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南発券の謎  作者: やまのしか
10/19

南発券の謎⑩・・・岩井公邸

上海同文書院は現在の愛知大学の前身である。


その卒業生という事で、岩井英一について、かつて愛知大学が資料を作っていた。


それは、元外務省嘱託の日中友好会理事、小泉清一氏にインタビューという形で、上海同文書院や、潘漢年(後年、毛沢東に殺された当時の中共スパイのリーダー)について聞いていた。


何ヵ所か面白い箇所があったので、記載しておく。


>当時、岩井英一は、外務省情報部長の河相達夫に可愛がってもらっていた。

外務官僚のなかにもいわゆる欧米派などいろいろな派閥があるなかで、河相さんは軍の勢力が台頭していくのに添って、右翼的で軍との関係が非常に良かった人物で、特に大川周明と仲が良かった。

それで河相さんは岩井さんが提案した機密費や工作費を割合通してくれていた。<


こんな感じで、岩井英一、河相達夫、大川周明の関係がよくわかる一説だ。


また、こんな記載もあった。


>当時香港では外国為替を一定のレートに安定させるために無理をしていました。

ところが海の向こうの広東に行けば、円は香港よりも安い実勢価格で売買されている。

極端に言うと、日本円で百円の月給を貰う、それが公定レートでは百香港ドルになる。

ところが五〇香港ドルを闇で円にすると百円になる。

その百円を日本に持って帰れば、

残りの五〇香港ドルはただで手に入ったことになる。

為替の割当てを商社が貰うためには、

戦時に必要な物資を買い付ける名分が必要です。

商社は、外国為替を手にするだけでそれが商売になる・・・<


当時、三井と三菱が競ってましたが、このような為替の裏商売があったということはあまり知られていない。

このような旨味があれば財閥が戦局拡大に積極的になる理由がよくわかる。

以前ビルマの慰安婦の件で書いたような、軍票、植民地通貨、日本銀行券為替による「鞘取り」の原型は、ここにあったということです。


また、児玉誉士男についても書かれてあった。


>この関係があったから岩井さんのところに、大川周明の一派だと称して、右翼の命知らずの連中が居候していた。

香港に行く前に、岩井さんから「今日は酒を一杯ご馳走するから」と言われて行ったら、児玉がいるし……<


こういう箇所にさりげなく児玉が出てくる。

児玉誉士男が上海で「為替鞘取りビジネス」の旨味に気づかないはずがない。


児玉誉士男は上海で岩井英一から汪兆銘護衛の依頼を直接受ける事になる。


「南発券」の謎を追ううちに、どうしても「儲備券」について知りたくなり、

「儲備券」の謎を追ううちに、どうしても「連銀券」について知りたくなる。


「連銀券」というのは、日本軍が北支を経済統治するため、

1938年3月10日に開業した「連合準備銀行」が発行した紙幣の総称である。


なぜ「連銀券」が重要なのかと言えば「儲備券」「南発券」の原型だからである。


この「連銀券」が蒋介石、国民党政府の使用していた「法弊」に、通貨戦争で勝てなかった事が、拡大したくなかった中国戦線を拡大する状況を招いたとも言える。


日本は朝鮮で「朝鮮銀行券」を流通させ、

満州で「満州中央銀行券」を流通させることに成功した。


しかしながら、北京、天津を中心とする北支では、なかなか蒋介石の「法弊」の牙城を壊せなかった。


何故「連合券」は「法弊」になかなか勝てなかったのか・・・?


原因は「法弊改革」(1935,11,3)があったからだ。

英ポンド、米ドル、が「法弊」の裏付けとなった。


日中戦争が勃発したのが1937年7月7日、

第二次上海事変が1937年8月13日、

南京入城が1937年12月13日、

「連銀券」を発行したのが1938年3月10日、


1939年6月14日、日本は天津の疎開内で「法弊」使用禁止した。

しかし、法弊の流通は止まらず、連銀券を使った法弊回収は回収率6%と散々だった。


軍事的優位に立っていた日本が、何故通貨戦争では惨敗だったのか?

ここに日中戦争での日本の敗北の要因がある。


結局、北支でなかなか「法弊」を駆逐することができなかった事が、物資の買い付けに苦しむ事になり、阿片を通貨として使用する下地になっていった。

日本軍が阿片に手を出した理由は、それしか使える通貨が無かったからだ。


日本軍にとってはなんとも苦しい状況であった。

しかし、逆に商人たちには嬉しい相場であった。

つまり、ここに商機がある。

「鞘取り」である。


日下圭介著「神々の戦場」にこのような記述がある。


>「天津の為替相場では、最初日本円100円に対し法弊97.8元だった、それが93元になり、91.2元と円は法弊に対して下落していった。

慌てて横浜正金、朝鮮銀行は円を買い支え、やっと円元パーを実現できたのが、連合銀行開業の1日前1938年3月9日だった・・・」


「日本政府は連合準備銀行開業の1年後から法弊の使用を禁止し、法弊切下げの噂を何度も流したが、法弊に対する信頼は揺らがなかった」<


日本は米英が保証する「法弊」をなかなか駆逐できず、北支の経済支配に長い間苦労することになった。


その状態を打開するため、日本は武力を使い戦局を拡大することにした。


盧溝橋事件を起こし、上海へは中支派遣軍を編成し、第二次上海事変へと突入していった。


北支の中国連合準備銀行がこんなに苦戦してるのに、なんと軍本部は南京の汪兆銘政権に1939年12月21日中央儲備銀行を創立させた。


北支の「連銀券」が「法弊」なかなか勝てないのに、

北支よりも軍事的に不安定な状態にある中支の「儲備券」が「法弊」に勝てるはずがなかった。


案の定、「儲備券」は最初、全く流通しなかった。


汪兆銘が重慶を脱出したのが1938年12月18日

汪兆銘がハノイに到着したのが1938年12月20日

中央連合準備銀行開業1938年3月10日

中央儲備銀行開業1941年1月6日


児玉誉士男はハノイの汪兆銘の護衛を当時の上海総副領事の岩井英一から頼まれたが、影佐機関が汪兆銘工作を取り仕切り、児玉はたいした働きをしないうちに汪兆銘は南京に革命政府を開いた。


児玉誉士男はこの時、嘱任官という肩書きを貰った。

与えたのは陸軍参謀本部第8課臼井茂樹大佐である。

王子製紙社員を装わせたのは影佐禎昭大佐であった。

児玉は、上海、南京にて、影佐機関工作に従事することとなる。


昭和通商という会社がある。

これは日本陸軍が1939年に作った商社で、三井、三菱、大倉商事、の武器商社3社が共同で作った、日本陸軍に物資を調達するための特務機関のような商社です。


海軍には、これに先立ち萬和商事というお抱え商社が誕生していた。

この萬和商事という商社、ウィキにも載ってないのですが、1942年以降は、児玉誉士男が社長だった。


児玉が海軍の仕事をするようになるのは、太平洋戦争勃発(1941年12月8日)以降で、それ以前は児玉は陸軍の工作員(参謀本部8課付民間特務員)でした。


児玉にこの役職を与えたのは、臼井茂樹陸軍参謀本部第8課長ですが、この第8課というのは1937年に新設された防諜謀略課で、初代課長は影佐禎昭であった。


この影佐禎昭は諜報謀略の世界でもっとも有名な「影佐機関」の長で、1939年当時は汪兆銘政権樹立工作をやっていました。


児玉誉士男は、1939年5月、汪兆銘がハノイから上海に移って以降、1940年頃まで、台湾、海南島、などを転々と旅をしています(児玉著、獄中獄外より)と言っているが、まあこれは物資の買付であろう。


さて、児玉誉士男が戦後、巣鴨でアメリカ軍検察官に語った話で、こんなのがあります。


>「1939年、陸軍は将来アメリカと戦争するため、南方から軍事物資を供給する方法を探っていた、それで陸軍が初めて作った会社が昭和通商です、参謀本部8課の民間特務員として私は中国各地を旅させられ、臼井茂樹8課長を通して昭和通商社長、掘三也氏を紹介されました。」


「この会社はタングステンを得ようとヘロインを売り、中国奥地で古い武器も売っていました。」


「昭和通商の堀さんが、私に日本に製薬会社からヘロインを買い集めるように命令しました。日本ではこのようなことは違法なので、どんな権限に基づいて私に命令するのかと尋ねますと、昭和通商は陸軍から権限を与えられているし、軍務局も了承済みだと言われました。」


「私は2回買付をやって、合わせて70~80万円ほど買い集めたと思います。」<


これは1947年7月21日、巣鴨プリズンでウィリアム・エドワーズ検察官に児玉が語った内容である。


児玉誉士男は1939年5月、汪兆銘が上海にたどり着いた後、今度は昭和通商の命令でヘロインを買い集めていた、相手は日本に製薬会社である。


当時、中国にはイランから大量のペルシャ産アヘンが流入していた。

しかし日中戦争の影響でイランから阿片が入りづらくなり、そのアヘンを国内産にすべて切り替える必要があった。

住友商事傘下の大日本製薬がヘロイン生産にあたって中国吉林省、熱河省などの奥で密かに、しかし大規模にアヘンを生産していたということだ。


《続く》



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