そんなのムリに決まってる…
あたしが旅に出てすぐの頃、コーナス達と出会った。その時、コーナスの祖父ドラセナは招待状を受け殺された事を知った。コーナスはドラセナの死は、名誉ある死で誇りに思うと言っていた。その時、あたしは少しだけ羨ましいとも思った。
そして実際に両親は殺され、いま目の前に両親を殺したヤツがいる。
きっとマヴロもリアリナも『名誉ある死』だったのだろう。あたしもそれを誇りに思うのが、魔界では『正しい』のかもしれない。
「…そんなのムリに決まってるじゃん」
あたしはボソッと呟く。目頭が熱くなり、涙が溢れそうになる。でも、それ以上に怒りが込み上げてくる。
怒りは涙を蒸発させ、脳に大量の血を送り熱くするが、思考は冷たく自分でも恐ろしいほど冷静になっていた。
あたしは両親を殺したと言っている兵士達を睨む。
両手のアイアンナックルをガチンとぶつけ、今すぐにでも突撃する勢いだった。その時、兵士達の後ろから大声でイノンドが叫んだ。
「リリウム!今すぐ投降しろ!でないと、お前の大事な『友』がたくさん死ぬことになるぞ!」
イノンドは飛行船の係留場所を指差していた。
指差す方を見ると、数機の飛行船が今にも飛び立とうとしている。
「ルビアさん」
リリウムは短くルビアに指示を出した。
「はい!」
ルビアは飛び立とうとしている飛行船を確認すると、呪文を唱える。
「メテオストーム!!」
ルビアが呪文を唱えると、飛行船の係留場所の上空が赤く染まり、無数の拳大の隕石が現れ炎を纏って降り注いだ。
降り注ぐ隕石郡は、飛び立とうとしている飛行船を貫き、係留場所に止めている飛行船や、付近の建物も巻き添えにして爆発・炎上し、辺りを火の海に変えた。
「あ!!あの魔法は!!」
「ひぃ!!やはりリアリナだ!リアリナが生き返ったんだ!」
一部の兵士達がパニックを起こし出した。
飛行船を撃墜したのを確認して、あたしは右手を上げファイヤーボールを唱える。
右手の上に直径2メートル程のファイヤーボールが現れ、射出されるのを今か今かと待ち望んでいるかのごとく炎が猛っている。
「う!撃て!あいつを撃ち殺せ!!」
兵士の隊長らしき人物がルビアを指差して叫ぶ。
ズダダダダ!!
ルビアの目の前にいた兵士達が持つ、アサルトライフルが火を吐いた。
「行けー!」
あたしは叫び、ファイヤーボールはあたしの正面から兵士に向かって射出された。
炎の塊はあたしを殺そうと襲い掛かる、アサルトライフルの弾を喰らいながら兵士達に直撃し爆発する。
辺りにいたたくさんの兵士達は、爆発に巻き込まれ阿鼻叫喚の様相を見せた。
「リアリナは魔法は凄かったが、肉弾戦には弱かった!あいつがリアリナなら距離を詰めて倒すんだ!」
兵士の隊長らしき人が叫ぶ。
後方の兵士達はルビアに向かって、無数の弾を撃ち続け、前方の兵士達はナイフを持って、一斉にルビアに突撃してきた。
「鬱陶しい!」
あたしは後方の兵士にファイヤーボールを撃ち込み、たくさんの兵士達を爆炎で焼き殺す。
その時、ナイフを持った兵士5人がルビアの腹や脇腹にナイフを突き立てた。
「ぐっ!!」
その後を追うように、兵士達があたしを取り囲み背中や胸などにナイフを突き立てる。
「ルビアさん!!」
リリウムが叫ぶのが聞こえた。
「ファイヤーストーム!!」
ルビアは口から血を吐きながら呪文を唱えると、ルビアを中心に炎が巻き起こり炎の竜巻が発生した。
「ぐあああぁぁぁ!」
ルビアにナイフを突き立てた兵士達は、炎の竜巻に巻き込まれて炭化する。
炎の竜巻が収まると、全身に火傷とナイフの刺し傷を受けたルビアが立っていた。
「ルビアさん!」
リリウムが叫ぶ。
兵士達は立ち尽くすルビアを黙って見ていた。
するとルビアの火傷や刺し傷は、みるみる治りあっという間に無傷となる。
「ふぅ、痛かった…」
あたしは刺された場所を撫でて、傷が塞がっていることを確認し、ニヤリと兵士達を見る。
「ひ… イヤだ… 死にたくない…」
兵士の1人が呟いた時、恐怖は兵士達に伝播しパニックになる。
「マヴロだ!リアリナとマヴロが復活した!」
「ダメだ… あんなバケモノと戦うなんで命が幾つあっても足りないぞ!」
「た…助けてくれ!!!」
パニックを起こした兵士達は叫びながら戦線を離脱した。
「あたしの両親を殺した後、お前たちは、そうやって命乞いする住人達の願いを聞いたのか?」
あたしは一緒に薬草を取りに行った幼馴染み達を思い出していた。そして、あたしがコロニーに着いた時、幼馴染み達は恐怖を顔に貼り付けたまま死んでいたのだ。
マヴロとリアリナは戦って死んだ。でも、住人達は一方的に殺されたのだ…
ギリっ
あたしは奥歯を噛みしめる。
こいつらは、とおさまとかあさまの… そして、幼馴染みや、コロニーのおじさん、おばさん、ちょっと口うるさいお爺さん… あたしが大好きだったコロニーのみんなの仇だ…
あたしは盾を消すと、両手に炎を纏い混乱した兵士達に突っ込む。
「うぉぉぉおおおおらぁぁああああ!!」
あたしは手当たりしだいに兵士を爆殺していった。




