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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

幼女大魔王シリーズ

幼女大魔王の暇つぶしに付き合う黒執事は、今日も世界を制御(コントロール)する ~始まりの物語~

作者: 茂木 多弥

 本作品はダークファンタジー作品です。残酷な表現が多く含まれております。

 夜に3つの月が輝く世界で空には静かに風が吹いていた。この場所から遥か遠くには人の営みがされている街のような輝きがある。

 この場所では森が生い茂り、獲物を咥えたトカゲを巨大化させた生物が闊歩している。地球で呼ばれるところの異世界……天使も悪魔もいるこの世界で異変が発生しようとしていた。


 突然、3つの月が輝く藍色の空に漆黒の亀裂が入った。何もないはずの空間に小さな隙間が生まれ、その中から目玉のような紅い球体が黒い粘着した液体と共に這い出てきた。

 その紅い目玉は重力に引かれて下に落ちようとするが黒い液体が空間から伸び、何もない空間に黒い液体が垂れている異様な風景が形成される。

 すると、空の亀裂が徐々に狭くなり、液体は支えを失うようになった。亀裂が無くなった瞬間に液体は紅い目玉のようなものを伴って地面へ落ちていった。


 目玉の落下地点の近くには植物があった。その植物は蕾のような形状の内側に歯を持っており、雌しべを舌のように動かす植物だった。黒い液体は覆いかぶさるように植物を呑み込んだ。液体はしばらくの間モゾモゾとしていたが、やがて植物の形の黒い塊となった。




 一晩が明けて朝日が立ち昇った。黒い塊から出来た植物のようなものは、緑色が多い森でひときわ目立つ黒色をしていた。その姿は異質のものだったが、周りを脅かすことなくひっそりと佇んでいた。

 そこに森が騒がしいと妖精が降りてきた。姿は人の子供のようで背中に羽根を持った小さな妖精である。森の声を聞く優しい妖精は、周りの植物の声を聞いて黒い植物に似た塊を見つけた。

 妖精からみれば、新しい子を見つけた気持ちだったのだろう。違和感はあるものの不思議な雰囲気を持った黒い塊に話しかけた。


「私はヴィヴィ。あなたはだぁれ?」


 いつもと同じように妖精は植物に話しかけたのだ。秩序が整っているこの世界では普通の行為だった。

 この黒い塊は少し震えると、ゆっくりと花弁のようなものを広げていく。妖精にすれば花との会話のいつもの風景だが、今回は違っていた。


 妖精はへたり込んだ。その足の周りに水溜りができる。花弁のような黒の中央の雌しべの位置には目玉のような紅い塊があった。紅い塊はまるで妖精を見つめるように鈍く輝いていた。

 妖精は歯を震わせた。そのガチガチという音は静かな森にとてもよく響いた。目を逸らしたら駄目な予感がしていたが、恐怖に打ち勝てなかった。そして妖精が目をつぶった瞬間に黒い植物のようなものから妖精に向かって黒い液体が覆いかぶさった。


 小さな悲鳴が森に放たれた。ただ普通では気付かない小さな音だった。だが、森の秩序を守るウルフである白い毛並みを持つウォーウルフにとっては、森の妖精の悲鳴は見過ごせないものだった。

 ウォーウルフが悲鳴の場所に着くと、そこには黒い妖精の姿に似たものが立っていた。妖精よりは若干大きく、その目は紅く染まっていた。ウォーウルフは森の妖精が襲われた事を確信した。


 正確にはウォーウルフには知性があるわけではない。ただ、世界に形成された秩序を本能で理解していた。眼の前の黒い妖精のような塊の存在は認められない……殺さないといけないと誇り高き存在であるウォーウルフは肌で感じ取っていた。

 妖精のような黒い塊の紅い目を見てもウォーウルフは怯まず、逆に睨みつけた。その強い眼差しと対照的に妖精のような黒い塊の表情は混沌とした感じで、紅く染まっている2つの目は焦点が定まっていなかった。


 それを隙だと見たウォーウルフは妖精のような黒い塊の首の位置に噛み付く。妖精のような黒い塊の首の一部が引き千切られ、口からは血液のようなものが垂れた。しかし、受けているダメージがまるで無いように、両手でウォーウルフの頭を掴むと、そのまま頭を横に回転させてウォーウルフの首の骨を圧し折った。森にバキっという音が響いた。

 その後、妖精のような黒い塊はウォーウルフがおこなったように首に噛み付いた。妖精のような黒い塊の咀嚼のスピードは最初こそは遅かったが、ウォーウルフの肉を呑み込む毎に段々と歯の形状が変化し、咀嚼のスピードを上げていった……



 数年前魔王軍に襲われ誰もいなくなった廃墟の街の屋敷にその悪魔はいた。黒く長い髪に2本の角を生やした整った顔立ちの悪魔は、その蒼い瞳を長い睫毛(まつげ)で憂鬱そうに塞ぎながら、上目遣いで窓越しの3つの月を眺めていた。


「つまらない……世の中がこれ程にも退屈だとは……」


 この世界には魔王と呼ばれる存在が君臨していた。悪魔は魔王と同じ時を過ごしたことがあったが、その頃の魔王はまだ魔王と言われる存在ではなかった。だが魔王になる存在は絶え間ない努力をした。そして、魔族を率い味方となる勢力を増やしていった。


(魔王)は何のために存在していたのだろうか……」


 悪魔は意見の相違から途中で道を違えた魔王を思い出し……そして歯を噛み締めた。魔王はあらゆる種族と戦い、最強凶悪と言われる軍が生まれていた。悪魔は(たもと)を分けたとはいえ、弱い立場から地位を築いてきた魔王をリスペクト(尊敬)していた。


「この世界はコントロールされている……」 


 悪魔はさらに魔王の事を回顧する。魔王が世界を征服しようと人類にむけて大量の魔王軍を率いて進軍していた時に天が輝いた。輝きが晴れた場所には未だ淡く輝きを保った3体の天使を筆頭に大量の天使軍が存在していた。

 悪魔はその風景を離れたところで見ていた。先頭にいる3体の天使は、小さな体で大きな羽の怒りの表情を持つ天使、長身で長い髪と羽を持った笑顔の天使、短髪で長剣をもっている無表情の天使だった。悪魔はその3体の天使の姿を見た時に、絶対に接触してはいけないという事を確信した。


 無表情の天使が手を挙げると天使軍が魔王軍に進軍する。その状況は戦いというよりは蹂躙というのが相応(ふさわ)しかった。最強凶悪と言われた魔王軍は天使軍になすすべもなく倒されていった。そして、憤慨した魔王の前に怒りの表情の天使が降り立った。

 魔王は天使の前で拳を振り上げて殴りかかったが、天使は逃げなかった。その拳が天使に届く前に天使の指が先回りした。衝撃波が天使の後ろに弾けるが、天使に傷がつくことはなかった。怒りの表情の天使は何事もなかったように拳を魔王に振り下ろした。


「この世界に意味があるのか……そもそも、私の存在すら何のために……」


 3つの月を見上げながら悪魔は呟いた。努力で積み上げてきた地位が一瞬にして崩壊し、一撃で殺された魔王を思い出しながら微睡(まどろみ)を抱えて目を閉じようとした。


 その時……悪魔は世界に出会ったことがないものが存在したことを感じた。悪魔は自身の心に新たな興味を持ち始める事に驚きを覚えた。ただ、その存在は小さく取るに足らないものだった事もあり、頭の中に留める事を決めて椅子に座り(まぶた)を閉じた。




 悪魔が朝日を感じて長い睫毛(まつげ)を上げると、昨晩と同じように憂鬱の表情のままに椅子から立ち上がった。悪魔はふと昨日に感じた存在を思い出し、右手を指を差すように挙げて詠唱を始める。悪魔の右手の人差し指が光り出すと、悪魔はそのまま円を書くように指を動かす。悪魔は魔力で気配を辿ると昨晩に感じた存在が別の存在に変わっている事に驚愕の顔を浮かべた。


 昨晩は何か動かないものだったはずだが……? 


 悪魔が昨晩に感じた気配と今魔法で感知している存在の違いを考えていた時、感知魔法にウォーウルフの気配が加わったことを感じた。しばらくして、ウォーウルフの気配とその存在が重なったのを感じた。


 ウォーウルフサイズの妖精? ありえない! 妖精はこのように大きな気配は出せないし、このような妖精は聞いた事がない……存在が混ざったのか? これは誰よりも先に確かめないといけない……


 悪魔はそのように考えると背中から蝙蝠のような翼を生み出し、外套を手に取って自身が感知した存在に向かって空に羽ばたいた。しばらく、悪魔が丘を見ながら移動していると、銀色の鎧を纏った二人組の人族の騎士の姿を見つけた。悪魔が少し考え騎士の前に降り立つと、騎士は悪魔に対して武器を構えた。


「騎士の方々、この先は危険な気配がするので近づかない方が良いですよ? 引き返した方が賢明ではありませんか?」


 悪魔はそのように騎士に話しかけ、まるでダンスを始めるかのような丁寧な挨拶の状態で手を胸に当てて頭を下げた。


「まさか悪魔に心配されると思わなかった。だが、我々は神託でこの先にあるものを調査しないといけない。この先の嫌な気配はお前の仕業なのか?」


「いえ……私のような下級悪魔でさえ畏怖を感じる気配なので、騎士とはいえ人間の手では手に余るのではないかと心配した次第です」


 騎士たちは下級悪魔ときいて構えていた剣を降ろし鞘に納めた。そして、悪魔に対して蔑むように威圧的に言った。


「我々にとって神託は絶対だ。邪魔するなら斬るが……」


「いえ、神の存在は存じております。我々は魔王が粛正されたことを忘れておりません」


 騎士たちは満足そうに口角をあげると、鼻を鳴らしながら頭を下げている悪魔の横を通り過ぎる。悪魔は騎士たちが通り過ぎる姿を頭を下げたまま上目遣いで過ぎ去る様子を見送りながら、指先でゆっくりと魔法を紡いだ。

 騎士たちがしばらく歩いていると、突然苦しみだし膝をつく。目を見開き胸をかきむしりながら、唾液を口から垂らす。その傍らに悪魔は微笑みながら立っていた。


「天使は信仰心が高い君たちを()()に混ぜたかったのかもしれませんが絶対にやらせませんよ。アレは私の希望の可能性なのです。この世界のコントロールから抜け出すためのね」


 悪魔が指を鳴らすと騎士たちの頭部が四散した。舌なめずりしながら悪魔は首がない銀の鎧の死体を見下した。悪魔は騎士たちが復活しない事を確認して目的の場所へ急いだ。



 灰色の塊……妖精がウォーウルフのサイズになった形状をしており体は体毛で覆われていた。その顔には黒い塊の時のような虚ろな紅い目ではなく攻撃的な紅い目を有していた。尖った歯をむき出しにし、眉間と鼻にはしわが寄っている。

 森の中で悪魔はその灰色の塊に対峙していた。灰色の塊は威圧を周囲にまき散らし、悪魔に対して攻撃的な威嚇を繰り出す。しかし悪魔はその威嚇に怯むこともなく、外套を地面において少しの殺意を灰色の塊にぶつけた。


 灰色の塊が右手をかざして悪魔に飛び込む。悪魔は左腕で防御をするが、防ごうとした左腕が砕ける。悪魔は砕けた自身の左腕をものともせず、左手で灰色の塊の右肩を掴んで動きを止めた。

 次に灰色の塊は左手で攻撃をしようとするが、悪魔は右手で手首を掴んで動きを止める。左腕は砕かれておりあらぬ方向に曲がっていたが、灰色の塊の動きを止めたことで悪魔の表情は狂気に満ち溢れたように笑っていた。


「さあ、これで両手が塞がれましたね。まだ、蹴りは学習していないのでしょう?」


 悪魔が呟くのが早いか、灰色の塊は牙をむき出しにした口を大きく開けて首筋に嚙みつこうとする。


「その瞬間を待っていました」


 悪魔はそう言うと、灰色の塊が首筋に噛みつこうとする牙の前に頭の左側を差し出す。ガリっという音が響き、悪魔の頭から脳漿(のうしょう)が飛び散った。左の頭が切り取られた反動で悪魔の左の蒼い瞳の目玉が飛び出す。悪魔は灰色の塊の左手を押さえていた右手を咄嗟に離し、灰色の塊の口に入ろうとした目玉をつかみ取って自身の口の中にいれて飲み込んだ。


「君には私が見てきた景色は見せませんよ。その代わりこれを差し上げましょう」


 悪魔はそう言って右手で自身の左手首を掴むと、そのまま自身の左腕を引きちぎり灰色の塊の口に突っ込む。灰色の口の中にあった悪魔の脳の一部は、悪魔自身が引きちぎった腕の肉片によって喉の奥に押し込まれた。

 灰色の塊は口に咥える形になった悪魔の左手だった肉片を両手で掴み、むしゃぶりつくように咀嚼を始めた。悪魔は噛み千切られた頭に回復魔法をかけながら、その様子を見守った。

 すると、灰色の塊の攻撃的に輝いていた紅い目が次第に焦点を保つように落ち着いていく。咀嚼のスピードはゆっくりとなり、灰色の塊の顔は眉間と鼻にはしわが寄っていた怒りのような表情から穏やかな妖精の顔を取り戻していった。


「余はヴィヴィなのじゃ。お前は誰なのじゃ?」


 ヴィヴィと名乗ったウォーウルフサイズの妖精の形状を持つ塊は、目の前に悪魔がいる事に気付き、悪魔の左手だった肉片を咀嚼することを止めて悪魔に語りかけた。


 一瞬にして学習するとは想定以上だ! このようにワクワクする感覚はいつぶりなのだろうか?


 左頭部を嚙み千切られた為に顔が血だらけになった悪魔はそのように考えてから、整った顔を卑屈に歪める程に笑顔を浮かべ、ヴィヴィに対してどのように答えるかを迷った。

 その時、雷鳴のような音が響き、猛スピードの光の塊がヴィヴィに向かって飛び込んできた。悪魔は咄嗟に防壁魔法を展開したが防壁魔法は砕かれ、光の中から伸びた拳がヴィヴィに放たれた。だが、悪魔がヴィヴィに覆いかぶさったので、その拳は悪魔の背骨に当たった。

 べキリという音と共に悪魔は地面に転がった。悪魔がいた場所には怒りの表情の小さい天使が拳を振り終わった格好で立っていた。


「わかっているのか! お前が何かしようとしたものは、存在してはいけないもの……」


 怒りの表情の天使が悪魔に向かって罵倒を浴びせ終わる前に、ゴリッという音が響き、天使の頬にヴィヴィの拳が炸裂する。小さい天使の体は、まるでゴム毬のように地面をバウンドし、森の木々をなぎ倒しながら吹っ飛んだ。


「余が先に話をしている。邪魔するな!」


 ヴィヴィはそう言うと吹っ飛んだ天使に興味を示すことなく、倒れている悪魔に向かって歩き出して、悪魔の顔を覗き込むようにしゃがんだ。


「なんで起きないのじゃ?」


「ああ……それは私が死にかけてるからです……」


 悪魔は自身の背中の骨が砕かれて動けなくなっている事を悟り、そのように答えた。ヴィヴィは瀕死の状態で虫の息になっている悪魔を指で突きながら、何食わぬ顔で話しかける。


「なんだ、弱っているのか? お腹いっぱいになったら元気になるよな? えーと、食べ物は……」


 ヴィヴィはそのように言うと周りに食べ物がないかとキョロキョロと首を回して探し始めた。


 まだ、幼い……せっかく面白いものを見つけたのに……天使が来るのが早すぎる……


 悪魔はかつて魔王を倒した天使が来てしまった事に絶望を感じていた。そして、世界を変える事が出来ると希望を持った存在が消えてしまう事に悲しみを覚えた。

 一方、怒りの表情の小さい天使は起き上がり、羽を広げて空中に留まると両手を広げて魔法陣を展開する。その魔法陣は幾重にも重なり空は明るさを増していった。


「アイツらは甘すぎだ! こんなものを世界に取り込もうと時間をかけた結果がこれだ! そして既にこの力……ここで貴様らを消し去らねばならない!」


 ヴィヴィは天使の喚きや魔法陣によって空が明るくなっている事を気にすることなく、首を回すのを止めて悪魔を見ながら腕を組んで考え始めた。


「そうじゃ! 良いものをやろう!」


 そう言うとヴィヴィは自分の胸に指を差しこんだ。そして、胸から溢れ出てきた粘り気のある黒い液体を指で摘まんで千切り、小さな団子のように丸めだした。


「さあ! 食え!」


 本当に面白い存在だ……その行為になんの意味があるのだろう……


 悪魔は空に展開される幾重にも重なる魔法陣をみながら、私は死ぬのだろうと朦朧としながら考えて、何気なく言葉を発した。


「…………それは……命令ですか?」


「そ、そうじゃ! 命令じゃ! これを食べたら、お前を余の家来にしてやるぞ!」


 ヴィヴィはそう言うと手に持っていた黒い玉を悪魔の口に押し込んだ。


 ふふふ、どうせ死ぬのだ……このふざけた世界に従って死ぬぐらいなら、これに従って死んだほうがましだ……


 悪魔は基本的に誰にも従わない。そのプライドが理不尽なコントロールされた世界に抵抗を示し、悪魔はヴィヴィが口に押し込んだ黒い玉を呑み込んだ。




 天使は空を覆い尽くすように展開された魔法陣をみて、怒りの表情のまま不敵な笑みを溢す。


「このあたり一帯は消えてしまうだろうが、些細な問題だ。お前たちの存在は許されない。消えろ!」


 天使が魔法を放とうとした時、パチンという指をならす音が鳴る。

 その瞬間、魔法陣の共鳴していた音が一切無くなり、辺りは静寂に包まれる……


 そして、空を覆い尽くしていた魔法陣がパリンという音と共に砕け散った。


「なっ!?」


 天使の怒りの表情が驚きで崩れる。天使は何が起きたのか解らず呆然とした。


「物理攻撃では勝てないと判断して消滅魔法ですか?」


 天使は突然横から聞こえた声に振り向こうとしたが、その姿を見ることもできず、空中から地面にうつ伏せに叩きつけられる。

 天使が顔をかろうじて上げた時、その顔の近くに着地する靴を見た。


「重力魔法です。動けないですよ」


 天使が怒りの表情で更に見上げると、半壊していたはずの頭が元に戻っている憂いの表情の悪魔が、天使を蔑むように見下ろしていた。


 悪魔はヴィヴィの方を向き、まるでダンスを踊るように優雅に頭を下げた。


「名乗り遅れて申し訳ありません、我が主であるヴィヴィ様。私の名前はセバスチャン、ヴィヴィ様の執事で御座います。これからはセバスとお呼びください」


 灰色がかった肌ではあるが妖精のような顔立ちで紅い瞳を光らせたヴィヴィは円満の笑みを浮かべ答えた。


「そうか!セバスじゃな! 良い名じゃ!」


「ヴィヴィ様、少しだけすることがあるのでお待ち下さい」


 セバスはそう言うと地面に這いつくばっている天使の前に屈み込む。その表情は虫ケラを見るような冷淡なものだった。天使はセバスの表情に反応し叫んだ。


「貴様ら! 私にこのような事をして、神に逆らうつもりか!」


 その天使の怒りの表情をみて、セバスは長い睫毛の憂いの目のまま口角を上げた。更に天使は続けて叫ぶ。


「私を殺して勝つ気でいるつもりらしいが、私達は何度でも蘇る。必ず復活して貴様らを殺して……がぁ!」


 天使の銀色の左目にセバスの指が刺さっていた。そのままセバスは天使の目玉を引き抜き、自らの口に放り込み呑み込んだ。


「思った通りに目は再生しませんね。ということで……アナタは終わりです」


 怒りの表情だった天使は、自身の目が再生しないことに気付き、その表情を恐怖に歪めた。


「ま……まさか、や……やめ……」


 その瞬間にセバスの右手が振るわれた。天使の鼻の上から頭部にかけて吹き飛び、血肉が地面に飛び散った。

 セバスはその天使だった躰を両手で抱きかかえ、ヴィヴィの前に差し出した。


「ヴィヴィ様、お食事です。生きているうちにお召し上がり下さい。不要な部位は取り除いておきました」


「そうか! セバスは良い奴だな!」


 ヴィヴィは黒い涎を垂らし、所々尖った歯を見せながら大きく口を開き天使の体に齧り付いた。



 3つの月が天に登った月明かりの下、妖精のような顔を持ち、体毛がない白く美しい肌、銀色の髪に角を生やし、黒い大きな天使の羽根を持った赤い瞳のヴィヴィが佇んでいた。


「なぁ、セバス? ところで執事ってなんなのじゃ?」


「ヴィヴィ様のお世話をする者の事です。先ずは服でも買いに行きましょうか」


 その隣には黒く長い髪に角を生やし、白い肌を黒い服で纏い、蒼い目を覆う長い睫毛を伏せぎみに憂いの帯びた表情のセバスが立っている。セバスの言葉を聞いてヴィヴィは首を傾げる。


「そうか、セバスは本当に良い奴じゃな! ところで服とは美味しいのか?」 


「いえ、食べ物ではありませんよ。私が身に着けているようなものです」


 ヴィヴィはセバスの答えに残念そうな表情を浮かべる。セバスは地面においておいた外套を拾い、ヴィヴィの体に掛けながら言った。


「でも、服が売られている人間の街には美味しい食べ物もありますから一緒に買いましょう」


 セバスがそのように答えるとヴィヴィは花が開いたように嬉しそうな笑顔になった。セバスがヴィヴィの手を取り街に向かってあるき出そうとすると、風に乗って声が聞こえてきた。


 お前達の事は認識した。私達はお前達の存在を認めない。必ず世界はお前たちを排除するだろう……


「セバス? 何か言ったか?」


「いいえ。ヴィヴィ様の気のせいでしょう」


 セバスは怪しく輝く3つの月を見上げながらヴィヴィに答えると、濃い雲が輝く月を隠していき、辺りが暗くなっていった。その様子をみながらセバスは呟いた。


「この世界の神は認めてくれますよ。私達もこの世界を平和にコントロールしますから」


 辺りが暗闇に包まれるのに合わせてヴィヴィとセバスは闇に溶け込むと、暗闇の中に紅い瞳と蒼い瞳の光が浮かび上がった。





 FIN.


 短編を読んでいただき、ありがとうございます。


 メリバ作品というお題だったのでメリバを目指しましたが、メリバの定義が分からなくなって、これで良かったのかという感じになりました。そして、多数の皆様からダークファンタジーですねと言われましたので、前書きをダークファンタジーに変更しています。ただ、書きたかったことは書きましたので満足です。

 

 皆様が良い小説に出会えることを



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管澤捻様にヴィヴィのイメージ画を描いて頂きました


挿絵(By みてみん)


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― 新着の感想 ―
[一言] こんばんは。 同じ短編も含め読ませて頂きましたよ。 あっちの短編のほうでは、セバスが上手いことヴィヴィを操縦したコミカルなお話でしたが、こっちは違いますね。 雰囲気はダークファンタジーで…
2022/02/12 18:11 退会済み
管理
[良い点] これはシリーズものなんですね~。これからこの幼女な大魔王と執事となった悪魔が冒険の旅にでるのかな。 天使を取り込んだことできっと可愛い大魔王になったんだろうな♪
[良い点] 「隕石阻止企画」から拝読させていただきました。 自らの大きな目的のため、恐らくそれが最も合理的であるという理由で手段を選ばないセバスのキャラが魅力的です。 それと対峙するヴィヴィが徹底的に…
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