仇
(イノンド)
「なんだあのバケモノは!」
イノンドは身震いしながら叫び、外を目指して走っていた。
とにかく外に出て兵を集めるしかない。
そういえば、リリウムは魔界の住人達に異常に執着しているとアニス元総督が言っていたな…
飛行船を飛ばし、近くのコロニーを破壊すると脅せば手も足も出せなくなるだろう…
次善策を考えながら走っていると外への扉が見えてきた。
わたしは勢いよく扉を開け外に飛び出すと、建物の周りには約1000人近い兵達が建物を取り囲んでいた。
「お前たち!後からリリウムとその仲間が出てくる。扉から出た所を狙うのだ!」
わたしは叫ぶと、兵達は一斉に扉に向かってアサルトライフルを構える。
「おい、お前。飛行船部隊に伝えてこい。今すぐ近くのコロニーへ向かい、町を破壊するのだ」
近くにいた兵士を飛行船部隊へ伝令として走らせる。
(よし、これでヤツらは終わりだ…)
準備を終えたわたしは、兵達の後ろに移動しリリウムが出てくるのを待つことにした。
しばらくすると、背後から聞き覚えのある声がした。
「イノンド総督、いったい何事だ?」
黒髪を首の後ろ辺りでくくった美しい男、ロベッジ第二皇子だった。
「は!皇子!」
わたしは慌てて敬礼する。
「うむ、挨拶はいい。何が起きたのだ?」
「はっ。実はまたリリウムが来ておりまして、魔石の納品について我らと取引をしたいと言ってきました。それは、我はに利益がないと説明すると突然暴れだしたのです」
わたしは簡単にリリウムとのやり取りを説明する。(もちろん、クソムシ発言は隠し、わたしの都合のいいように説明する)
「なに!?リリウムがか!?」
ロベッジはアニス元総督の話しを思い出し青ざめていた。
「ロベッジ皇子、ご安心ください。すでに手はうっております」
わたしはニヤリと笑うと、リリウムが出てくるであろう扉を睨みつける。
その時、ゆっくりと扉が開いた。
◇◇◇◇
(ルビア)
リリウムとマルス達は、部屋にいた兵士達のほとんどを一瞬で殺してしまった。
扉には逃げようとした兵士達が、折り重なるように倒れ死んでいた。
「リリウムさま…」
あたしは何も出来なかった事を申し訳なく思い、リリウムの横で頭を下げていた。
「ルビアさん、ケガはありませんか?」
リリウムはニコっと微笑んで、あたしを心配してくれていた。リリウムの背中には歪な黒い翼があり、美しかった金色の髪は血のように赤く、逆に血のように赤かった目は金色になったままだった。
「はい、お役に立てず申し訳ありませんでした」
「いいえ、ルビアさんを止めたのはわたしです。さあ、イノンドを追いましょう」
あたし達はイノンドが逃げた扉を潜り、廊下を進む。しばらく進むと扉が見えてきた。
「リリウムさま、まずはわたし達が行きます」
マルスとティモル、フォセラは扉を開けるとそこは建物の外だった。
目の前にはたくさんの兵士が並び、こちらに銃口を向けていた。
「撃て!!」
声が響くと、すべての銃口が火を吹きマルス達を襲う。
マルス達は無数の銃弾を受け、腕や足が飛び、腹に穴が開き、頭が爆ぜる。
扉を出たマルス達は、扉の前で肉片と化し地面にばら撒かれてしまった。
「撃ち方やめ!」
銃撃は止まり、硝煙だけが立ち込めていた。
「ふ…ふは…ふははははははは。やった!やったぞ!」
兵士たちの後ろでイノンドが高笑いをしている。
そんな中、リリウムは平然と扉から出て肉片をチラッと見る。
あたしは腕に土魔導を纏わせ、鋼鉄の盾を出現させると盾を構えて外に出る。
「マルス、ティモル、フォセラ。いつまで寝てるのですか?」
リリウムは肉片に向かって話しかける。
肉片はウゾゾゾゾと動き出し、人型になるとマルス達が現れた。
「いやぁ、ビックリしました…」
はははと、軽く笑うマルス。
「ウソおっしゃい」
リリウムが軽く返すと
「バレてました?ちょっとした演出ですよ」
マルスは燕尾服をはたきながら笑い、ティモルとフォセラはメイド服を整えながら、「マルスに付き合うのも大変です…」とボヤいていた。
「う…うそだろ…?」
イノンドを始め、兵士達は信じられない光景に動揺が隠さないでいた。
「こ…これが、リリウム…」
ロベッジはアニス元総督の言葉を、もう一度思い返していた。
あたしは盾を構えたままリリウムの横に立ち、兵士達を睨む。
すると、兵士達の中からザワザワと声が聞こえてきた。
「あ…アレはまさか?」
「ウソだ。確かに殺したはずだ…」
「金髪の魔女がいる… イヤだ… もうイヤだ…」
「いや、アレは違う。リアリナは死んだんだ。俺たちが殺し、遺体も確認したんだ…」
「あぁ、マヴロと一緒にリアリナの遺体も確認したじゃないか…」
「そうだ、そうだ。生き返るはずがない。あれだけ粉々にしたんだから…」
「リリウムさま、あたしも戦ってもよろしいですか?」
あたしは怒りを抑え、リリウムに確認する。
「ルビアさん?」
「あそこに、父と母の仇がいます。マヴロとリアリナを殺したと言っています…」
あたしはイノンドがいる場所から右の方向を指差す。
「わかりました。もう、わたしもイノンドを許す事はできません。ルビアさん、戦う事は許可しますが、あなたが死ぬ事は許しませんよ」
リリウムはニコっと微笑んだ。
「もちろんです」
あたしは、とおさまのアイアンナックルを手にはめ、声のした方の兵士達をギンっと睨む。
「イノンド。わたしの友を侮辱した罪を償う時が来ました。さぁ、もう話しは終わりです。お前は、わたしに会った事を後悔しながら絶望の中死んでもらいます」
リリウムは兵士達の前に立ち、悍しい視線をイノンドに向けると、地を這うような低い声でイノンドの終わりを告げた。




