アニスの怒り
ロベッジの屋敷についたあたし達は、玄関で出迎えてくれた執事に応接室に案内された。
応接室の天井からシャンデリアがぶら下がり、窓からの光を乱反射させていた。
部屋の中央には大きめのテーブルと革張りの椅子か数脚あり、壁際には見るからに高そうな調度品か並んでいた。
「どうぞ、こちらへ」
執事はあたし達に椅子を勧め、メイド達がお茶を用意してくれていた。
リリウムはロベッジ達に敵意が無いことを感じたようで、穏やかな表情になると背中の翼が消え、血のように赤い髪は元の美しい金色になり、金色の目は血のように赤くなった。
赤く小さめの唇からは笑うと小さな牙が見え、あたしが知っているリリウム女王に戻った。
すると、黒く変色していたワンピースの礼服は、元の純白のワンピースに戻る。
(あれ、どんな仕組みなんだろ?)
あたしの興味は豪華な部屋から、リリウムのワンピースに移っていた。
あたし達は執事に勧められるように革張りの椅子に座る。椅子は適度な硬さを持ちながらも、ゆったりと座れる素晴らしい椅子だった。
マルス達はリリウムの立とうとすると
「失礼でなければ後ろのみなさまもお座りになって、ぜひジギタリスの自慢のお茶をご賞味下さい」
ロベッジはマルス達に声をかける。
「マルス、あなた達も座りなさい」
リリウムがマルス達に座るように促す。
メイド達は、あたし達の前に温かいお茶を運んできた。それは琥珀色をした、芳ばしい香りが鼻の奥をくすぐる飲み物だった。
「どうぞ、ジギタリス自慢のコーヒーです。お口に合えばいいですが…」
ロベッジはニコッと微笑み、コーヒーの香りを楽しんでから少し口に含み、とても美味しそうに飲んでいた。
(あ、やっぱりコーヒーだ…)
あたしは久しぶりのコーヒーに感動していた。
リリウム達は初めて見る飲み物であり、不思議そうに見ている。
あたしはコーヒーの香りを楽しむと、少し口に含み舌の上でコーヒーを転がしてから飲み込む。
「美味しい!」
久しぶりのコーヒーは、【かえで】が飲んでいたインスタントコーヒーとは違い、高級な喫茶店に出てくるような美味しいコーヒーだった。
そんな様子を見てリリウムもコーヒーを少し飲む。
「あ… 美味しい…」
リリウムは小さな声でつぶやく。
「お口にあったようで安心しました」
ロベッジは満面の笑みであたし達を見ていた。
その時、ドアがノックされ「アニスです」と声が聞こえた。
「入れ」ロベッジに許可されアニスはゆっくりとドアを開けて部屋に入ってくる。
「リリウム殿、お久しぶりです」
黒い髪を短く刈りそろえ、顔に大きなキズのあるアニスはニコッと笑う。
「アニスさま、お久しぶりです。お体は大丈夫なのですか?」
リリウムはアニスを見ると心配そうな顔をしている。
「ははは。大丈夫ですよ。ちょっと古傷が痛んだだけで大したことはありません」
アニスは腰の辺りをバンバンと叩きながら笑っていた。
アニスはロベッジの後ろに立とうとした時、ロベッジに「お前も座れ」と指示され椅子に座る。
アニスが座るのを確認し、ロベッジは口を開く。
「リリウム女王、この度は誠に申し訳ありませんでした。イノンドはどこか歪んだところがあるのは分かっていたのですが、今回のような事をするとは見抜けませんでした。全てわたしの不徳の致すところです」
ロベッジは改めてリリウムに謝罪する。
「ロベッジ皇子、わたしはイノンドを許す事はないでしょう。しかし、ルドベキア王国 女王としてジギタリス帝国 第二皇子ロベッジさまの謝罪を受け入れましょう」
リリウムは毅然とした態度で対応していた。
「リリウム女王、ありがとうございます」
ロベッジはリリウムの答えを聞き、ホッとした顔をしていた。
(この人、意外と可愛いところあるのかも…)
「皇子、何があったのか教えて頂けるとありがたいのだが…」
アニスは状況が掴めず、ロベッジに耳打ちする。
ロベッジは今回の出来事を簡単に説明すると、アニスはどんどん険しい顔になり、最後は真っ赤な顔になっていた。
「皇子、恐れながらイノンドを呼んで頂けないでしょうか」
アニスは静かに、そして言葉を選ぶように願い出た。
「リリウム女王、よろしいでしょうか?」
ロベッジはリリウムに確認する。
「はい、アニスさまのご希望ですので…」
リリウムの答えを確認したロベッジは執事に、イノンドを連れてくるように命じた。
しばらくするとドアがノックされ、執事と兵士2人に連れられたイノンドが現れた。
イノンドを見たアニスは立ち上がり、イノンドの前に立つ。
「イノンド、お前はワシの話しの何を聞いていたのだ?」
「ひ、ア…アニス総督…」
「ワシらが魔界に来た目的はなんだ?言ってみろ」
「ま…魔石を集めるため…」
イノンドは震えながら答えようとした。
「バカ者!!」
イノンドの答えを最後まで聞かず、アニスはイノンドを殴り飛ばす。
「ひ…ひぃ!!」
殴り飛ばされたイノンドは体を丸めて震えている。
「何度言えば分かるのだ!ワシらが魔界に来た目的は『件のエネルギー問題を解決するため』だ!魔石を集めるのは『その手段』だ!目的と手段を間違うなといつも言っておるだろうが!」
アニスは握り締めた拳を震わせながら、大声でイノンドを叱責する。
「ワシらは魔石の見分けはできん。だがら魔石を集めるには魔界の人々の協力が不可欠なのだ。しかし、魔界には魔界のルールがあり、ワシらは仕方なくコロニーの主と戦ってきたのだ。そんな中、ワシらに協力してくれたのがリリウム達だろうが!それをキサマは…」
アニスは激昂しイノンドを殴り、胸ぐらを掴んで立たせると殴る。
倒れたイノンドを無理やり立たせると、また殴るを繰り返していた。
「アニス、そろそろ止めろ」
ロベッジは静かにアニスを止めた。
イノンドは顔が腫れ、目も開けれない状態となっていた。
「連れて行け」
アニスは兵士に指示してイノンドを牢獄に送り返す。
「リリウム女王、ワシからも謝罪する」
アニスは深々と頭を下げていた。




