コロニーの主と招待状ー1
ルビアとシオンは町の中心にある真っ黒な城に帰ってきた。
「おかえりなさいませ。ルビアさま」
黒いスーツを着た、額から2本のツノを生やし、顎には白い髭を綺麗に整えた中年の男性が丁寧にお辞儀をする。
「ただいま、クルクマ」
ルビアは笑顔で応える。
「これはこれは、シオンさまもおかえりなさいませ」
クルクマはにっこりと微笑む。
シオンは「えへー」と眠そうに笑っていた。
玄関前の広いロビーの奥にはゆるやかなカーブを描いた階段が2つあり、階段の上には広い踊り場がある。
ロビーの床は大理石でできており、階段に向かって赤い絨毯が敷かれていた。
階段の両脇には花が飾られ、来客の目を楽しませてくれる。
クルクマの後ろには4人のメイドが整列して立っており、ルビアとシオンを微笑んで迎えていた。
「ルビアさま、また町でお手伝いしていたのですか?」
クルクマは顎髭を撫でながら微笑む。
「うん!町のみんなを助けるのもあたし達の務めだからね!」
ルビアは顔を輝かせている。さっき、オオカミを相手にした時のダルそうな態度は忘却の彼方に置いてきたようだ。
「ルビアさまはお優しいですね」
クルクマの目尻が下がり、孫を可愛がるようにルビアの頭を撫でていた。
「えへへへ」
ルビアが照れていると、階段の上から金髪の髪を背中まで伸ばし、色白で目が大きいルビアとよく似た女性が声をかけてきた。
「ルビアおかえりなさい。シオンさん、いつもルビアと遊んでくれてありがとうね」
「かあさま!ただいま!今日も薬草摘みの手伝いでオオカミやっつけてきたよ!」
ルビアは満面の笑みで自慢する。
「シオンはルビアさまのお供なので、いつも離れないですぅ」
シオンはルビアの横でクネクネしている。
ルビアの母「リアリナ」はふふふと笑ったあと、
「ルビア、お父さまが探してましたよ。また、アレだと思うわ…」
ため息をつきながら、右手でコメカミ辺りを押さえる。
「またぁ? やだなぁ…」
ルビアも乗り気ではないようで、さっさと自分の部屋に帰ろうとしたとき、ロビーに大声が響いた。
「ルビア!帰ったか! ケンカしようぜ!」
ロビーの左手の廊下からドタドタと足音がしたかと思うと、短い黒髪で額からツノを一本生やした男が現れた。
「えー、やだよー。とうさま本気で殴るんだもん」
「なんだよー、いいじゃんかー」
「だって、とうさまが殴ったら腕とか無くなるし、痛いんだもん」
過去の記憶を思い出し、右腕をさする。
「オレに似て、すぐ生えてくるからいいじゃん」
ルビアの父は豪快に笑う。
「『生えてくる』って言うな!せめて『治る』って言って!」
ルビアは色白な顔を真っ赤にして怒る。
はぁ、と一息吐いてからクルクマが声をかける。
「お話中失礼します。マヴロさま、また招待状が届いておりますがいかがなさいますか?」
「あいつら弱いから面白くないんだよなぁ、ほっとけ」
ルビアの父『マヴロ』はめんどくさそうに右手をひらひらさせて、招待を拒否する。
「マヴロ、コロニーの主としてそろそろお相手しておかないとダメですよ」
階段の上からリアリナがマヴロに声をかける。
「リアリナか。コロニーの主、お前がやれよ。オレはめんどくさい事はキライだ」
「そんなワガママ言わないの!ちゃっちゃと終わらせて来てください」
リアリナは両手を腰に当てて、怒ってるんだぞ!とアピールしている。
「ちっ。おい、クルクマ。招待状はいくつ溜まってるんだ?」
「はい、今日の分を合わせて5件でございます。」
「そうか、それじゃまとめて相手してやるから、明日の昼から呼び出しておけ。場所はいつもの闘技場だ」
「はっ。かしこまりました」
クルクマは丁寧にお辞儀をして執務室へ戻って行った。
「リアリナ、これでいいだろ?」
「はい。さすが私の旦那さまです」
リアリナは満面の笑みで答えた。