コロニーでの情報収集 〜カムカム三姉妹〜
―――(暗闇の道化師)―――
オレ達は小高い丘の上から、拠点に一番近いコロニーを見ていた。
「さぁ、いつものように頼むで、カムカム三姉妹」
クレオメはチカム達に向かって親指を立てる。
「その呼び方やめぇってゆうてるやろ!」
黒髪、黒目、ショートカットのチカムはクレオメの胸を手の甲で『ビシッ!』と叩く。
「なはははは。オレらはココで待機しとるからな。なんかあったらいつもの合図してくれや。オレら、速攻で助けに行くで。なぁ!コリウスはん」
クレオメは今度はコリウスに向かって親指を立てる。
「………」
「いや!なんか言うてや!カムカム三姉妹が不安がるやん!」
クレオメはコリウスの胸を手の甲で『ビシッ!』と叩く。
「もう、ええから。ほな、あたいら行くで」
チカムは呆れた目でクレオメを見ると、キカムとヒカムを連れてコロニーに向かって行った。
「ほらぁ!コリウスはんがリアクションせーへんから、チカムはん、怒ってもたやん。コリウスはん恥ずかしがりやねん。堪忍やでー。情報収集、頼むわなー」
クレオメは両手をブンブンと振りチカム達を送り出す。
「あー、はいはい…」
チカムは面倒くさそうに右手をひらひらさせて応えていた。
◇◇◇◇
入口には門番が立っており、門は閉められいた。
チカム達は少しフラつきながらコロニーの入口に歩いて行った。
「はぁ、はぁ、やっと着いた…」
チカムは掠れた声でつぶやく。
「おい、お前達、大丈夫か?」
門番はチカム達に駆け寄ると、腰にぶら下げた水を手渡した。
「ありがとうございます…。ほら、ヒカムお水よ」
チカムはヒカムに手渡された水を渡す。
「あ…あり…が…と」
ヒカムは手渡された水を飲み、キカムへ渡していた。
「ありがとうございます。あたい達は森の向こうのコロニーからやって来ました。ここに入れて頂けないでしょうか?」
チカムは門番に擦り寄り、膝をついてお願いする。
「悪いがオレでは判断できないんだ。とりあえず、あっちに小屋があるから、そこで休みなさい」
門番はそう言うと、チカム達を門番の休憩場所である小屋に案内した。
小屋に入ると小さな部屋で休憩中の門番が2人、椅子に座っていた。
「おい、この子達はどうしたんだ?」
休憩中の門番が声を掛ける。
「あぁ、森の向こうのコロニーから来たらしい。門の前にフラフラしながら歩いて来たんだ」
「そうか、とりあえずこっちで休みなさい。お腹は空いてないか?水もあるぞ」
そう言うと休憩中の門番は、奥の部屋からパンと水を持って来た。
「あ、ありがとうございます」
チカム達は涙を流しながらパンを食べる。
「大変だったなぁ、辛かったなぁ…」
門番はうっすらと涙を浮かべてチカム達を見ていた。
「パンとお水ありがとうございました。あたいはチカム。この子はキカムで、こっちがヒカムです。あたい達がいたコロニーは破壊されてしまって… なんとか3人でここまで来ることが出来ました。あたい達をこのコロニーに入れてもらえないでしょうか?」
チカムは門番達に頭を下げて懇願する。
「チカムちゃん、悪いがオレ達だけの判断だけでコロニーに入れることが出来ないんだ。なんとか主にお願いしてくるから、少しだけ待っててくれないか?」
門番はそう言うと、休憩中の門番と門番の仕事を交代しコロニーの中へ走って行った。
「大丈夫。あいつが何とか説得してくれるよ」
部屋に残った休憩中の門番がチカム達を見て微笑む。
「ありがとうございます…」
チカムはうっすらと涙を浮かべ頭を下げていた。
しばらくして門番が息を切らして帰ってきた。
「チカムちゃん、主の許可が出た!よかったな!ここのコロニーもちょっと大変だけど、外よりはマシだよ。さぁ、安心して入っておくれ」
「ありがとうございます!みなさんのおかげです!」
チカムはパァと明るい表情をしてお礼を言う。キカムとヒカムも「ありがとうございます」と頭を下げる。
「今はみんな辛いから、お互いさまだよ。とにかく、チカムちゃん達が無事でなによりだよ…」
門番は満面の笑みで、よかったよかったと頷いている。
「門番さん、あたい達ここの事なにも分からなくて… よかったら教えて欲しいのですが… いいですか?」
チカムは上目使いで門番を見る。
「ああ、もちろんだとも!なんでも聞いておくれ。あ、そうだ。オレはもう少し仕事があるから、仕事が終わったら晩めしでも食いながら話そう。チカムちゃん達もまだ泊まる家もないだろ?オレが住んでる長屋に空き部屋もあったと思うし。家主に話してやるよ」
「本当ですか!ありがとうございます!何から何まで、お世話になってしまって…」
チカムは涙を浮かべながら、にっこりと微笑む。
「いいって!オレの娘も生きていたらチカムちゃん達くらいになってたんだ。なんだか娘と話してるみたいでさ… オレも嬉しいんだ。って、オレみたいなオッサンの娘と一緒にされたら困るよな」
あはははと門番は笑う。
「とんでもない!娘さん、残念だったんですね… あたい達でよかったら娘だと思って下さい」
チカムは門番の手を握り、ニコッと笑う。
「よーっし、今晩はごちそうしちゃうぞ!また、夕方、ここにおいで。それはまではコロニーを見て回るといい」
門番は上機嫌で仕事に戻って行った。
チカム達はお礼を言って、コロニーに入って行った。
メインの道をしばらく歩き、角をいくつか曲がったころ…
「チカム姉、相変わらず役者やなぁ」
キカムがニヤニヤしてチカムの顔を覗き込む。
「ふ、涙は女の武器よ」
チカムは口の端だけ上げて、悪女の笑みを浮かべていた。
「あの門番さんも楽勝だったね…。でも、チカム姉さん、門番さんがくれた水飲みたくないからって、うちに渡すのやめてれない?」
ヒカムは背中まで伸びた髪を指でクルクルしながら、チカムに抗議する。
「えー、あのおっさんの水筒だよ?あたい、ムリやわー」
「だよねー」
「うちもー」
コロニーにカムカム三姉妹の笑い声が響いていた…




