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六年生のお姉さん
小学三年生の頃、読書にはまった。当時住んでいた場所は田んぼに囲まれた、のんびりした地域だった。
学校の図書室で借りた本。早く読みたくて、帰り道で広げた。面白さに周りが見えなくなる。
「あぶないよ」
「……?」
側溝にはまる寸前、呼び止められた。六年生の色の袋を提げた、髪の長いお姉さんだった。
「本、好きなの?」
「うん」
初めはそんな会話だった。三つ上のお姉さんが、やけに大人に見えた。
失敗からなかなか学ばない子どもだった僕は、その後もよく本を読みながら歩いた。そして電柱にぶつかりそうになったり、滅多に通らない車に轢かれそうになったりした。
通学路が同じだったお姉さんは、その度に僕を呼び止めた。それから、読んでいる本の話やクラスの友達とケンカをした話などをした。
そういう時間がなんだか楽しみで、本を読まずにお姉さんと話をしながら帰るようになってからしばらくたって、卒業式があった。
お姉さんは中学校へ、僕は別の街へ引っ越した。今の自分なら電車に一時間半で行ける住んでいた町は、小学生の僕には遥かに遠い別世界のような場所だった。