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100万人目の異世界転生者  作者: わたぼうし
第2章 反撃編
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静かな狼煙

そこは廃墟となったコロニーの地下室だった。


部屋は薄暗く、壁に掲げられた数本の松明の明かりが揺らめいていた。

部屋の中央には傷だらけテーブルがあり、伸びた金髪を後ろで適当にまとめた隻腕の男が座っていた。

隻腕の男の背後には、長い金髪をポニーテールにした色白の若く美しい女性と、黒い髪を肩辺りで切り揃え、肌が小麦色の美しいと言うより可愛いと言う方が似合う若い女性が立っていた。


隻腕の男と向かい合うように3人の男達が座っており、各男の背後には、その男の仲間と思われる人物が1人立っている。


3人の男のうち、1人はコーナスだった。

コーナスの背後にはミモザが立っていた。


「ゲンゲ試験官、お久しぶりです」

コーナスは隻腕の男に声をかけた。


「ふっ、オレはもう試験官じゃねぇよ。片腕を無くして戦いの役にも立てない惨めな男さ…」

ゲンゲは無くした右腕の根本を撫でている。


「いえ、ゲンゲ試験官… いや、ゲンゲ殿。あなたがこうして声を上げなければ、オレ達は集まることもなかった。あなたはオレ達のリーダーだ。そうだろ?アナナス、クレオメ」

コーナスは横に座っている男達を見る。



「そうじゃ。ワシらがここに居るのはゲンゲ殿の力じゃ」

アナナスと呼ばれた男は、身長150㎝くらいの筋肉隆々の体格をしていた。見た目は40代くらいで浅黒い顔をしたアナナスは、おそらく一度も剃った事が無いであろうヒゲを撫でている。アナナスの背後には屈強な男が腰にバスターソードをぶら下げ、腕を組んで立っている。



「ほんまやで。俺らゲンゲはんが居らんかったら、いつまでも単独でチマチマ戦うしかできんかったと思うわ」

クレオメは身長170㎝くらいで、黒髪、黒目で痩せ気味の男だ。クレオメは身振り手振りが大きく、どこか軽薄そうに見えた。クレオメの背後には狼の獣人が壁に背をつけて、ダルそうに立っている。



「うむ。お前達のような冒険者に集まってもらえた事を感謝する」

ゲンゲは一度頭を下げ、この場にいる全員の顔を見ると話しを続けた。


「さて、久しぶりにみなに集まってもらったのは、ある程度の情報を集める事ができたからだ。情報を共有しこれからの動きを決めていこうと思う」


「おぉ、やっと我らの戦いが始まるのか!」

最初に口を開いたのはアナナスだった。アナナスは獰猛な笑みを浮かべ、左手の掌を右手の拳で叩いている。


「それで、ゲンゲ殿。どのような情報が集まったのでしょうか?」

コーナスは冷静に見えるが、無意識に身を乗り出していた。


「うむ。ルビア、説明してくれ」

ゲンゲは金髪で色白の美しい女性に声をかけた。


「ルビアちゃん…」

ミモザは小さな声でつぶやき、涙目でルビアを見つめている。


「はい、それではこの3年で集めた情報を説明します」

ルビアはミモザを見て微笑むと、一歩前に出て話し出した。


「まずは、アナナスさま、クレオメさまはじめまして。あたしはゲンゲさまの元、現在の魔界の状況や、侵略者の情報などを探っておりましたルビアと申します。そして、横にいるのはあたしの仲間、シオンです。情報の説明をする前に、今から説明する情報の信憑性を理解して頂くために、あたし達の事を説明させて頂きます」


「せやな、あんたらがどんな子ぉかもわらかん。どうやって情報を集めたかもわからん。そんな話しハイハイと信じられへんな」

クレオメは右手をひらひらさせている。


「……っ」

コーナスが一瞬立ち上がろうとするが、ルビアは目で合図して制止する。


「クレオメさまのおっしゃる通りです。これから話す情報は、それほど信じられない話しなのです…」

ルビアの神妙な表情に全員が息を飲む。


「まず、あたしはルビア。あたしとシオンはそこに居るコーナスさんのパーティ竜の牙メンバーでした。そして、ギルドのランクは近接戦、黒魔導ともにプラチナ級です」

そう言うと、ルビアはプラチナ製プレートを2つテーブルに置いた。


「おぉ!!」

アナナスとクレオメ、その仲間2人がプラチナ製プレートを見てどよめきが起こる。

何故かコーナスとミモザは得意げな顔をしていた…


「そしてシオンは近接戦のアイアン級ですが、実はアサシンで隠密作戦を得意としています」


「こんな若い子が…」

再びどよめきが起こる。


「あたし達は、あの突然の侵略の日以降、マヴロのコロニー跡の廃墟を中心に2年くらい活動していました。3年前ゲンゲさまと再会し、それ以降はゲンゲさまの元で情報収集を行なっていました」

ルビアはゲンゲを、チラっと見る。


「うむ。オレは僅かに残ったギルドの関係者を集めた。その後、方々に散った冒険者達を集め侵略者達を倒し、元の魔界を取り戻すと決めたんだ」

ゲンゲは唇を噛みしめ、残った左手でテーブルを叩く。


「ゲンゲさまは、敵を倒す為にはまず敵を知らなければならないと申され、あたしとシオンが情報を集める事になったのです」



あの日から5年、10歳だったあたし達は15歳になっていた。とおさまと、かあさまを殺され、隠れて生きる事しか出来なかったあたし達は、静かに反撃の狼煙を上げたのだった。

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