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100万人目の異世界転生者  作者: わたぼうし
第2章 反撃編
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アニス総督の予感

――――(イノンド)――――


魔界侵攻が始まり、しばらく経った頃…



イノンドはアニス総督について、ロベッジ第二皇子の執務室に来ていた。

ロベッジ第二皇子は黒髪を首の辺りでまとめ、切れ長の黒い目は忙しそうに書類を確認していた。体格は細身ながらも逞しく、イノンドとは対照的に美しい男だった。こんな場所に居なければ、きっと世の女性達が放ってはいないだろう。

ロベッジは机に溜まった書類に目を通しながら、アニス総督に話しかけていた。


「また、リリウムとか言う小娘が来ていたのか?」

ロベッジはチラッとアニス総督を見るだけで、書類を整理する手は止まらない。


「はい、また『友』を殺さないでくれ…と」

アニス総督は黒い髪を短く切り、歴戦の戦士のような筋骨隆々の体格をしており、顔には大きな傷が付いていた。その目で見られると、初めての人は恐れてしまうほど細く鋭い目をしていたが、話すととても穏やかで誰もが頼りたくなるような男だった。


「そうか、これで何度目だ?」

ロベッジは休むこと無く書類を片付けていく。


「もう数えておりません。短い時は3日とあけずに現れますので、常に側にいるような感覚になります」

アニスは、ははははと笑っていた。


「アニス総督もお忙しいのに、失礼な小娘だ…」

わたしはボヤくように、アニス総督の忙しさをアピールする。


「イノンド、そう言うな。あれでも一国の主人、いやここではコロニーの主なのだ。民が心配なのだろう」

アニスはリリウムを庇うように話す。わたしはそれが気に入らなかった。魔界の者など奴隷と同じではないか。反抗するなら魔界のルールに従い殺せばいいのだ。

アニス総督はあの小娘を特別に見ているのではないのか?と、いつもモヤモヤしていた。



「アニスよ、イノンドの言う事も一理あるぞ。お前も忙しい身だ。いつまでも構ってはいられまい。いっそ殺してしまってはダメなのか?」

ロベッジは書類整理の手を止め、アニスを正面から見る。


「皇子、我々の目的は魔界の住民達を殺す事ではありません。わたし達は魔石を集め本国に送り、件のエネルギー問題を解決する為にここに居るのです」

アニスはキリッとした表情で、ロベッジに反論する。


「ははは、分かっておる。冗談だ」

ロベッジは手をヒラヒラと振り、また書類整理を始める。


「ところでアニス。今日の用件はなんだ?」


「はい、先日向かったコロニーの制圧が完了しました」


「そうか、また降伏しなかったのか。確か、マヴロとか言う男のコロニーだったな」

ロベッジは手を止めると、少しため息をつきアニスを見ていた。


「はい、降伏を勧めたのですが…。この魔界の者達はどうしても戦うことを止めようとはしません。このままでは魔界の住人の数が減り、必要な魔石を集める事も難しくなる可能性があります」


「うむ。我々には魔石と普通の石の違いが判らないからな。なんとか魔界の住人達とよい関係を築いて、魔石を安定的に集めることができないのだろうか…」


「ロベッジ皇子、わたしに案があります」


「ほう、案とは?」


「はい、リリウムを利用するのです。リリウムは自分のコロニーだけでなく、魔界に住む全ての者を『友』と呼び、命を助けて欲しいと願い出ています。そこで、リリウムに今あるコロニーの主達へ降伏を勧めさせるのです。降伏すれば殺さないという条件を付けて…」


「なるほど、それで降伏したコロニーは我がジギタリス帝国の言いなりとなり、魔石の採掘をさせることも出来るか」

ロベッジはふむふむと頭を縦に振っていた。


「はい、実はマヴロ討伐に我が軍の半数以上が殺されてしまい、その後、リアリナと言う魔法使いにも大打撃を受けております。できる事なら、これ以上の被害を出さずに作戦を進めたいのが本音でもあります」


「半数以上だと!?」

ロベッジは、バンっと机を叩き立ち上がる。


「はい、飛行船も数機破壊されました。幸い、マヴロとリアリナは共同で戦う事をしなかったため、なんとか討伐する事ができました。もし、2人が協力していたらわたし達は全滅していたと思われます」

アニスは鎮痛な面持ちで報告する。


「そこまでのヤツらだったのか…」

ロベッジは椅子に座り背もたれにもたれると、ふぅとため息をついた。


「はい、そしてリリウムですが…」

アニスはそこまで言って、言葉を止めてしまう。


「リリウム?あの小娘がどうした?」


「……」

アニスは言うか言うまいか少し悩み、意を決したように話し出した。


「はい、これはわたしの勘なのですが。マヴロやリアリナ、ヘレボルスなど強者と呼ばれる者達は相対すれば『恐怖』や『恐れ』などの感情が湧くものです。しかし、リリウムだけは違いました。彼女からは『恐怖』や『恐れ』ではなく、『悍ましさ』を感じるのです」

アニスはリリウムを思い出すだけで、少し体を震わせていた。


「悍ましさ…だと?」

ロベッジもわたしも理解が出来ずアニスを見る。


「なんと言うべきか、うまく表現できませんがリリウムからは身の毛もよだつ悍ましさ…と、言うような感覚があります」


「あの小娘が…か」

ロベッジは未だに信じられない…といった顔をしている。


「しかし、リリウムは異常なほど魔界の住人達に執着しております。住人達を殺さないと言えば喜んで協力するでしょう」


「なるほど。例えばリリウムがその執着を無くすとしたら、どんな状況が考えられる?」

ロベッジは両手を組んだ上にアゴを乗せアニスを見る。


「そうですね、例えば魔界のコロニーが一致団結し1つの国となり、住人達を守れる存在が現れるとか。または、住人達が全滅し守る必要がなくなった場合でしょうか?」

アニスは腕を組み、空中を見つめて考える。


「アニス総督、それはあり得ません。魔界のコロニーは皆バラバラで、お互いが協力しようなんて発想も出てきませんよ」

わたしは、有り得ない状況を笑い飛ばした。


「うむ、確かにこの魔界の連中には協力なんて言葉は無さそうだ。まぁ、そんな執着も忘れるほど激昂したら別だろうが、彼女は賢くよく周りを見ている。そこまで激昂する事もないだろう」

アニスも笑っていた。


「アニス、万が一だ。万が一、リリウムが本気で敵対した場合、どうすればよいと思うか?」

ロベッジだけは笑っていなかった。真剣に『万が一』を考えていたのだ。


「ロベッジ皇子。その時できる選択は2つしかありません。1つは魔石を諦めて本国に逃げて下さい。もう1つはリリウムと対話し、怒りを鎮めるしかないでしょう」

アニスは真剣な表情でロベッジを見つめる。


「ふむ。逃げることはできん。そうなればリリウムと対話するしかないか…」

ロベッジは、うーむと唸っていた…



(そんな世迷言を皇子が信じてどうする)

と、イライラしながらロベッジとアニスの会話を黙って聞いていた…

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