コロニー主との交渉 〜ルビア5〜
あたしは左腕の感触を確かめると、吹き飛んでいった腕を探す。
「あ、あった、あった」
あたしは吹き飛んだ腕と一緒に落ちているチェインメイルの袖を拾い観戦席にいるシオンに投げる。
「シオン!それ持ってて!」
「あぃー」
あたしは左肩が出たワイルドな格好でグニーの元に戻る。
「さ、グニーさま。そろそろ本気でいきますよ」
あたしは両腕に炎を纏わせ、グニーを睨みつけた。
「てめぇ、マジで面白いやつだな」
グニーは正拳突きの構えをする。
「いきます!」
あたしはグニーに向かい突進した。
「オラァ!!」
グニーが闘気を纏わせた正拳突きを放つが、一度見た技だ。あたしは難なく回避するとグニーとの間合いを詰めた。
「うおおおぉぉぁあああらぁ!!」
あたしの右ストレートはグニーの脇腹に突き刺さると同時に、右腕に纏った炎がファイヤーボールとなり爆ぜる。
闘技場にグニーへの打撃音とファイヤーボールの爆発音が響く。
「ぬがぁぁぁ!!」
グニーは吹き飛ばされ、意思を持たない人形のように地面を転がっていった。
あたしはゆっくりと歩き、グニーに近づく。
グニーの脇腹は真っ黒に焦げており、大量の血を流していた。
「グニーさま、お覚悟を…」
あたしはグニーを見下ろしながら右手を上げると、巨大な炎を塊を出現させた。
「く、ここまでか…。ルビア、ひとつだけ頼みがある…」
「なんですか?」
「ここのヤツらを頼む。あいつらはオレの家族なんだ…」
「グニーさま? ここの住人達はグニーさまを嫌ってましたよ?」
「あぁ、知っている。しかし、オレにとっては大切な…家族なんだ…」
「そうですか… でも、それは約束できません」
「…なっ!」
「だって、ここの住人さん達、あたしにグニーさまを殺させないつもりですよ…」
「え?」
グニーの後ろには観戦していた住人達が集まり、ひざまづき頭を下げていた。いわゆる土下座だ。
「ルビアさま!お願いです!グニーさまを殺さないで下さい!」
「神聖な戦いを汚している事は承知しております!ですが!ルビアさま!!どうか!どうか、グニーさまを助けて下さい!」
「お願いします!!私達にはグニーさまが必要なんです!」
住人達は各々が叫び、グニーの命を助けて欲しいと懇願してきた。
「お… お前たち…」
グニーは住人達の方を向いて、なんとか座る。
「オレは、ジギタリス帝国に降伏し、お前達を抑えつけていたんだぞ… 」
グニーはか細い声で住人達に言葉を投げる。
「グニーさま、それはオレ達を守る為だろ?みんな知ってるよ」
若い男がグニーに答える。
「それでも、オレは…」
グニーは俯き言葉を詰まらせていた。
「みんな本当は分かっていたんだ。オレ達はグニーさまに守られていた。グニーさまがあんな態度と取らなかったら、オレ達はジギタリス帝国に反乱を起こし皆殺しになっていただろう…」
若い男はそう言うと、グニーに近寄り止血を始める。
「……ぐっ」
グニーは涙を浮かべ住人達を見ていた。
「ホント、グニーさまは昔から悪ガキで、思い込んだら聞かない人なんだから…」
中年の女性も近寄ってくるとグニーを見て微笑んでいた。
グニーを中心にいい雰囲気が広がりつつあった。
「あ…、あの。あたし、そろそろ右腕がヤバいんですけど…」
しかし、あたしの右腕は限界が近づいていた。血の気が下がりプルプルしだしていたのだ。
「ルビアさまぁ、あっちに投げますか?」
シオンは闘技場の誰もいない方向を指差して、ぷぷぷと笑いを堪えている。
「あ…、もうダメ… 腕が…」
あたしの右腕は限界を迎えつつある。
「え? あ… あのルビアさま?」
住人達はルビアの異変に気がつきオロオロしだす。
「ダメだ!えーーーーいっ!!」
あたしはシオンが指差した誰もいない方向に、巨大な炎の塊を射出すると同時に呪文を唱える。
「ドーーーーム!!」
闘技場にいる住人達や、グニー、シオンを覆い隠すように岩石のドームが出現した。
その瞬間
『ズっ… ズガーーーーーーン!!!』
ドームの外側でとてつもない爆発音が起こり、まるでこの世の終わりではないだろうかと思うほどの音や、何かが破壊される音が鳴り響く。
住人達を囲むドームは、今にも破壊されそうなほどビリビリと震えている。
ドームの中では住人達が頭を抱えてしゃがみ込み、恐怖に耐えていた。
しばらくして音が収まり、あたしはドームを解除した。
「…………」
闘技場は跡形もなく破壊され、ドラゴンが暴れたのか、それともインクローチャーの爆撃にあったかのような光景が広がっていた。
「……あ、ご、ゴメンなさい」
ルビアは小さくなって頭が膝につく勢いで謝る。
「ルビアさまぁ、また威力が強くなってますねぇ」
シオンは、ほぇーと元闘技場を見ていた。
「………」
グニーも住人達も地面に座り込み、唖然としていた…
「あちゃー、ちょっとやり過ぎちゃったかなぁ?」
あたしは頭をポリポリと掻き、辺りを見渡していた。
「ぷぷぷ、ルビアさまはだんだんマヴロさまに似てきましたね。見た目はリアリナさまなのに…」
「え…。うそ。とおさまに?」
「はい、やる事そっくりですよ?」
「いぃぃぃやぁぁぁぁぁ!!! ウソだと言ってーー!」
元闘技場にルビアの絶叫が響いていた。




