新入り『アオイ』
「と…とりあえず、あたしだけで決めれないからコーナスさんに連絡するね」
あたしはアオイさんとシオンをなだめながら、指輪を使ってコーナスさんに連絡した。
「コーナスさん、ルビアです」
指輪に意識を集中して話しかける。
「お?ルビア、どうした?」
コーナスさんは初めて指輪を使ったみたいで、「これ、どうしたらいいんだ?」「おい、ミモザ、あれ?」とか言っていた。
「コーナスさん、普通に話すようにしてくれたら大丈夫ですよ」
あたしは、ふふふと笑う…
ふと、思いだした。ゲンゲさまが『これ、思った事みんな伝わるみたいだぞ』って言ってたのはコレか!
なるほど、この指輪… 危険だ…
「あ、そうか。で、なんだ?」
コーナスさんは指輪の危険性に気がついていないようだったが、あえて言わないでおこう…
「あの、いま酒場にいるのですが、アオイさんという方が一緒に旅をしたいって言ってるんです」
「アオイ?そうか、人手が多いのはいいんだが… とりあえず酒場に行くよ。少し待ってくれ」
「はい、すいません。お願いします」
あたしは指輪に送っていた魔力を止め、意識を戻すとコーナスさんとの通話が切れた。
ほんと、携帯だな…
「今からリーダーのコーナスさんが来てくれるから、コーナスさんと話してくれる?」
あたしがアオイさんに説明すると、アオイさんは身嗜みを整え始めた。
「アオイさん、逃げ出すなら今のうちですよぉ」
シオンはニヤニヤしている。
「もう!シオン、そんな事言わない!」
「あぃー」
シオンは、ぶつぶつ言いながら料理の続きを食べ始めた。
しばらくすると酒場の扉が開き、髪を短く切り揃え、黄色い目が印象的な屈強な男と、赤い髪で大きな目とそばかすが可愛い女性が入ってきた。
「コーナスさん、ミモザさん!」
あたしは席を立ち、手を振って合図する。
横でアオイさんは、ピシッと背筋を伸ばして立っていた。
「ルビア!」
コーナスさんはあたしを見つけて近寄ってきた。ミモザさんはコーナスさんの少し後ろをついてくる。
(この2人、どうみても夫婦なんだけど…)
「すいません、忙しい時に…」
あたしはコーナスさんとミモザさんに頭を下げる。
「いや、構わない。それで、君がアオイか?」
コーナスさんは鋭い黄色の目でアオイさんを見る。
「は…はい!は、はじめまして!ぼ… オレはアオイ。冒険者で戦士をしています!」
アオイさんは大きな声で挨拶をする。
「ははは、アオイ、そんな大きな声じゃなくても聞こえてるよ」
コーナスさんは笑って、アオイさんの肩をバンバンと叩く。
「それで、アオイはオレたちと旅をしたいのか?」
「は、はい!オレを仲間に入れて下さい!」
「うむ、アオイ。オレたちはこれから長期間の旅に出る。お前は旅を…いや、冒険をした事はあるのか?」
「あ…、オレはこの町で魔石の採掘をしています。冒険はした事ありませんが、魔石運搬中はゴブリン等から仲間を守って戦っています」
「なるほど、ちなみにランクは?」
「戦士のアイアン級です…」
アオイさんは少し俯き、小声で答えていた。
「ふむ、アイアン級か。戦士以外のランクは持っていないのか?」
「はい…」
ますますアオイさんが小さくなっていく。
「よし、とりあえず今回の旅について来い。それで冒険というものを体験して、これからの事を考えればいいだろう」
コーナスさんはアオイさんの肩をポンと叩く。
「は…はい!ありがとうございます!」
アオイさんは頭が膝に付くのではないか、と言うくらい頭を下げる。
「えー!!! コーナスさん、本気ですかぁ?こいつヨワヨワですよぉ?」
シオンが、すごくイヤな顔をして立ち上がり反対する。
「ふふふ、シオンさん。リーダーが決めた事ですよ?これからよろしくお願いしますね」
アオイさんは勝ち誇ったような顔でシオンに握手を求めていた。
「アオイさん、シオン達の足だけは引っ張らないで下さいね」
シオンはすごくイヤそうに笑顔を作って握手をしていた。
「…ルビア、この2人仲悪いのか?」
コーナスさんがコソッと聞いてくる。
「そうなんです、あたしもよく分からないんですけど、なぜか仲が悪くて…」
「そうかぁ…」
コーナスは少し考えるとアオイさんとシオンの前に立ち、2人の肩を叩いた。
「お前たち、これから一緒に冒険するんだ。お互いの命を預ける事もある。仲良くするんだ!いいな!」
「うぇー」
シオンはすごくイヤそうな顔をしている。
「くっ わ、わかりました」
アオイさんはしぶしぶ了承していた。
「ところでアオイ。お前はいつくだ?」
「ぼ… オレは17歳です」
「17か、冒険に出るにはいい年頃かな。オレ達は明日この町を出る。片道約1ヶ月の旅だ。今すぐ準備して明日の朝、オレ達が住んでいるリリウム女王の屋敷前に集合だ。ルビア、アオイの準備を手伝ってやれ」
「はい、わかりました」
あたしはコーナスさんに返事をしてから、アオイさんに「よろしくね」と微笑む。
「え… あ、その、よろしくお願いします…」
アオイさんは、なぜか赤い顔をしてモジモジしていた。
「じゃぁ、シオンも手伝いますぅ」
なぜかシオンは口を尖らせて手伝いを名乗り出た。
「え?シオンは別に…」
アオイさんが言おうとする言葉を遮るようにコーナスさんが声をかける。
「よし、シオン頼んだぞ」
「あぃー」
少し残念そうな顔をしたアオイさんと、ニヤニヤするシオンがそこには居た。
「なるほどな…」
コーナスさんとミモザさんは、何か納得したような顔であたし達を見ていた。




