京野先生
大学も3年目になると、夜遅くまで酒を飲んで翌朝起きられなくなったり、面倒になって講義をサボって食堂で定食を食べたりということが増えてくる。それでもサボらずに毎回出席していたのは、詩人のO先生の講義と京野先生の講義ぐらいだった。
どちらも非常勤の先生だったが、白髪の穏やかなお爺さんといった感じのO先生と若い講師の京野先生は僕には面白い講義をしてくれる先生達だった。
京野先生はおそらく30才ぐらいだったのではないだろうか。熱心に話をしていたものの、どの学生にもそれが届くというほどには慣れていない様子だった。どちらかというと、居眠りしていた学生が多かったように思う。
たまたま自分の興味と合致する内容ばかりだったため僕は熱心にノートをとり、京野先生の顔を眺めた。先生も居眠りしている学生よりは話を聞いているこちらを見ることが多くなっていった。
「京野先生が可愛くて困る」
「……何を言っているんだい、君は」
講義の後、同期の井藤君と学食でそんな話をした。二十歳ぐらいの男にとっては30才ぐらいはかなり大人で、あまり共感はされなかった。
無事その年の講義は終了し、レポートも提出した。来年度も京野先生の講義をとろうと思って帰省した。
4月、その年の講義一覧に京野先生の講義は無かった。
なお、昨年度の成績表が配られ一つだけ百点満点がつけられた講義があった。京野先生の講義だった。