リリウムの戦い方 前編
―――(リリウム)―――
ある日、わたしは生まれた。突然、気がつくとわたしは生まれ、祭壇のような場所に立っていた。
わたしは生まれた瞬間から成人で、意識もはっきりしていた。
わたしの周りには、少数の同族がいた。同族達はなぜかわたしを崇め讃え、そして血を分け与えて欲しいと懇願してきた。わたしはよく分からないまま、同族達の願いを叶えた。
同族達は恍惚な表情を浮かべた後、わたしに付き従うようになった。しかし、ほとんどの者が自らの意思を持っていなかった。
そんな中、数名だけ意思を持つ者がいた。彼らはわたしと同じ血のような赤い目をしていた。
わたしは意思を持つものだけを側に置くことにした。意志を持たぬ者達は命令しないと何も行動せず、そのまま太陽の光を浴びて灰になってしまった。
それから数百年、意思を持つ同族達を従えひっそりと暮らしていた。
何もない、同族以外は誰もいない、そんな灰色の世界を生きていた。いや、生きていたと言えるかどうかも分からなかった。
ある日、わたしはこの灰色の世界がイヤになり太陽の光を浴びて灰になろうと決心した。あの意思を持たぬ同族のように灰になれば、この灰色の世界と離別できると… そう、信じていた。
しかし、わたしは灰になれなかった…
ただただ眩しいだけで、なにも起こらなかった。
側に置いた同族に聞くと、どうやらわたしは突然変異らしく太陽の光に耐性があるらしい事がわかった。
こうして、わたしの灰色の世界は永遠に続くことが判明した。
ある日、森を歩いていると同族以外の人と出会った。彼は人間という種族で、森に住む魔獣を退治する仕事をしていた。
わたしは彼とたくさん話しをした。いつしか、わたしは彼のコロニーに遊びに行くようになっていた。
この頃から、わたしの灰色の世界に鮮やかな色が付き出した。
しかし、人間という種族は永遠には生きられないようだった。たった100年生きることすら出来ない。それが人間だった。
それからわたしは、人間や鬼、獣人や巨人などたくさんの友人達を見送った。
そして気が付いた。彼らが限りある命を懸命に生きる姿はとても美しく、羨ましいものだった。
いつしか、わたしはこの者たちと生きていたい。この者たちの命の輝きを側で感じることで、わたしも命を輝かせてみたいと思うようになっていた。
そうして1000年ほど生きていると、わたしを慕う者たちが現れた。わたしを慕う者たちは徐々に増え、いつしか小さなコロニーになっていた。
わたしは、わたしの世界を色鮮やかにしてくれた者たちの友として、彼らへの感謝の気持ちとして、彼らを守りたいと思うようになっていた。
ある日、それは起こった。
突然、空に黒い穴が開きたくさんの飛行船が現れたのだ。魔界の名だたる強者は戦い、敗れていった。
わたしは死なない。だが、友は簡単に死んでしまう。
友を守るにはヤツらに勝てる力がいるが、わたしにはそんな物は無かった。ただ、死なない…… それだけだ。
わたしはヤツらの中で最も力を持つ、『総督』と呼ばれる者に何度も何度も懇願した。
魔界の人達を、わたしの友をもう殺さないでくれ…と。
ある時、総督は「降伏すれば誰も殺さない」と約束してくれた。
わたしは必死に考えた。どうすれば友を守ることができるのか?わたしに何ができるのか?
答えは総督が言うように『全面降伏』しかなかった…
今は『命』を優先しよう。今は『生かされる』だけになるが、いつしか『生きる』事ができると信じて…
わたしは魔界で一番最初に降伏した。そして、私と同じ様に対抗できない主達に降伏を勧めた。
しかし、魔界は何事にも置いても力が優先される世界である。ほとんどのコロニーは最後まで抵抗し、滅ぼされた。
わたしは自分の力の無さを悔やみ、呪い、そして嫌悪した…
しかし、そんなわたしをコロニーの住人達は受け入れてくれた。
こんなわたしを、最も強く、優しい主だと…
降伏してからも、わたしは何度も足を運びこれ以上、友を殺さないで欲しいとお願いをしていた。そんなある日、総督からとんでもない話しを聞いてしまった…
「そ… そんな…」
わたしは愕然とした、そしてたくさん考えた。
そして、一つの答えに辿り着いた。
しかし、その答えはわたしには実現不可能なものであった。
他に方法はないのか?
何かいい案はないのか?
毎日、毎日考えるが思いつかない…
わたしは、いつ終わるかわからない友のと時間を、少しでもたくさん過ごそうと『いつもの酒場』に足を運ぶようになっていた。
彼らはいつものように笑い、わたしを迎えてくれる。
しかし、誰もがこれがいつまでも続くとは考えていない事を、わたしは知っている。
そう言うわたしも同じだからだ…
そんな時、ルビアとシオンに2年ぶりに再会した。
彼女達は今の魔界で最も力のある仲間達と、ヤツらに反撃すると言う。
しかし、それは彼女達の死で終わるだろう…
そんな結末を迎えてはならない。
彼女達を、わたしの友をこれ以上失うわけにはいかない…
わたしは、わたしの考える『戦い』を実行すると決断した。




