里菜さん
中学の同級生だった里菜さんは、誰に対してもするりと距離をつめることができる社交的な人だった。にも関わらず、普通に話をするようになったのは三年生になって席が隣になってからだった。
「これ、村上くんの将来」
「はあ。……なんか爽やかだね」
イラストが描かれた紙をもらった。当時そんな言葉はなかったが、今で言うイケメンといった感じの爽やか少年が描かれている。
「へへへ」
「その笑いは何?里菜さん」
「別になんでもないよー」
また、クラスにあまり馴染めなかった自分には珍しく口喧嘩のようなこともして、しばらく話をしなかった時期もあった。
「村上くんのバカ!」
「はあ?そっちこそ!」
理由も思い出せないような、他愛のない口喧嘩だった。里菜さんと口をきかない数日が、やけにつまらなかった。
「これ、あげる」
「ありがとう」
消しゴムを何日か忘れた時、新しい消しゴムをくれたこともあった。いつの間にか、クラスの誰よりもよく話す人になっていた。
「……へー、村上くんは和歌ちゃんが好きなんだ」
「まあ、駄目だろうけど」
「そんなことないよ。応援してあげる」
「……ありがと」
好きな人の話もした。卒業も近づいていた。僕は手紙を書いた。
「村上くん、渡せた?」
「いや。無理」
「気持ちは伝えなきゃ。卒業になっちゃうよ」
「うん」
里菜さんは、親身になって応援してくれた。しかし、手紙は渡せない。
卒業式の後、謝恩会があった。
「村上くん、和歌ちゃん呼んどいたから。廊下へゴー!」
「ええ!?」
手紙は渡せたものの、敢えなく撃沈した。ただ、思っていたほどダメージはなかった。なぜだろうか?
「村上くん、卒業して高校も違うけどまたね」
「あ、うん」
里菜さんともお別れかと思うと、不思議なほどに寂しいと思った。
高校生になってからは、祭の時に神社の夜店を見に行くと会うことがあってニコニコしながら声をかけてくれた。だからまた会うこともあるだろうと思っていた。
中学校を卒業してから10年後、同級会で会えるのを楽しみにしていたが会うことはなかった。結局、祭で会ったのを最後に里菜さんには会っていない。