~ さよなら ~
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「クッキー、クッキー…クッキー!」
「佳世…」
「クッキーがいなくなるなんて嫌だよぉ!…」
「………」
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ボクは目を覚ました。
あれ?あんなに苦しかったのに、今は全然平気だよ。
カヨちゃんの声が聞こえる。凄く泣いている。悲しい匂いはしないけど…
ボクが顔をペロペロして慰めてあげなくちゃ…
でもおかしいなぁ?
身体が鎖に繋がれて、宙に浮いている。
カヨちゃんはボクの下にいる。
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「ご臨終です。」
「………」
「クッキー!クッキー!」
「…クッキーは天国に行ったんだよ。もう苦しまなくてすむから…」
「クッキー…クッキー…」
「手を尽くして頂いてありがとうございました。」
「いいえ…御愁傷様です。」
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カヨちゃんは泣きながら、ボク?の身体に抱きついている。
ボクはここにいるのに…なんでわかってくれないの?
おとうさんもおかあさんも泣いている。
ボクがみんなをペロペロしてあげたいのに…
誰もボクに気づいてくれない。
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「佳世、もう寝なさい。」
「嫌だ。今晩はクッキーと一緒に寝るの!ここにいるの!」
「…わかったから…」
「明日になったらクッキーいなくなっちゃうの?」
「クッキーは明日、お骨になって帰ってくるよ」
「……」
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お空に行かなきゃいけない気がする。でも鎖があるから翔べないよ。
ボクはカヨちゃん達と一緒にお家に帰った。
でも誰もボクに呼びかけてくれない。
カヨちゃんはまだ凄く泣いている。
ボクはどうしていいのかわからない。ペロペロしたくてもカヨちゃんに近づけない。
そういえばお家に帰ったのにご飯がないよ。
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「クッキーはちゃんと天国に行けたかな?」
「行けたよ。とても良い子だったから。」
「もう苦しくないのかな?」
「うん、もう苦しくないよ。」
「クッキーにご飯とオヤツあげるね。」
「そうだね。クッキーは食いしん坊だったから喜んでるよ、きっと…」
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カヨちゃん達は、大きなお家の中のボクのお家があった所に白い箱を置いた。
その箱の前に、ボクの写真や大好きだったご飯やオヤツを置いた。
カヨちゃんはまだ泣いている。
ボクはここにいるのに、なんでわかってくれないの。
一杯撫で撫でしてほしいのに。
一杯遊んでほしいのに。
もうすぐボクはお空に行かなきゃならないのに…
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「明日から学校行ける?」
「うん…まだ行きたくない…」
「佳世があまり悲しんでいると、クッキーが安心して天国に行けないよ。」
「天国に行けないの?」
「クッキーは佳世が嬉しそうだとしっぽ、たくさんふっていたでしょう?悲しそうだと近くで佳世の顔を舐めてくれたじゃない。」
「うん…」
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ボクは毎日、カヨちゃんの側にいた。
今はもう大好きなご飯もオヤツも食べられない。
好きだったお散歩にも空き地にも、もう連れて行ってもらえない。
お空に行かなくちゃいけないような気がするのだけど…
それでもいつも悲しそうなカヨちゃんの側にいた。
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「今日、学校から連絡があって…」
「どうした?」
「いつもはおとなしい佳世が、お友達の顔を泣き叫びながら叩いたんだって」
「何かあったのか?」
「お友達にクッキーが死んだ事をからかわれたみたい。」
「…それは相手が悪い。」
「そうね…特にケガとかはないらしいから。」
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カヨちゃん、ボクはいつも側にいるよ。だからそんなに悲しそうにしないで。
ボクはやっぱりお空に行かなければならないような気がする、でも…
でもカヨちゃんの側にいたい。できたらペロペロしてあげたい。
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「クッキーじゃなきゃ、嫌」
「でも、クッキーの友達のジョンの子どもだから」
「クッキーじゃないもん。」
「でも、見に行くだけでも見に行こうよ。」
「………」
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ある日、ボクのお家がまたお庭と大きいお家の中に作られた。
ボクのお家?
そこには小さな女の子がいた。
カヨちゃんがその子を嬉しそうに抱っこしている。
そこはボクの場所だぞ。
カヨちゃんはその子を「モコ」と呼んだ。
カヨちゃん、ボクはここにいるのに…
なんでボクじゃなくて、その子の頭を撫でているの?
ボクはお空に行かなくてはならないのに…
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「最初は気乗りしなかったみたいだけど…」
「ああ、クッキーは佳世にとって弟みたいなものだったからな。」
「でもモコが来てくれて、ようやく佳世にも笑顔が戻ったわね。」
「そうだな。」
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カヨちゃんが「モコ」と呼ぶその女の子は、いつもボクと一緒に行っていた空き地に行った。
ボクはとてもさみしい。
ボクの場所を全部とって、カヨちゃんと一緒にいるなんて…
でもカヨちゃんはとても嬉しそうだ。
ボクが宙に浮かんだ時から悲しそうだったカヨちゃんはとても元気になった。
ボクはお空に行かなくてはならない…そんな気持ちが、ますます強くなってきたけど、まだ鎖はほどけない。
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「クッキーにもあげるの?」
「うん、クッキーは食いしん坊だから、天国に行ってもお腹すくかもしれないから。」
「クッキー、そのオヤツ大好きだったものね。」
「うん。」
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ボクはご飯もオヤツも食べられない。でもお腹はすかない…
カヨちゃんは、それでもボクの写真の前に毎日ご飯とオヤツを置いてくれる。
お空に行かなければならないような気がする。
カヨちゃんを放っておく事は嫌なのに…
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「クッキーが亡くなってからもう半年だね。」
「クッキーはもう天国に着いたのかな?」
「そうね、もうどこかに生まれかわっているかもね。」
「うまれかわるの?」
「…そういう話もあるのよ。今度は病気なんてしない元気な身体で生まれてこれるといいね。」
「うん、そうだったらいいな。」
「ワン、ワン!」
「モコが空に向かって吠えてるよ。」
… … … … … … … … … …
それまでボクを縛りつけていた鎖がほどけた。
「後は大丈夫だから任せて。」
そう言ったんだね。
ボクの代わりにカヨちゃんを一人占めにするキミは好きじゃなかったけど…
カヨちゃんに笑顔を取り戻してくれたキミは好きだ。
それにジョンくんの子どもだから許すよ。
ボクには行くところがある。
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「クッキーだ!」
「えっ、どこに?」
「今、クッキーが嬉しそうにお空に駆けて行った。」
「………」
… … … … … … … … … …
ボクは自由になった身体で暫くカヨちゃんの周りを翔んだ。
カヨちゃん、ありがとう。ボクはとても幸せだったよ。
モコも幸せにしてあげてね。
そして、ボクは天国に向かって翔び上がった。
~ さよなら ~
愛犬が亡くなるのはとても悲しい事です。
その子が忘れられなくてもう飼わない方もいます。
寂しくてまた飼う方もいます。
生きているうちに愛情を注げば、自分はどちらでも良いのではないか…と思っています。