~ ボクとカヨちゃん ~
当時を思いだし、ちょっと涙しながら書きました。
そう思っていてくれていたのなら、嬉しいな…飼い主の淡い願望です。
ボクはね。
小さいころにお母さんと兄妹たちとはなされて、小さいお家に入れられたんだ。
毎日いろんな人がボクのお家の前にやって来た。
「可愛い~」
大きい人や小さい人がボクを見ていた。
でもね、段々お家が狭くなっちゃったんだ。
前はお家の中で跳ねたりも出来たのに、今はぐるりとまわる位しか出来ない。
それにね、あまりお外に出してもらえなくなっちゃった。
毎日いっぱい人が来るのに、ボクに「可愛い」と言ってくれる人はあまりいなくなっちゃった。
ある日ね、小さな女の子がボクのお家の前に来た。
女の子はボクのお家に指を入れて、ボクの頭を撫でてくれた。
それから毎日その女の子はボクのお家にやって来た。
… … … … … … … … … …
「この子がいい!」
「でも、もうだいぶ大きいよ。月齢9ヶ月だって。」
「でもこの子がいいの!」
「別に血統書付きじゃなくてもいいんだけどな。」
「この子にするの!」
「わかったよ。佳世がいいなら、この子にするか。」
… … … … … … … … … …
ボクはね、それからその女の子に抱っこされて、揺れる大きな箱に乗せられたんだ。
箱から降りた後、すごく大きなお家に入ったけど、女の子はずっとボクを抱っこしたままだった。
抱っこされて温かくてボクは眠くなっちゃった。
… … … … … … … … … …
「あら、佳世ったら、抱っこしたまま眠っちゃったわね。」
「前から欲しがっていたからな。」
「名前をつけないとな。」
「それは佳世に任せましょう。」
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ボクにはお家が2つも出来た。お外と大きなお家の中にもう1つ。
最初にお外に出た時、ボクは歩けなかった。
前のお家にいる時、あまりお外に出してもらえなかったからかな?
すると、大きな人が凄く心配そうな顔で、ボクを抱っこした。
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「なんで歩けないのかしら…まさか病気かしら?」
… … … … … … … … … …
もう一度大きい人がボクを下におろした。
ふらふらしながらも、ボクはようやく歩く事が出来た。
歩き方を忘れていたのかな?
そしてボクはお外のお家とその周りを嗅いで回った。
少し安心したボクは、新しい外のお家に潜りこんだ。
… … … … … … … … … …
「最初、歩けなかったのよ。病気かと思っちゃったわ。」
「あんなに狭い檻に入れられて、あまり散歩とかさせてもらえなかったんじゃないか?」
「あのお店、あまり環境良さそうじゃなかったもんね。」
「クッキー歩けなかったの?」
「ううん、今は大丈夫よ。」
… … … … … … … … … …
「クッキー」
女の子がそう呼んだ。
何度もそうやって呼ばれるから、ボクはクッキーなのだろう。
そして、女の子はカヨちゃんと呼ばれているからカヨちゃんなんだ。
カヨちゃんは小さな箱を背中につけて、毎日どこかに行ってしまう。
でも、行く時も帰って来た時も必ずボクの頭を撫でてくれる。
毎日お散歩にも連れて行ってくれる。
ボクはたくさんお外の世界の匂いを嗅いで、色々な事を知った。
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「クッキーね、お散歩の時凄く嬉しそうなんだよ。」
「そうね。お散歩って言うだけでしっぽをたくさん振るもんね。」
「今度、近くの空き地に連れて行くか?」
「空き地?」
「他のワンちゃん達が一杯いるよ。」
「行く、行きたい。クッキーにもたくさんお友達できるよね。」
「そうだね。」
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ボクにたくさんお友達が出来た。
いつもお空が赤くなる頃、お散歩でカヨちゃんが連れて行ってくれる空き地でだ。
ジョンくんも、ゆずちゃんも走るのが早い。
ボクも負けないように頑張って走る。
楽しいなぁ。
前にいたお家では、ずっとお家の中で、お友達もいなかった。
それに他の大きい人や小さい人もボクにオヤツをくれたり、頭を撫でてくれる。
大きいお家に帰るとごはんが待っている。
カヨちゃんに抱っこされて眠るのは、お母さんに抱っこされているみたいで温かい。
… … … … … … … … … …
「クッキー…ただいま…」
「今日ね…お友達にイジワルされたの…」
… … … … … … … … … …
カヨちゃんがいつものように帰って来た。
カヨちゃんから悲しい匂いがする。
ボクはカヨちゃんの顔を舐めた。
ボクがカヨちゃんにしてあげられる事は、側にいてたくさん舐めてあげる事位だけど…
カヨちゃんがギュッとボクを抱きしめる。
… … … … … … … … … …
「クッキー…」
「ありがとう。クッキーがいるから元気出たよ。」
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カヨちゃんから、悲しい匂いが少しなくなった。
ボクはカヨちゃんが大好きだ。
悲しい匂いは嗅ぎたくないな。
…そして楽しい毎日はずっと続くんだとボクは思っていた。
… … … … … … … … … …
「テンカンですね。」
「テンカン?」
「先天性のテンカンです。薬を飲ませて様子をみてください。」
「先天性ですか…なんで…」
「原因ははっきりしませんが…近親交配を繰り返すと出る事が多いとも言われています。」
… … … … … … … … … …
ボクはある日、急に苦しくなった。
頭がぐるぐるして、口からブクブクが出てきた。
立っている事が出来なくなって、お庭に横になってしまった。
気がつくと、おかあさんが来て、慌てて、ボクを大きな箱に乗せ、どこかに連れて行った。
カヨちゃんがもうすぐ帰って来るのに。
… … … … … … … … … …
「テンカンなんだって。」
「テンカン…何が原因だ?」
「近親交配の繰り返しで出る事が多いそうよ。」
「…クッキーは血統書付きだったな…」
「うん…」
「治らないのか?」
「薬で症状を押さえるだけしか出来ないみたい。」
「佳世が悲しむな。」
「そうね…」
… … … … … … … … … …
ボクはあれからずっと元気だ。
毎日のお散歩もカヨちゃんに抱っこされるのも撫でられるのも、とても嬉しい。
ジョンくんや、ゆずちゃん、メイちゃんや、ポン太くん…他のたくさんの友達と空き地を走り回るのも楽しい。
… … … … … … … … … …
「最近は発作出ないな。」
「うん、このまま治ってくれたらいいのに…」
「クッキー、もう病院行かない?」
「そうね、お薬だけは貰いに行くけど。」
「でもクッキー、凄く元気だよ。」
… … … … … … … … … …
頭がぐるぐるする。お口からブクブクが出ている。
苦しいよ。カヨちゃん、ボクを抱っこして、温かくしてよ。
… … … … … … … … … …
「どうだって?」
「うん…発症の間隔が段々短くなってきている…このままずっと続くようなら、最後は脳がダメになるって言われたわ。」
「ダメになる?」
「うん…」
「そんな、まだクッキーは2歳だぞ。」
「……」
… … … … … … … … … …
またボクはお庭に倒れてしまった。
カヨちゃんといっぱい遊びたいのに…
最近は味の違うオヤツをよく食べるようになった。
あれも美味しいんだけどね………
………