リリウムとの対談
拠点コロニーを出発して2日後の昼前、あたし達はリリウムのコロニーに到着した。
コロニーの門には門番が1人立っていた。
「こんにちは」
あたしは門番に手を振り挨拶すると、
「おー!ルビアちゃん、おかえり」
門番も手を振り応えてくれる。
あたしの背後で、ゲンゲやコーナスたちが軽く会釈をしている。
「やぁ、みなさんいらっしゃい。リリウムさまから伝言を預かっています。リリウムさまは屋敷でお待ちになっていますので、屋敷まで来て欲しいとのことです。あと、できれは夕方以降に来てください。だ、そうです」
門番はゲンゲ達を見ながら伝言を伝える。
「伝言ありがとうございます」
ゲンゲは頭を下げている。
「リリウムさまってヴァンパイアだから、太陽の下には出れないのかな?」
チカム、キカム、ヒカムがコソコソと話していた。
「あははは、リリウムさまは太陽の下でも平気ですよ」
門番はチカム達の声を聞き、笑いながら答える。
「すんまへん!うちのが失礼な事を…」
慌ててクレオメが詫び、チカム達の頭を下げさせる。
「あぁ、構いませんよ。ヴァンパイアは太陽の下に出られないって言いますからね。でも、リリウムさまは日傘をさして、目を細めながら歩いていますよ」
門番は笑いながら教えてくれた。
「昼間はお仕事でお忙しいのですか?」
コーナスが質問すると、門番はもう堪えられないと言わんばかりに大笑いする。
「あははは、いやいや、あの人、いつも飲み過ぎて夕方まで寝てるんですよ。しかも屋敷の者が起こしても起きないのです。この前も執事がボヤいてましたよ」
「なんや、めっちゃゆるい人やなぁ」
クレオメは、はははと呆れたように笑っていた。
あたし達は、ルビアがいつも泊まる宿屋で部屋をとると、夕方までの間、コロニーを散策することにした。
住人達は明るく誰もが楽しく生活しており、とてもインクローチャーに怯えているようには見えなかった。
「なんや、オレが行ったコロニーと全然ちゃうな」
クレオメは町の様子を見てつぶやく。
「うむ。俺が行ったコロニーでは、みんながインクローチャーだけでなく、コロニーの主にまで怯えて暮らしていたが…」
アナナスは長いヒゲを撫でながら、道行く住人達を見ていた。
「そうですね、リリウムさまのお人柄なんでしょうね…」
あたしは住人達を見て、微笑んでいた。
◇◇◇◇
太陽が傾きかけた頃、あたし達はリリウムの屋敷に向かった。どこのコロニーも主の屋敷はコロニーの中央にあるので、だいたいは迷わずに行ける。
リリウムの屋敷もコロニーの中央にあった。マヴロやヘレボルスの屋敷に比べると小さかった。マヴロの屋敷を城、ヘレボルスは高級リゾートホテルと表現するなら、リリウムの屋敷は地方の旅館というイメージだった。
リリウムの屋敷に着くと、正面玄関には顔が青白く瞳孔が猫化の動物のように縦長、血のように赤い目をした美青年が黒い燕尾服を着て立っていた。
「ゲンゲさま、お待ちしておりました。私は当家で執事をしておりますマルスです。主人が部屋でお待ちしております。どうぞ、こちらへ」
マルスは丁寧にお辞儀し、ゲンゲ達を部屋へ案内した。
部屋は少し広い部屋で、部屋の中央には小さなテーブルと、向かい合うようにソファーが置かれている。リリウムは部屋の奥にある執務用の大きめの机で執務をしていた。
「ゲンゲさま、お待ちしておりました。私が当家の主人、リリウムです。ようこそお越し下さいました」
リリウムはペンを置き、挨拶するとゲンゲと握手してソファーに座るよう促す。
「はじめまして、私はゲンゲ。この者たちと共に行動しております。この度はリリウムさまのお知恵をお借りしたく参りました」
ゲンゲは挨拶して、ソファーに座る。
「はい、ある程度はルビアさんにお聞きしておりますが、確認する意味も込めてゲンゲさまの計画を教えて頂けませんでしょうか?」
ゲンゲがインクローチャーへの反撃計画の内容を説明すると
「わかりました。ルビアさんからお聞きしている内容と相違ないようですね」
「うむ、オレ…、あ、私たちは…」
「あ、いいですよ。いつも通りにお話しください」
「ありがとうございます。なかなか慣れない言葉でしたので…」
ゲンゲは頭を掻き照れ笑いしていた。
「では、改めて。オレ達は…。いや、オレはヤツらへの反撃は武力しか思いつかなった。ヤツらとの戦力差や人数を考えると、恐らくオレ達は負ける…死ぬだろう。リリウムさまは、『戦いは武力だけではない』とおっしゃっていると聞きました。オレ達にその戦い方を教えてほしい」
ゲンゲは頭を下げ、リリウムに教えを請うた。
「ゲンゲさま、頭を上げてください。わたしには皆さんのような力はありません。しかし、わたしを慕ってくれるコロニーの人達や、力を持たない魔界の人々を守りたいと思っています。それはここに居る皆さんと同じ気持ちだと思っています」
リリウムはゲンゲ達の顔を見て微笑む。
ゲンゲは少し沈黙した後、ゆっくりと話しだした。
「オレは最初、インクローチャーに報復できればいいと思っていた。結果的は死ぬだろうが、それでも構わないと考えていた。しかし、オレの元に集ってくれたこいつらや、廃コロニーで隠れるように暮らす人達、まだ何も知らない子供達を見ているうちに、オレは間違っていたと思うようになった。オレは、オレ達は魔界の人々と笑って生きていかなければならないのだ。それが、力を持つオレ達の使命であり、義務なのだと… そう思うようになったのだ」
「ゲンゲさま、素晴らしいお考えです」
リリウムはゲンゲの手を取り、ゲンゲの言葉を肯定する。
「ありがとう… しかし、オレには戦う事しか思いつかないのだ…」
「はい、だからわたしの話しを聞いて頂けるのですよね。感謝しております。それでは、わたしの考える『戦い』をお話しさせて頂きます」
リリウムはソファーに座り直し、ゲンゲをまっすぐ見つめていた。




