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小笠原さん
小笠原さんは、中学校の後輩で地味な女の子だった。高校生になって二年目、学校へ向かう際によくすれ違った。
お互い声をかけるでもなく、会釈してそれぞれの学校へ向かう。ただそれだけ。
だけど、会釈してくれる時に少しだけ微笑むその笑顔にやられた。
5月の新緑が美しいけやきの古木。その下でよくすれ違った。
7月の初めにある県立高校の文化祭。準備のために早く学校へ行くと、小笠原さんには出会わなくて寂しかった。
8月、夏休みがいらないと思った。
秋は落ち葉が散る下で、冬は目の前で転んでしまった。
そしてまた春が来て、夏が過ぎ、秋も往き。何か言いたくて、何も言えず。
2月、進路が決まって故郷を離れることが決まった。
3月の初め、卒業式。すれ違ったけれど、やはり何も言えなかった。
それから20年以上過ぎたけれど、また会うことはなかった。