コロニー主との交渉 〜ルビア2〜
エゴノキは新しいタバコを取り出して火をつけようとするが、マッチが湿気てなかなか火がつかない。
あたしは人差し指の先に小さな炎を灯し、エゴノキのタバコに火をつけた。
「あぁ、ありがとう。お嬢さん…ルビアさんだったかな?魔導が使えるんだね…」
「ええ、少しだけですが…」
エゴノキはタバコの煙を肺にいっぱい吸い込むと、むはーっと一気に吐き出す。
(おじさんの肺の中、タバコの煙でまっくろなんじゃ?)
あたしは【かえで】の頃、健康診断の時に見た禁煙を勧めるポスターを思い出していた。
「ルビアさん、シオンさん。この町じゃグニーに関わる者は嫌われる。使いの話しはあまり言わない方がいい」
エゴノキはタバコの煙を見ながらボソリと呟いた。
「あ…、あの。みなさんどうして、そんなにグニーさまを嫌っているのですか?」
「あいつは変わっちまったのさ。まぁ、今の時代、変わらないと生きていけないけどな…。ただそれだけさ…」
エゴノキはそれだけ言うと、仕事があるから…と言って店に戻ってしまった。
休憩所に残されたあたし達は、とりあえず宿に帰る事にした。あたし達は宿に着くまで一言もしゃべることは無かった。
宿の部屋に戻ったあたしは、誰もいない事を確認してから口を開く。
「シオン、どう思う?」
「あぃー。とりあえずここの主が嫌われている事がよく分かりましたぁ」
「うん。だけど、エゴノキさんの感じだと、昔はみんなに好かれていたみたいね」
「そうですねぇ。インクローチャーに降伏してから、グニーさまと住人達の間に溝が出来たみたいでしたねぇ」
「そうなのよね。『昔はいい男だった…』って言ってたし。たぶん、エゴノキさんはグニーさまをキライと言うより、なんか… 諦めてるって感じだったね」
あたしはエゴノキさんがグニーさまを嫌っているようには見えなかった。もしかしたら、昔はいつも一緒にいるような仲間だったのでは?とも考えていた。
「シオン、とりあえずグニーさまの事調べてみよう。それからリリウムさまの親書をお持ちしよう」
「あぃー。それがいいと思いますぅ」
翌日、あたし達はグニーや、コロニーの状況について情報を集めるといろいろわかったきた。
このコロニーは元々グニーの父親のコロニーだった。
グニーは町でも評判の悪ガキだったが、義理人情に厚く常にたくさんの仲間に囲まれていた。
ある日、グニーの父親が流行病に罹り死亡した。
当時、まだ若かったグニーは父親の跡を継ぎ主となった。
若い主だと言うこともあって幾度となく招待状を受け取るが、グニーはこれを全て返り討ちにしてしまう。
そんな日々を過ごすうちにコロニーの住人達の信頼も得て、立派なコロニーの主に成長していた。
そんな時、ヤツらが突然現れた。
グニーは住人達を守るべく、必死に抵抗したが力及ばず降伏した。
数日後、グニーは住民達を集めた。
「我らはジギタリス帝国 ジャーマンダー皇帝の配下となった。これよりジャーマンダー皇帝への反抗は我への反抗とみなし、反逆罪として処分する!」
グニーはそう宣言すると住民達の声も聞かずに屋敷に戻ってしまった。
その後、ジギタリス帝国兵と同じ装備をしたグニーの配下が町を歩き回るようになり、しだいに住人達の心はグニーから離れてしまった…
「ルビアさまぁ、グニーさまはリリウムさまの話しを聞いてくれますかねぇ?」
「グニーさまは完全にインクローチャーに取り込まれているかもしれないね…」
「いざとなれば、力で抑えつけますかぁ?」
「んー。インクローチャーの武装をした人が居るようだし…。難しいかもしれない…」
「そうですよねぇ」
あたし達はグニーをどうやって取り込むか考えていた。
「ダメだ… なにも思いつかない」
あたしは早々に諦めた。元来、あたしはバカなのだ。そんな難しいこと考えたところで思いつく訳がない。
「あぃー、シオンも無理ですぅ。頭から煙出てきそうですぅ」
シオンは頭を抱えてうずくまる。
「シオン、あたし達は考えるより行動派なの。親書を渡さない訳にもいかないし。あたし、とりあえずグニーさまに会って親書渡してみる」
「そうですねぇ、このまま帰るわけにもいかないですし…」
「それでね、まずは準備しておこうと思うの」
「準備ですか?」
「そう、あたしグニーさまに招待状を送るわ」
「ええぇ!?招待状ですか!?」
あたしはニヤリと不敵な笑みを浮かべていた。




