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100万人目の異世界転生者  作者: わたぼうし
第2章 反撃編
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勝利の美酒

馬車の中は少し窮屈だった。

行きはリリウム女王とあたしだけだったので、ゆったりとしていたのだが、帰りはマルスさん、ティモルさん、フォセラさんの3人が増えたからだ。


マルスさん達は、リリウムさまの影から呼び出されたのだが、リリウムさま曰く、

「わたしは眷属を呼び出す事はできますが、送り返す事はできません」

だ、そうだ。


(なんで、リリウムさまはそんなに自慢気なんだろ?)


「リリウムさま、わたし達は歩いて帰りま…」

そこまで言ったマルスさんは、少し固まり


「やっぱり一緒に馬車で帰ります。リリウムさま、1人にすると夜通し飲み歩くでしょ?」

と、訂正した。


「え?そ…そんな事ないです…よ?」

リリウムは少し歯切れの悪い返事をしていた。


「………ダメですよ?」

マルスはボソッと釘を刺す。


「「ふふふふ」」

乾いた笑いが馬車を埋め尽くしていく…



「ところでルビアさん、あなたの強さには驚いたわ。前に住人達が『炎の魔神が現れた』って騒いでたけど、アレは本当だったのね」

リリウムはいつの間にか持っていた水筒で、何かを少しずつ飲みながらニコニコしている。


「ほ…炎の魔神ですか。あたしそんなでした?」

あたしは頭を掻きながら、少し困ったようにへへへと笑う。


「ええ!びっくりしたわ。飛行船が飛び立とうとした時、指輪を使って都市のみんなに避難を指示しようと思ってルビアさんに声をかけたら、ルビアさん空から隕石降らせるんだもの!イノンドも驚いて固まってたわ」


「ええ?アレは『撃ち落とせ』って指示かと…」


「まぁ、結果的にみんな無事だったんだからよかったんだけどね」

リリウムは水筒から、何かを少しだけコクッと飲み、ほぅとため息をつきながら微笑んでいる。


「……リリウムさま、さっきから何を飲んでいるのですか?」

マルスはジロリとリリウムを見る。


「え?えーと、お、お茶、そう!お茶よ!」


「ほう?」

マルスがリリウムから水筒を取り上げて確認する。


「あ…」

「リリウムさま?何やら赤い『お茶』が入ってますね?それにこの香りは?」

「え… えーと…」

「……リリウムさま?」

マルスがリリウムをジロリと見る。


「しょ…勝利の美酒よ!いいじゃない!ジギタリス帝国との交渉もうまくいったんだし!」


「リリウムさま、それは貴族の皆様に報告して、皆様と一緒に飲むものです。そんなコソコソ飲む物ではありません」

マルスはピシャリと言い放つ。


「だってぇ、ずっとガマンしてたのよ?それに、わたし頑張ったよね?うん!すごく頑張った!だから、これはわたしへのご褒美よ!」


「マルスさん、よろしいじゃないですか。今日だけは、今だけは女王ではなくて、ただのリリウムさまとして労ってあげてましょうよ。だって、リリウムさまががんばったから、わたし達は明るい明日が見えようになったのですから」

あたしはマルスにニコっと微笑み話す。


「ル…ルビアさん!!大好きっ」

リリウムがあたしに抱きつき、頬ずりしてくる。


「リ…リリウムさま…、は、恥ずかしいです…」


「はぁ、仕方ないですね。今日だけですよ?」

マルスはため息をつき、笑っていた。


「ありがとう!マルス!」

リリウムはマルスにも抱きつく。


それを見ていたティモルとフォセラが自分の鞄から、ゴソゴソと何かを取り出しリリウムに手渡す。

「おつかれさまでした。リリウムさま」


「これは?」

リリウムは2人から手渡された少し大きめの水筒を見る。


「私たちからのプレゼントです」

ティモルとフォセラは微笑んで、リリウムを見つめていた。


リリウムは水筒の蓋を開けると、華やかな香りが広がる。

「これは!最高級のバドじゃない!!」


「リリウムさま、すごくがんばってましたから…」


「ありがとう!!」

リリウムはティモルとフォセラに飛びつくように抱きついた。


「お…お前たちまで…」

マルスは少し困った顔で笑って、リリウム達を見ていた。


馬車は華やかな香りと、笑い声に包まれて帰路についていた。



「あ、リリウムさま、とりあえずゲンゲさまに無事交渉は終わりましたって連絡しておきますね」


「はい、お願いします」

リリウムは美味しそうにバドを飲みながら、ほぅとため息をつき、少し潤んだ瞳であたしを見ていた。


「…リリウムさま、ちょっと色っぽ過ぎますよ」

あたしは同じ女性なのにドキドキしてしまう…


「うふふふ」

リリウムは幸せそうに微笑んでいた。


「もう、リリウムさまは…」

あたしはとりあえずゲンゲに連絡をする。リリウムに貰った指輪に意識を集めて「ルビアです」と頭の中で声をかける。


「おう、ルビアか。無事、交渉は終わったか?」

ゲンゲの声が頭の中に直接入ってくる。


「はい、リリウムさまはジギタリス帝国のロベッジ第二皇子と無事交渉を終わらせる事ができました」


「そうか!交渉は成功したのだな!さすがリリウム女王だ!」


「はい!リリウムさまがお考えになった通り、魔石の取引きは行われる事になりました。あたし達はジギタリス帝国に勝利したのです。あたし達はこれから『生かされる』のではく、『生きる』のです」


「そうか、そうか… 本当によかった。オレ達は勝ったんだな。オレ達の戦いは勝利したんだな…」

ゲンゲの涙声に、あたしも涙が溢れていた。


「ゲンゲさま。あたし達の長かった戦いは終わったのですね…」

あたしはいろいろな事を思い出していた。ジギタリス帝国の突然の襲撃、ヘスちゃんさんが殺され、とおさまとかあさまも、コロニーのみんなも殺された。

とにかく生き残ることだけを考えて、破壊されたマヴロのコロニーに隠れていた頃ゲンゲ達と出会い、シオンと2人で魔界を歩き回ることになった。

あの時、あたしはジギタリス帝国に攻撃できるなら、死んでもいいと思ってた。そうすればとおさまやかあさま、コロニーのみんなに会えるかもしれないから…

そんな時、リリウムさまと出会いあたし達が思い付かないような『戦い』を教えてもらった。

そして今、あたし達はその戦いで『勝利』したのだ…


あたしは涙が止まらなかった…

いつまでも溢れ出る涙をあたしは拭う事もしなかった…


まだまだ、あたし達はいろんな事で『戦う』のだと思う。でも、今はこの勝利の気分に浸っていよう…


「ところでルビア」

ゲンゲの涙声は消え、普通に声をかけられる。


「はい、なんですか?ゲンゲさま」

(あぁ、もう少し浸ってたかったな…)と、思いながら返事をする。


「あぁ、すまん。もう少し浸っていたかったか」


「ええ!?なんでわかったんですか?」


「いや、この指輪、思った事はそのまま伝わるみたいだぞ」


「ええ!いやー!恥ずかしい!!」

あたしは顔を隠してうずくまる。


「そんな事よりルビア、屋敷からマルスさん達が険しい顔をしていたと思ってたら、消えてしまったのだか…」


「マルスさん達?あ、いま、ここに居ますよ。リリウムさまの魔導(?)で呼び出されたのです」


「そうか。…ん?話し合いに行ったのに、魔導を使ったのか?」


「え?  あ、あの…」

あたしがオロオロしていると


「ルビア、お前、()()暴れたのか…」

ゲンゲは呆れたようにつぶやく。


「あ、あたしのせいじゃないですからーー!」

馬車にルビアの叫び声がこだましていた…

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