リリウムの現実
(リリウム)
ルビアさんが両親の仇を見つけたらしい。
わたしに戦うことを願い出てきた。
わたしにそれを止める事はできない。ただ、ルビアさんが死ぬ事だけは許さなかった。これが今のわたしに『出来る事』だった。
ルビアさんが戦おうとした時だった。
「リリウム!今すぐ投降しろ!でないと、お前の大事な『友』がたくさん死ぬことになるぞ!」
イノンドが飛行船の係留場所を指差して叫んでいた。
(しまった!最悪のパターンだ!)
わたしは我に返った。もっとも恐れていた事態を引き起こしてしまった。
とにかく友を助けなくては…
事前に考えていたように指輪を使ってみんなに連絡し、すぐに避難してもらうしかない。
すぐにルビアさんに指示を出す。
「ルビアさん」
わたしが全てを言う前に、ルビアさんは返事をしてくれた。
さすが、何も言わなくても理解してくれる賢い人だ…
「メテオストーム!!」
ルビアさんは指輪で連絡するのではなく、呪文を唱えた。すると飛行船の上の空が赤く染まり、無数の炎を纏った隕石が降り注いだ。
(ええええぇぇぇ!?)
わたしは声が出なかった。
目の前では飛び立とうとした飛行船が隕石に貫かれ落ちていく。
更に飛行船の巻き添えとなり、辺りはあっという間に火の海と化した。
わたしは唖然として見ていた。
ふと見るとイノンドも、そしてまわりの兵士達も口をぽかーんと開けて固まっている。
一部の兵士から、「リアリナだ…リアリナが生き返った…」等と狼狽るような声が聞こえてきた。
(ま、まぁ、最悪のシナリオは阻止できた…かな?)
わたしが気持ちを切り替えようとすると、ルビアさんが巨大な炎の塊を兵士達に射出する。
(でかっ!!え?ファイヤーボールってあんなに大きかった?)
気持ちが切り替えれない…
イノンド達も同じようで、固まっている…
(と、とにかくイノンドを…)
そう思いルビアさんから目を離そうとした時だった、複数の兵士がルビアさんにナイフを突き刺していた。
「ルビアさん!!」
やはりルビアさんを戦わせるべきではなかった。わたしは死なないが、ルビアさんは違うのだ…
わたしの誤った判断でルビアさんを殺してしまった…
わたしは後悔していた…
その時、ルビアさんを中心に炎の竜巻が発生した。
炎の竜巻は兵士達を炭化させ、わたしやマルスにまで熱波を叩きつけてくる。
炎の竜巻が収まるとボロボロのルビアさんが立っていた。が、すぐにケガが無くなりニヤリと笑うと、両手に炎を纏わせて兵士達に突撃し爆殺している。
そういえば、ルビアさん達がコロニーに来たとき住人達の間で流れていた噂を思い出した。
『炎の魔神と死神が現れた』と…
わたしは、また大袈裟な噂が流れたものだと信じていなかったが、あの噂は本当だったんだ…
ズタダダダダダ!!
わたしがルビアさんに気を取られていると、無数の銃弾がわたしを撃ち抜いていた。
(ぐっ! すごく痛いけど… やっと気持ちを切り替えられた…)
わたしは、あえて銃弾を受けながらイノンドの方へ歩いて行く。
わたしの腕が飛び、顔の左半分が吹き飛ぶが、次の瞬間、何もなかったように元に戻る。
マルス達はわたしの指示があるまで、主人を見送る執事とメイドとして凛とした佇まいで立っている。
マルス達も銃弾を受けているが、わたしと同じくすぐに元に戻る。
「イノンド… わたしの友を侮辱したお前を許さない」
地を這うような低い声でつぶやく。
「ひぃ…」
わたしの前にいた兵士達は、あまりの異常な状況に耐えきれず徐々に統制が乱れてきた。
わたしは猫化の動物のような縦長の瞳孔をした金色の目でイノンドを睨み、背中のドス黒く歪な形をした大きな翼を『バサっ』と羽ばたかせる。
翼から黒い霧がイノンドの周りの兵士達に覆いかぶさるように広がると、黒い霧はひとつに纏まり大きな鎌を持ち、黒いフードを被った骸骨の上半身になる。
「な!!なんだ!?」
「うぁぁぁ、に…にげろ…」
「ひぃぃ!」
兵士達が恐怖に慄き、逃げ出そうとしだした。
「あ!こら!!待て!逃げるな!」
イノンドは近くの兵士を掴み、自分の盾にしようとしている。
「刈りとれ」
わたしが骸骨に命令すると、骸骨は兵士達を切り倒すように大きな鎌を振る。
鎌は兵士達を斬る事はなくすり抜けていくと、兵士達はバタバタと倒れていった。
「な、なにをしている!早く立ち上がりリリウムを殺せ!」
イノンドは叫び、倒れた兵士の胸ぐらを掴み立たせようとした。
「…し…死んでる?」
倒れた兵士達はすでにコト切れていた。
傷ひとつなく今にも立ち上がりそうな兵士達だが、イノンドの命令は兵士に届かなかった。
わたしはゆっくりとイノンドに向かって歩を進める。
「ひ… ま、まて!わたしは総督だ!総督なんだぞ!」
イノンドは尻もちをつき後退りしている。
「…だから?」
「ま、まて!わかった!は…話しをしよう!」
イノンドは涙と鼻水を垂れ流しながら叫ぶ。
「…もう、話すことはない。お前は死ぬのだ」
冷たく言い放つ。
「ひ、ひぃ…」
イノンドは尻もちをついたまま後退りし、わたしから距離を取ろうと必死にもがいている。
しばらく後退りするとイノンドは何かにぶつかった。
イノンドはゆっくりとソレを見る。
「ロベッジ皇子!!」
そこには黒髪を首辺りでまとめて、切れ長の黒い目をした美青年が立っていた。
イノンドはロベッジの足に纏わり付くように、ロベッジの背後に隠れる。
「皇子!た、助けて…」
悲壮な顔のイノンドはロベッジの背後に隠れると、ガタガタと震え体を小さくしている。
「……」
ロベッジ皇子は、哀れな愚か者を見るようにイノンドを見下した後、切れ長の黒い目でわたしを見る。
「わたしはジギタリス帝国 第二皇子のロベッジだ。あなたがリリウム殿か。アニスからあなたの事はよく聞いている。まずは落ち着いて話しをさせてくれないか?」
ロベッジは透き通った美しい声をしていた。




