コロニー主との交渉 〜セロシアの憂鬱1〜
オレ達は以前、情報収集をしたコロニーに到着した。
門は硬く閉ざされており、門番が1人イヤそうな顔をしてこちらを見ていた。
もう、オレにはイヤな予感しか浮かばない。と、言うか、こいつらに交渉なんて出来るわけがない!
なにが、『パーティのリーダーはメンバーを信じるのも必要だ』だよ。
あの片腕のオッサンが、要らんこと言うからオレがこんな貧乏くじを引かされてるんじゃないか…
そもそも、アナナスさんもひど過ぎだ。
自分は行きたくないからって、オレに振るか?
メンバーを信じるなら、自分で行けよな…
はぁ、もうヤダ… 帰りたい…
セロシアはブツブツ文句を言っていると、クレアはズンズンと門番に向かって行き、門番の正面に仁王立ちしていた。
「これ、そこな門番。はやく門を開けぬか」
クレアはふんっと鼻から息を吐き、腕組みをして立っている。
「また、あんたか…」
門番のコメカミにはピキピキと血管が浮き出てくる。
「恐れながらクレアお嬢さま。この門番はいちいち訪問理由を説明しないと理解ができないようです…」
デニアはクレアに向かって丁寧にお辞儀をする。
「はぁ、門番。其方はもう少し考えたらどうなのだ?其方のその頭は飾りか?」
クレアはため息を吐きながら、器用に肩を竦める。
「……っ!」
門番のコメカミの血管がビキビキと更に浮き出て、血が吹き出しそうな勢いになる。
オレがちょっと目を離した隙に、あいつらはすでに行動を起こしていた。
門番を見ると、すでにブチギレモードだった。
オレは慌てて門番と2人の間に入りクレア達を止めてみる。
「ちょ!クレア嬢!どうしたらこんな短時間で相手がここまでキレるんだよ!デニアも勘弁してくれよ」
「む?セロシア、何を言っている。そこな門番が門を開けると言う仕事をせんから、私が指導してやっているだけではないか。そんな事も見ていて分からぬのか?困ったヤツじゃの」
クレアはふんっと鼻から息を吐き、オレを見下ろす。
「セロシア、クレアお嬢さまは全て正しいのだ」
デニスまでが、訳の分からない事を言い出したぞ?
オレはめまいがしてきた…
「おい、あんたら!いくらアナナスさんの仲間でも、いい加減怒るぞ」
門番が手に持っている長い棒を地面に突き刺し声を荒げる。
「これ、そこな門番。いいから早く門を開けぬか。其方の仕事はそれだけであろう?」
「んなっ!!!!」
門番のコメカミからブチブチと音が聞こえるような気がした。
「ちょ!待てって!もう、あんたらは黙っててくれ…」
オレは慌てて門番に平謝りした。これはオレの人生で最大級の平謝りに違いない。いや、この世の中でオレほどの平謝りをした者はいないだろう…
それくらいオレは平謝りした。いや、平謝りしまくった。
「あんた、セロシアさんだったか?いくらアナナスさまの仲間でも、コレはダメだろ?」
門番はオレの史上最大級の平謝りで機嫌をなおしてくれたようだった。
「門番さん… あんただけだ。オレを分かってくれるのは…」
いま、オレと門番の間には深い友情が生まれた…
「ほれ、早く仕事をせんか」
「クレア嬢!!! もうやめてくれーー!!!」
◇◇◇◇
オレは門番に親書を見せて、リリウム女王の使者としてコロニーの主と話しをしたいと説明した。
「セロシアさん、今度からはこいつらより先にセロシアさんが説明して下さい…」
門番はオレにそう耳打ちして、門の横にある小屋に入っていった。
しばらくすると、ゆっくりと門が開き先ほどの門番が立っていた。
「さぁ、どうぞ。ようそこ、クラーキアのコロニーへ」
門番は片手を横に広げ、クラーキアのコロニーへ歓迎してくれた。
オレたちはコロニーの主、クラーキアに会うためコロニーの中心へ向かっていた。
「おお、懐かしい。ここらは昔から変わらぬの」
クレアは目を輝かせながら町並みを見ている。
前回、情報収集をしに来たときは住人への聞き込みがメインだったため、ほとんど町の酒場やいろんな店が並ぶ通りで活動していたのだ。
「クレア嬢、ここの主、クラーキアとは知り合いなんだよな?」
「クラーキアは私の父のおかげて主になれたようなものじゃ。だから、昔からクラーキアは私の言うことには逆らえん」
「ホントだろうなぁ。また揉め事はイヤだぜ?」
「む?当然じゃ。私に任せておれ」
クレアは意気揚々とクラーキアの屋敷に向かって歩きだした。
オレ達はただ、その後ろをついていくだけだ…
デニアは何も考えていないだろう。そんな顔をしている。
オレは考えないようにした。考えれば考えるほどイヤな予感しかしないから…
あぁ、たのむ。
何事もなく、主がリリウム女王に会うと言ってくれ…
オレは祈るしかできなかった…
クラーキアの屋敷の大きさはリリウムの屋敷とあまり変わらなかった。どこか懐かしい感じの温泉旅館のような屋敷だ。
いきなりの訪問だったので玄関には誰もいなかった。
クレアは我が家のようにズカズカと屋敷に入っていく。
「おいおい、ホントに大丈夫なんだろな…」
「セロシア、心配するな。クレアお嬢さまを信じろ」
「デニア… お前のその信頼はどこからくるんだ…」
オレはだんだん胃が痛くなってきた…
「クラーキア!おるか!私だ。クレアだ!おらんのか?」
ホールで突然クレアが叫ぶと、屋敷の奥からドタドタとたくさんの足音が聞こえてきた。
「ちょ、マジでたのむ。もう、トラブルは勘弁してくれ…」
オレはこの場を逃げ出すルートを確認し、いざとなれば一番に逃げ出してやると気合いを入れた。
「クレアお嬢さま!!!」
屋敷の奥から一際大きなイヌの獣人と、イヌやタヌキの獣人が数名、慌てて出てきた。
「おお、クラーキアか。元気にしていたか?」
クレアはいつもの様に、ふんっと鼻から息を吐いていた。




