ルビアの誓い
貴族達は順番にリリウムにお祝いの言葉を伝えていた。
リリウムは大好きなバドを飲み、貴族達の挨拶に丁寧に答えている。
貴族達の一通り挨拶が終わったのを見計らい、ゲンゲがリリウムに挨拶をしに行っていた。
その頃あたしはテーブルに並べられた豪華な料理に夢中になっていた。
「ルビア!」
急に呼ばれて振り返ると、リリウムの隣でゲンゲが手招きしている。
「はい」
食べかけの料理を口に押し込み、手を服の裾でゴシゴシしながらゲンゲの元に歩いて行った。
「ルビア、リリウム女王のお供ご苦労だった」
ゲンゲは滅多に褒めてくれないが、今回はあたしの頑張りを認めてくれたみたいだった。
「 ありがとうございます!」
あたしは嬉しくて勢いよく頭を下げる。
って、あれ?あたし何を頑張ったっけ?えーと、イノンドを殺すのをガマンしたこと?あとは、とおさま達の仇を倒したのと、飛行船を落とした…
あれ?あたし暴れただけじゃ?
「ところで、いま女王からお聞きしたのだが、お前『炎の魔神』って呼ばれてるらしいな」
ゲンゲはニヤリとあたしを見る。
「ぶっ」
な…なぜそれを!?
「ほんと、ルビアさんって凄かったんですよ」
リリウムは、ほぅと色っぽいため息をつきながらあたしを見る。
「リ…リリウムさま?」
ヤバい、この展開はヤバい!
「ほぅ、そんなにですか?」
ゲンゲが食いつく。
やめて!これ以上は!またあたしが暴れただけって言われちゃう!
「ええ、ルビアさんの魔導はとても凄まじかったですよ。ジギタリス帝国の都市が灰になるかと思いましたわ」
ふふふとリリウムは笑う。
「ひ…飛行船の係留所と周りの建物だけですよ!」
あたしは慌てて訂正する。
「……また暴れたんだな……」
ゲンゲの冷たい視線が刺さる。
「だってぇ…」
あたしだって暴れる気は無かったんだよ?
そんな流れになっちゃっただけなんだよ?
仕方ないじゃない…
ちょっと拗ねてると
「まーたルビアはん、暴れたん?」
クレオメがニヤニヤしながらやってきた。
「あれー?ルビアさま、話し合いのお供に行ったんじゃなかったんですかぁー?」
シオンはぷぷぷと笑いながら、あたしをつつく。
「ルビアはオレたち竜の牙の秘密兵器だからな。仕方ない」
いつの間にか横にいたコーナスは、うんうんと頷いている。
「ちょ、コーナスさん?仕方ないって何?」
あたしがオロオロしていると、周りには貴族達も集まってきていた。
「ルビアは秘密兵器だったのか。オレも殺されると覚悟したもんなぁ」
グニーが腕を組み、あたしとの戦いを思い出していた。
「グニーさまをですか!?ルビアちゃん、どんどん強くなるのね…」
ミモザは目を丸くして驚いていた。
「ち…違うんですーー!」
「あははははは」
半泣きのあたしを見ながら、みんな笑っている。あたしもなんだか楽しくなって笑っていた。
「ふふふ、ごめんね。ルビアさん」
リリウムはあたしの背中をポンポンと叩きながら微笑んでいた。
「リリウムさまぁ」
「みなさん今回の交渉が成功したのは、ルビアさんの力のおかけでもあるのですよ」
リリウムはニコッと笑う。
「と、言いますと?」
グニーは急にまじめな顔になっていた。
「今回の交渉では、ルドベキア王国の武力も見せつける必要がありました。ある程度の武力もなくただ要望を押し付けると、ジギタリス帝国は武力を使いわたしの話しを聞くこともしなかったでしょう」
リリウムは少しバドを飲み、一息つく。
「確かに力を持たない者の言葉など、力を持つ者にとっては煩いだけでしょうな」
ゲンゲは、ふむ…と納得している。
「ゲンゲ、その通りです。これまでわたしは何度も何度もアニス総督へ友を殺さないで欲しいとお願いしていましたが、一切聞き入れて貰えませんでした。今回はわたしの本来の力を使ってでも交渉を成功させようと考えていたのです」
「本来の力…ですか」
グニー達、貴族たちはリリウムは『死なないだけで、何の力も無い』と思っていた。実際、リリウムは何千年も本来の力を使っていなかったのだ。
「はい。しかし、わたしの力は近接戦では能力を発揮しますが、ある程度離れると力が及ばないのです。だから、イノンドが… あ、ジギタリス帝国の新しい総督の命令で、貴族さまたちの都市を攻撃するため飛行船が飛び立とうとした時は、もうダメだと思いました」
リリウムは少し俯き震えていた。
「みなさんに避難して貰うしかないと、ルビアさんに指輪で連絡をして貰おうと声をかけたのです。そしたら、ルビアさんは凄まじい魔導で飛行船も、まわりの建物も全て破壊したのです!」
リリウムは血のように赤い目をキラキラさせて立ち上がっていた。
「飛行船を!?」
貴族たちに動揺が走る。
「はい!あれ程凄まじい魔導を見たのは初めてです」
リリウムはお酒の力もあり、少し興奮していた。
「確かにルビアの魔導は凄まじいモノがある。オレの都市にあった闘技場も破壊され、更地になってしまったからな…」
グニーはまた、あの戦いを思い出しているようだった。
「え? いや… あの…」
あたしはどうしていいのか分からずオロオロしている。
「ルビアさん、あなたの力はジギタリス帝国に対して抑止力になるわ。これからもルドベキア王国のために頑張ってね」
リリウムはあたしの手を握り笑っていた。
「は…はぁ…」
あたしは、少し困惑しながらリリウムの手を握り返していた。
「ルビアさまのバカげた力も、少しは役に立てそうでよかったですねぇ」
シオンがぷぷぷと笑う。
「ちょ、シオン!バカげたって何よー!!」
賑やかな戦勝会は夜遅くまで続いた。
あたしは少し夜風にあたり、外で星を見ながら考えていた。
「ルビアさま、お疲れですかぁ?」
いつの間にかシオンが横にいた。
「ううん。あたしのこの力で誰かを助ける事ができるだなぁって思ってた」
「ルビアさまは、きっとそういう運命で異世界に転生したのだと思いますよ」
「そうかなぁ?」
「はい、運命の女神ルリアさまに選ばれたんですから。それにルリアとルビア。名前も似てますしね」
ぷぷぷとシオンは笑う。
「あ、ホントだ。名前そっくりじゃん。んー、ちょっとムカつくけど、シオンに出会えたから許してあげる」
「「あははははは」」
あたし達は笑った。本当に心から笑ったのは、いつぶりだろう?すごく久しぶりに涙がでるくらい笑っていた。
そして、あたしは心に誓った。
とおさまと、かあさまから貰ったこの力で、もっとたくさんの人達を助けよう…と。
第2章 反撃編は終わりです。
次回、第3章 悪魔編です。これからもよろしくお願いします。




