすぐにその気はひいた。下では大騒ぎになっていた。友達は僕に見せて死にたかったのかたまたま会ったのかは分からない。だけども友達が罪悪感に襲われていたのは確かだ。それに対して僕はすごく申し訳なかった。
僕がそんなことを考えているうちに救急車が来た。四階から落ちたんだ。ひとたまりもない。救急隊員は急ぐ様子もなく丁寧に遺体を取り扱った。そこに誠意が見えた。
「あいつ、親に殺されかけたんだって」
急に顧問の声がした。
「普段も親から虐待されてたらしくて、やっぱあいつもしんどかったんだなぁって。申し訳ない。お前にも申し訳ないと思ってる。こんなに辛い思いさせてしまって……」
僕はなにも言わなかった。言えなかった。