新しい風
リリウムが熱く語り終えると、大広間はしんっと静まり返っていた。
「皆さま、この戦いを制するには皆さまの協力がなければ成り立ちません。どうか、ルドベキア王国の一員となり一緒に戦って頂けないでしょうか?」
リリウムはもう一度、主達に心からお願いをした。
「リリウム女王さま、あなたの話しはよく分かりました。わたしは協力を惜しむつもりはありません」
グニーがリリウムを正面に見て話す。
「では…」
リリウムはパァと顔を輝かせてグニーを見つめている。
「しかし、ルドベキア王国に属するメリットはあるのでしょうか?今のまま各コロニーが協力しあうのではダメなんでしょうか?」
グニーの言葉にリリウムは少し俯くが、すぐに元の表情に戻る。
「例えば各コロニーの主達が個別にジギタリス帝国と交渉した場合、交渉内容や主の力量により各コロニーに格差が出てきます。それはジギタリス帝国にとっても有利な事で、交渉時に違うコロニーを引き合いに出され不利な交渉しかできなくなるのです」
「なるほど、確かにそうかもしれん…」
グニーは腕を組み、個別交渉した時のイメージをしていた。
「それに、ルドベキア王国として同じ条件で交渉しておけは、各コロニー同士で助け合う事もできます。もし、魔石の採掘量が足りない場合、余っているコロニーから融通する事もできるのです。わたしのイメージは、ルドベキア王国として一括で魔石をジギタリス帝国に納品します。その際、各コロニーから既定の魔石を集めるのですが、採掘場所によって余る時や足りない場合があります。それをお互いに補完しあう事で、全コロニーの住人達が安心して暮らせるようにするのです」
「おお!それはいい案だ!」
クラーキアが思わず声を上げる。
「確かに魔石が規定量に満たない事がある。その時はもう胃が痛くなり、魔石をかき集めるのに必死だったんだ…」
ゴデチアが当時の事を思い出し、胃を押さえる。
「それだけではありません。わたしは各コロニーを道で繋ごうと考えています。お互いの住人達が自由に往来し、農作物やお酒、調度品などの物流を活性化させるのです。そうして人や物、情報が活発に動けばルドベキア王国は活性化し、さらに発展する事ができるのです」
リリウムは未来のルドベキア王国を思い浮かべ、満面の笑みで両手を広げ主達に語る。
「なるほど…」
主達はうんうんとうなずき納得しいた。
「あの、ジギタリス帝国との交渉ですが、そう上手くいくのでしょうか?わたしはヤツらの非道を見てきました。最悪、コロニー皆殺しなんてことは…?」
クラーキアが心配そうにリリウムを見ている。
「む?其方、リリウム女王を、私を信用できんのか?」
クレアがクラーキアをギロっと睨む。
「い!いえ!滅相もございません!ただ、もし万が一…と思いまして…」
クラーキアはだんだん声が小さくなって、同時に体も小さくなっていく。
「クラーキアさま、その点は大丈夫ですよ」
リリウムはニコっと笑う。
「そうなんですか?」
クラーキアはクレアの顔色を伺いながら、リリウムに答える。
「はい、先程も申しましたようにジギタリス帝国民は魔石を見分ける事ができません。ですのでわたし達が魔石を採掘し納品しないと、ジギタリス帝国のエネルギーは瞬く間に枯渇するのです。それはヤツらも望むところではありません」
「そ…それはその通りですが…」
クラーキアはまだクレアの顔色を伺っている。そんなクラーキアにクレアがイライラし始めていた。
「今の魔界はジギタリス帝国に殆どの人が殺されてしまい、魔石を集める事ができるのはわたし達くらいになりました。なので、ジギタリス帝国としてはわたし達をこれ以上殺すことが出来ないのです」
リリウムはニヤリと笑う。
「なるほど!だから魔石を見分ける事ができる事が、わたし達の『強み』なのですね!」
クラーキアは全て理解したと満面の笑みになったのを見て、クレアはイライラが収まりいつもの顔に戻った。
「はい、その通りです」
リリウムがニコっと笑い答える。
「それでは、改めてお願いします。皆さま、どうかルドベキア王国の一員となり、わたし達と共にジギタリス帝国から魔界を取り戻す戦いにご協力をお願いします」
リリウムは深々と頭を下げる。
「…まぁ、いまの魔界よりリリウム女王の言う魔界の方が面白そうだしな」
「わたしはジギタリス帝国の言いなりにはなりたくなかったんだ」
「オ…オレもリリウム女王と同じ考えだったんだ。まぁ、今回は譲るけど…」
などなど、主達は今までの自分に言い訳でもするかのように言い合っていた。
沈黙していたグニーは立ち上がると
「それでは皆さま、今より我らはルドベキア王国の一員となり、リリウム女王の臣下となる事でよろしいな?」
「うむ。我ら力を合わせ憎きジギタリス帝国から魔界を取り戻そうぞ!」
主達は全員立ち上がり、グニーの言葉に賛同した。
「あ!!ありがとうございます!」
リリウムは頭が膝に付くくらい下げお礼を言う。
「リリウム女王さま、我らの忠誠をお受け取り下さい」
グニーを中心に主達はリリウムの前に集まり、片膝を付いて頭を下げリリウムに忠誠を誓った。
まだ魔界全てを統一できたわけではないが、ルドベキア王国は着実に目的に向かって歩き出したのだ。
ルビアは達はリリウムの後ろで誇らしげに、そして凛々しく立っていた。
それは、魔界に新しい風が吹き始めた瞬間だった。




