作戦会議
「異世界からの侵略者??」
聞き慣れない言葉にコーナス達は戸惑っていた。
「はい、インクローチャーは異世界から、この魔界にやってきたと思います」
あたしは、『実はあたしも異世界から来た1人です』なんて言えるわけもなく、黙って全員の反応を見ていた。
「ルビアはん、その異世界ってなに?」
クレオメは小さく手を上げて質問する。
「異世界とは、この魔界とは異なる世界を指します。本来は交わる事もなく、お互いに存在すら知らない世界です。しかし、なぜかインクローチャー達は魔界の存在を知り、ここに来たと思われます」
「うーむ。ちょっと話しが突飛過ぎて理解できんのじゃが…。確かに見た事のない武器や飛行船、空の黒い穴を使っておるしのぉ。あれだけ派手な物なら、魔界のどこにあっても噂くらいにはなるの」
アナナスはヒゲを撫でながら納得している。
「ルビアを疑うつもりは無いが、インクローチャーが異世界から来たと言う根拠は、あの見た事がない武器や飛行船だけなのか?他の可能性も考えられないのか?例えば、海の向こうから来たとか」
コーナスは未だに信じられないようだった。
「コーナスさん、あたしもそれは考えました。みなさんご存知のように魔界はあたし達がいる大陸と、それを囲む海しかありません。海の向こうは氷の山がありそれ以上は何もありません」
ルビアは『魔界の常識』を全員に確認する。【かえで】の知識なら地球は丸く地動説が当たり前だ。しかし、魔界は実際にフラットアースであり大陸は魔界しか無く、海の向こうは氷の山が取り囲んでいるのだ。
「あぁ、その通りだ。過去の偉大な冒険者が確かめた事実だ」
コーナスが答え、アナナスもクレオメも頷いている。
「あと、インクローチャーは見た目はあたし達と変わりませんが、魔法は使えないようです。それに、魔界の人ならあんな集団で行動はしません。全てにおいて魔界とは違う文化や常識で行動していたのです」
「たしかに… 魔界の男は集団で戦うなんて恥知らずな事はしない。ましてコロニーの主と戦う栄誉を汚すような事はしない」
コーナスは魔界の男としてインクローチャーの行動を理解できないようだった。アナナス、クレオメも同じ考えのようで頷いている。
「なるほど、異世界の件はわかった。では、インクローチャーはなぜ魔界に来たのだろう?」
コーナスは、誰にともなく質問を投げかける。
「あいつら、降伏したコロニーの奴らに魔石の採掘させてるらしいで」
クレオメは地図の青い丸印を指差す。
「あたし達もいくつかのコロニーに潜入しましたが、どこも魔石の採掘を強制されてました」
「うむ。インクローチャーの目的は魔石のようじゃの」
アナナスはヒゲを撫でながらつぶやく。
「魔石か…」
コーナスは腕を組んで考えている。
魔石は文字通り魔力を帯びた石である。魔石の種類により効果は変わるが魔法を使う補助として利用したり、魔法効果は弱くなるがアイテムに取り付けて継続的に魔法の効果を発揮させるくらいだ。だから魔界では魔石はちょっと便利なアイテムくらいにしか思っておらず、そもそも一般的なアイテムで希少価値があるとは思えなかった。
「ルビアはん、あつらの目的はわからんかったん?」
「はい、そこまでは分かっていません。インクローチャーの都市に潜入できれば何か分かるかもしれませんが、あの都市はインクローチャーしか居ないので、潜入するにはリスクが高過ぎて出来ませんでした」
ルビアが答えると部屋は沈黙に包まれてしまった。
「ならば、インクローチャーの目的を調べる必要がありそうだな」
ゲンゲは腕を組みコーナス、アナナス、クレオメと顔を見て、最後にルビアを見る。
「そやな、あいつらの目的が分かれば、俺らの作戦内容も決まってくるやろ」
クレオメは大きな身振り手振りでゲンゲの意見を肯定した。
「しかし、どうやって調べる?インクローチャーの都市に潜入しなければならないのだろ?」
コーナスはゲンゲに問いかけ、アナナス、クレオメの顔を見る。
「うむ。作戦は考えている」
ゲンゲは立ち上がると全員の顔を見て、地図に目を向けた。ゲンゲの作戦はこうだった。
①まず、コーナス率いる『竜の牙』、アナナス率いる『鋼鉄の盾』、クレオメ率いる『暗闇の道化師』そしてゲンゲ率いるルビアとシオンはインクローチャーの都市付近に拠点を移動する。
各パーティーが拠点としていたコロニーにいる冒険者と非戦闘員は、人数が多くなると目立ち、動きが遅くなるので今回の作戦に参加しない。
②インクローチャーに降伏したコロニーと密かに連携し、新たな情報の収集と都市に入る方法を探る。
③都市への潜入調査はルビアとシオンで行い、ゲンゲ達はサポートを行う。
④インクローチャーの目的や戦力などを確認して、次の作戦を検討する。
と、いうものだった。
「ゲンゲ殿、待ってくれ」
コーナスは手を上げて全員の注目を集める。
「なんだ?」
「潜入は少数精鋭がいいのは分かる。分かるが、どうしてルビアとシオンなのだ?あまりにもルビアとシオンに頼りすぎではないか?オレ達も潜入調査をする力を持っているぞ」
コーナスはあたしとシオンをこれ以上危険な目に晒したくないのだと分かった。
3年前も最後までコーナスはあたし達の情報収集活動に反対していたのだから…
「そやで、俺らかて潜入調査くらいできるし、前はそれが俺らの主な仕事やったんや」
クレオメが身を乗り出して意見する。
クレオメが率いる『暗闇の道化師』は魔界でも潜入調査で有名だった。
メンバー構成はクレオメ(人、戦士)、壁でダルそうにしているコリウス(狼獣人、戦士)、この場に居ないがチカム、キカム、ヒカム(人、三姉妹、シーフ)となっており、チカム、キカム、ヒカムの三姉妹はシーフとして最高峰のスキルを持っていた。
「うむ、コーナス達の意見はよくわかる。だが、これはルビアとシオンが最適なのだ。2人とも見せてやってれ」
ゲンゲはルビアとシオンに合図する。
「……わかりました」
そう言うと、ルビアとシオンはその場から消えてしまった。まるで、初めからそこには誰も居なかったように消えてしまったのだった。




