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100万人目の異世界転生者  作者: わたぼうし
第2章 反撃編
80/148

悍しき力

残酷な表現があります。

ご注意ください。

「き、きさま!わたしに歯向かう気か!」

イノンドは立ち上がり、少し声を震わせながら叫ぶ。

同時にイノンドの前にいた兵士4人が、盾になるように間に入りアサルトライフルを構えていた。


イノンドが椅子の肘掛に隠してあるボタンを押すと、けたたましい程の音量でサイレンが鳴り響き、イノンドが入ってきた扉から兵士が続々と突入して、あたし達とイノンドの間を埋め尽くした。


「き、貴様ら、わたしを怒らせたな!生きて帰れると思うなよ!」

兵士に囲まれたイノンドは急に強気になり、あたし達にそう叫ぶと勝ち誇ったように高笑いする。


「イノンド、わたしは長い時間を生きてきたが、これ程の怒りを覚えた事はなかった。イノンドよ、最後にわたしのこの姿を見た事を後悔しながら死んでいくがいい」

リリウムの地を這うような恐ろしい声が部屋中に響く。


リリウムの声を聞いただけで、何人かの兵士はガタガタと震えだし、涙を流す者まで出てきた。

一瞬、狼狽たイノンドだが兵士に囲まれている事もあり、すぐに強気になると叫ぶ。

「撃て!撃ち殺せ!!」


イノンドの声に弾かれるように兵士達が、あたし達に向かって発砲した。

座り込んでいたあたしは、自分の目の前に岩石の壁を出すのが精一杯だった。


ズガガガガガガ!!!


部屋中に無数の銃撃音が響き、硝煙が立ち込めた。

銃撃音がしばらく続いた後、イノンドの命令で止まる。


「ふ、ふははははは。わたしに歯向かうからこうなるのだ!」

イノンドは叫び、高笑いをしている。

部屋に立ち込めた硝煙が徐々に晴れてくると、岩石の影からルビアが、そして銃撃を受けたリリウムが立っていた。


「な…なに!?」

イノンドは信じられない光景に慄き、兵士達も動揺が広がる。


「イノンドよ、こんな物でわたしを殺せると思っているのか?」

リリウムはかすり傷ひとつ付いていなかった。


「そ…そんなバカな… ええい!撃て!リリウムを撃ち殺すのだ!!」

イノンドが再度命令すると、怯えていた兵士達も再度発砲した。


アサルトライフルの弾は確実にリリウムを撃ち抜いていた。

なんの抵抗もせず全身に銃弾を受けているリリウムの腕が飛び、腹に穴が開き、頭が爆ぜていたが次の瞬間には何もなかったように元通りになっていた。


銃撃を止めた兵士達は、傷ひとつないリリウムに恐れ慄き統率が乱れ始める。


「イノンド総督、こちらへ!」

謁見の間に初めからいた4人の兵士は、この異常な状況に反応しイノンドの四方を固めると、イノンドを連れて部屋から脱出しようとしていた。


「我が眷属よ、ここに現れ我が敵を滅ぼせ」

リリウムが呪文を唱えるように呟くと、リリウムの影から3つの人影が現れた。

人影はしだいに色を持ち、屋敷で見送ってくれたマルスとティモル、フォセラが現れ、膝をついて頭を下げていた。


「なんとお美しい…」

マルス達はリリウムに見惚れると、すぐに兵士達を睨む。


「貴様らにリリウムさまのお姿を見る資格はない。この下等生物が!」

マルスがそう叫ぶと、ティモル、フォセラと共に兵士の中へ突入する。


兵士達は慌ててアサルトライフルを構えるが、指揮するイノンドが逃げようとしているため統率が取れず出遅れてしまう。


マルス達が腕を一振りするだけで、兵士達の首が飛びあっという間に辺りは血の海が広がっていく。


リリウムはドス黒い歪な翼を広げ、兵士に向かって『バサっ』と一度だけ羽ばたきをする。翼から黒い霧が発生し、兵士達に覆いかぶさるように広がった。

黒い霧はやがて一塊に集まり、大きな鎌を持ち黒いフードを被った骸骨の上半身に姿を変えた。


「刈りとれ」

リリウムが骸骨に命令する。


骸骨は何も言わず、手に持った大きな鎌を兵士達に向けて振るうが鎌が兵士達を素通りするだけだった。鎌に素通りされた兵士達は、見た目は何も変わらずケガもしていなかったがバタバタと倒れていった。


近くにいた兵士が慌てて、倒れた兵士を抱き起こす。

「…し…死んでる…」

兵士達は更にパニックになり、扉に殺到していた。



「えぇ!?」

あたしは現実離れし過ぎた光景に圧倒され、ただただ成り行きを見守る事しか出来なかった。


イノンドはすでに部屋から脱出しており、混乱した兵士達は、我先にと部屋から逃げようとし始めていた。



◇◇◇◇



「ばかな!ばかな!ばかな!!」

イノンドは叫びながら廊下を走っていた。


「イノンド総督!こちらです!」

兵士の1人が叫び、外への道を示す。


「わかっておるわ!!」

苛立つイノンドは兵士を殴り、外への通路を走り抜けていた。


「アレが、あのリリウムだと言うのか!?あんなにひ弱そうな小娘が…」

イノンドは歪な翼を広げたリリウムに恐怖を覚えいた。いや、恐怖というよりも悍ましさを感じていた。


「これか… アニス総督はこれを感じ取っていたのか…」



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