コロニー主との交渉 〜ルビア6〜
とてつもない爆発音にびっくりした屋敷の人達が元闘技場に現れたのは、あたしがシオンの一言に凹んでいる真っ最中だった。
グニーは屋敷の人に回復魔法をかけてもらい、一人で歩けるほどまで回復した。
グニーが立ち上がると、住人達の中から1人の男が近づいてきた。
「エゴノキ…」
グニーは男を見てつぶやく。
「グニー…」
男は、あの焼肉屋の主人だった。
エゴノキはポケットからタバコを取り出して火をつけると、ふぃーと煙を吐き出す。
「エゴノキ… オレは…」
エゴノキは、俯きただ立ち尽くしているグニーに近づくといきなり殴りつけた。
グニーは殴られた頬を手で抑え、ヨロヨロと後退りする。
いきなりの事で、あたしは呆然と成り行きを見ていると、エゴノキはルビアに向き頭を下げる。
「ルビアさん、ありがとう。オレ達はやっとお互いに理解し合う事ができた。あんたのおかげだ…」
「ご主人、あ、いやエゴノキさま。あたしは何もしてません。全てエゴノキさまとみなさんが決めて、行動してくれた結果ですよ」
あたしはエゴノキの手を取り握り締めた。
「エゴノキ… いったいなんの話しをしているのだ?」
グニーはエゴノキとあたしに近づいてくる。
「あぁ、実は1週間前の話しだ…」
エゴノキはタバコを一気に吸い、むはーと煙を吐き出すとゆっくりと話し出した。
◇◇◇◇
(1週間前:エゴノキ)
オレは今日の仕込みをしていると、店の裏口で女将と誰かが言い争っているのが聞こえた。
なにを騒いでいるんだ?と気になり見に行くと先日店に来ていたルビアとか言う娘がいた。
話しを聞いていると、またグニーがどうのこうのと言っている。
オレはめんどくせぇと思いながらも、これじゃ仕事にならないので声をかけた。
「まぁ、まて。お嬢さん方、ここではグニーの話しはしない方がいいって言わなかったかい?」
ルビアはどうしてそこまでグニーに拘るのだろう?
オレは若干イラっとしながらルビアの話しを聞くことにした。
ルビアはこの町の事を調べたようだった。そして、あの日から誰もが目を背けてきた事をズバズバと指摘する。
あぁ、わかってるさ。
そんな事は言われなくてもわかってる。
でも、もうこんがらがり過ぎてムリなんだ。
オレはもう、諦めたんだ…
そう言いたかったが、それを言うと認めてしまう事になり言えなかった。
すると、ルビアはとんでもない事を言い出した。
「…実は、あたし達の本当の目的は、ジギタリス帝国から魔界を取り戻す事です。その為にグニーさまの力を、グニーさまのコロニーのみなさまの力を借りに来たのです」
何を言ってるんだ?
そんな事ができるはずない。
そもそも出来ていたらこの町は、こんな事にはならなかったのだ…
ルビアの話しを聞くと、今のグニーではなく、昔のみんなに頼られているグニーに戻って頂く必要があると言う。
そしてルビアは続けた。
「そこでご主人と女将さんにお願いがあるのです」
ルビアのお願いとは、無茶苦茶なものだった。
「あたしは1週間後、グニーさまに招待状を送ります。それを住人のみなさんに見て頂き判断して頂きたいのです」
「判断?」
「はい、今のグニーさまを殺すのか、それとも昔のグニーさまに戻ってもらいやり直すのか。みなさんが考え決めて下さい」
「今のグニーを殺したら、ルビアさんが主になるのかい?」
「いいえ、あたしはジギタリス帝国と戦うためにやるべき事があります。ここの主にはなりません」
「じゃあ、主はいったい誰が?」
「それもみなさんで考えて下さい。全てみなさんで考え、決断し、行動してください。あたしはキッカケしか作ることはできません」
「そんな事でグニーを殺すのか?」
オレは少しムカっとして語気が荒くなる。
「え?だって、みなさん今のグニーさまはキライなんでしょ?」
「………」
オレは何も言えなかった。この子の言うことは無茶苦茶だが、オレにそれを否定する事は出来なかった。
「それじゃ、ご主人。町のみなさんと一緒に考えて行動してくださいね。1週間後、よろしくお願いします」
ルビアはニコっと笑う。
「あ…あんた、無茶苦茶だな…。まあ、いいよ。やってやるよ」
オレは苦笑いしながら、ルビアのお願いを承諾した。
それからオレは町の取りまとめ役をしている若い奴らや、年寄り達など町の連中に声をかけルビアの話しを伝えた。そして、町の連中には『個人で考え、決断し、行動する』事を強く訴えた。
そして一週間後、ルビアは約束通りグニーの屋敷に現れた。
◇◇◇◇
「そ…、そんな事が…」
グニーはエゴノキを、そして町のみんなを見てからルビアを見た。
「グニーさま、この度は大変失礼致しました。ですが、みなさんは自分で考えてここに来ました。そして、自分で決断しグニーさまの命を守ったのです。それはご理解くださいますようお願い致します」
あたしは片膝をつき、グニーに頭を下げた。
「ルビア… 頭を上げてくれ。オレからも礼を言わせてくれ」
グニーはルビアを立たせると頭を下げる。
「いえ、あたしは何もしていません。全てコロニーの… いえ、グニーさまのご家族のみなさまのお力です」
あたしはニコっと笑う。
「……そうだな」
グニーも晴れやかな笑顔を見せてくれた。
「さて、ルビア。今回の本当の目的があるのだろう?」
「はい、グニーさま。こちらをお受け取り下さい」
あたしはシオンから親書を受け取り、グニーに渡した。
グニーは親書を読みおわると、丁寧にたたみ屋敷の使用人に持たせる。
「ルビア、わかった。オレはリリウムさまと会い、出来る限りの協力を約束しよう」
「あ!ありがとうございます!」
あたしは無事(?)、今回の役割を果たす事ができたのだった。




