アオイ、はじめての旅立ち
翌日、あたし達はアオイさんを迎えマヴロの廃コロニーへ出発するために集まっていた。
「アオイです。よろしくお願いします」
アオイさんは革鎧にショートソード、背中に荷物とバックラーを背負っていた。
「今回の旅の目的は、オレ達が前に住んでいたマヴロのコロニーにいる仲間達を迎えに行くことだ。ここから片道約1ヶ月かかる。アオイは初めての長旅になる。みんな協力してやってくれ」
コーナスさんはアオイさんの背中をポンと叩きながら、みんなに紹介していた。
「わたしはミモザよ。白魔導士なので戦いは苦手だけど回復やサポートは任せてね」
ミモザさんはニコっと笑ってアオイさんと握手する。
「はい!お願いします」
アオイさんは少し照れるように手を握り返していた。
「こいつはアキレア、レンジャーで凄腕の射手だ。あまり喋らないがソレが通常だ。あまり気にするな」
コーナスさんは、あはははと笑いながらアキレアさんを紹介していた。
「………よろしく」
アキレアさんは、ボソッと呟くだけだ。
うん、今日もアキレアさんは通常運転だな…
「よろしくお願いします…」
アオイさんは少し困惑しながらも挨拶をする。
「ルビアとシオンは、よく知ってるから紹介はいいな?」
「はい、ありがとうございました」
アオイさんはあたしを見て、少し照れ笑いをしている。
「さぁ!出発だ!」
首都リリウムを出ると少しだけ石畳が敷いてあり、少しずつ街道整備が進んでいることを実感できた。
しかしそれもすぐに終わり、過去から踏みしめられた整備されていない道をあたし達は歩いていた。
この辺は草原が広がっており見通しもよいため、いきなり襲撃される事もないので、みんな付近に気を配ってはいるが比較的リラックスして歩いていた。
「ねぇ、アオイさん」
前を歩いていたミモザさんが振り向き声をかける。
「はい、なんですか?」
「アオイさんは、なぜ冒険者になったの?」
「ぼ… オレはずっと魔石採掘のリーダーをしていました。数年前、オレ達はオーガに襲われたのです」
「まぁ!オーガに!?」
「はい、ボク達は逃げる事しかできませんでした。いや、逃げる事も出来ませんでした。ボク達はオーガに食われると、半ば諦めてしまいました…」
アオイさんは少し俯いて話していた。
「普通の人はオーガに遭遇したら、ほとんどの人が助からない… その感情は仕方のないことだわ」
ミモザさんはアオイさんを慰めていた。
「その時、ルビアちゃん達が突然現れて助けてくれたのです。たまたま通りかかったって。ボクはルビアちゃんの圧倒的な力にシビレました。あと、悔しいけどシオンも凄かった。あっという間にオーガを殲滅したのです」
アオイさんはチラチラとあたしとシオンを見る。
「そうだろ、ルビアとシオンは竜の牙の秘密兵器だからな」
あはははとコーナスさんは豪快に笑う。
「ひ…秘密兵器…ですか…」
「もう!コーナスさん、それは子供の頃の話しでしょ?あたし達は普通に竜の牙メンバーですっ」
あたしが反論すると
「悪い悪い、そうだな。お前達はオレ達の仲間だ」
コーナスさんはまた笑っていた。
「ボク達はいつもゴブリンにすら怯えて魔石採掘をしていたのです。そんな時に2人を見て、ボクも強くなりたい。強くなって、大切な人を守れるようになりたい。と、思うようになったんです」
アオイさんは手を力強く握っていた。
(ふふ、いつの間にか『オレ』から『ボク』に戻っちゃってる…)
あたしは強かってるアオイさんも可愛いなぁと見ていた。
「なるほどねぇ。アオイさん、ひとつだけ教えてあげるね」
ミモザさんは少しお姉さんぶって話しかける。
「はい」
「あのね、これから戦士として頑張ると思うんだけど、ルビアちゃんとシオンちゃんを目標にしてもダメよ?あと、コーナスも。この3人は普通じゃないから。目標にするならアキレアがいいと思うわ。彼も普通の冒険者としては突出してるけど、まだマシよ」
ふふふと口元を隠してミモザさんは笑う。
「そ…そうなんですか!?」
アオイさんが真に受けて驚いていた。
「ちょ!ミモザさん!コーナスさんはともかく、あたしは普通ですよ」
あたしは慌てて否定したが、誰も同意しくれない…
「ルビアさまぁ、普通の人は手足が吹き飛んだら生えてきませんよぉ」
「そうだなルビアは規格外過ぎて、もう意味がわからないからな…」
「普通の人は魔導を纏って戦うなんてムリよねぇ」
「………ムリだ」
「えー!!みんなひどーい!」
「あの、ルビアちゃん、もしかしてデコピンでゴブリン爆殺って… ホント?」
アオイさんまで少し怯えた目になる。
「うっ…」
たぶん出来る…
いや、きっと出来ると思う…
「アオイさん、それは本当ですよぉ」
シオンがニヤニヤして、あたしを見ている。
「あ…あたし、普通だもん!!」
「ふふふ、冗談よ。ルビアちゃんもシオンちゃんもわたしの可愛い妹なんだから。アオイさん、2人を泣かしたら許さないからね」
ミモザさんはアオイさんにウィンクしていた。
「もう、ミモザさん、ひどいです」
「ふふふ、ごめんね。ちょっとだけからかってみたかったの。あ、アオイさん、コーナスの話しだけは本当だからね。コーナスのマネだけはしたらダメよ。マジで死ぬから…」
ミモザさんはあたしを抱きしめながら、アオイさんに忠告していた。
「おいおい、オレのマネなんて出来るのはルビアだけだぜ?」
コーナスさんは、あはははと笑っていた。
「………ルビアちゃん、マネできるんだ…」
アオイさんはボソッと呟いていたが、誰の耳にも届いていなかった…




