突然の侵略者
(ルビア)
コロニーに戻ると建物は破壊され、あちこちで火災が発生していた。さっきまで普通に笑っていた住人達は泣き叫び、逃げ惑っていた。
色鮮やかだった景色は、一瞬で灰色になってしまった。
上空を見ると飛行船が飛んでおり、あちこちで爆撃を繰り返している。
中心の高台にあるヘレボルスの屋敷の方を見ると、上空には3機の飛行船が飛んでおり、うち1機が半壊した屋敷の横に着陸しようとしていた。
「ヘスちゃんさん!みんな!!」
屋敷にはヘレボルスの他に、久しぶりにジルバさん達と会っているコーナスさんやミモザさん、アキレアさんがまだ居るはず。
あたしは何が起きているのか考える余裕もなく、屋敷がある高台へ走る。
遠目でヘレボルスが、緑色の服を着たたくさんの人と戦っているのが見えてきた。
「ヘスちゃんさん!!」
あたしが叫んだ瞬間、脇道から誰かが飛び出しあたしとシオンは横からタックルをされ転がる。
「きゃっ!!」
見るとあたしにはコーナス、シオンにはアキレアが抱きついていた。
「ルビア!シオン!!無事だったか!」
コーナスはルビアの顔を荒々しく撫でながら叫ぶ。
「コーナスさん!?」
「ルビアちゃん!シオンちゃん!無事でよかった」
ミモザが安堵の息を吐く。
見ると3人とも激しい戦闘の後のように、泥や血で汚れていた。
「ルビア!シオン!とにかく逃げるぞ!こい!」
コーナスはそれだけ言うとルビアを、アキレアはシオンを抱き走る。
「待って!ヘスちゃんさんが、まだ!!」
あたしは叫ぶが、コーナス達の足は止まらない。
屋敷の方を見ると、ヘレボルスは複数の緑色の人達に囲まれている。緑色の人達は手に何か武器を持っているのが見えた。
「あれは…? アサルトライフル?」
【かえで】の頃の記憶では、あの武器は軍隊が持っているアサルトライフルだ。戦争映画で見たことがある。
「まさか…」
その時、複数の緑色の人のアサルトライフルらしき物の銃口辺りが光り、遅れて連続する発砲音が聞こえた。銃口を向けられていたヘレボルスは膝から崩れ落ちてしまった。
「ヘスちゃんさ……ん? ヘ…ス…ちゃん!? イヤーーーーーー!!!!!」
「コーナスさん!離して!ヘスちゃんが!!!」
あたしはコーナスの腕の中で暴れる。
「ルビア!今はダメだ!ヘレボルスがオレ達を逃してくれたんだ!オレ達は生きなければならない!逃げなければならないんだ!」
コーナスは叫び、ルビアをきつく抱きしめると走るスピードを上げた。
「ヘスちゃん! ヘスちゃん!」
あたしは泣き叫ぶしか出来なかった。
気がつくとあたし達は草原にいた。
コロニーの上空にいた飛行船は着陸したのか、1機も飛んでいなかった。
周りにはコロニーから逃げ出した住民が何人かいたが、誰もが黙り込んでいた。
―――――――――――――――――
(コーナス)
コーナス達は元ドラセナの屋敷(今は執事やメイド達用の屋敷)に来ていた。
「ジルバ、みんな!久しぶり!」
コーナスはジルバと周りにいるメイド達に手を上げて挨拶した。
「コーナスさま!お久しぶりでございます!ミモザもアキレアも元気だった?」
ネコの獣人のメイドが、パァと顔を輝かせている。
コーナス達は執事のジルバやメイド達と久しぶりに懐かしく、楽しい時間を過ごしていた。
「ジルバ、ヘレボルスはお前達を大事にしているか?」
ドラセナが敗れ、コーナス達は屋敷から出て行ったが、ジルバやメイド達は屋敷の管理や次期当主になるヘレボルスの身の回りの世話のために、屋敷に残っていたのだ。
「はい、ヘスさまには大変よくしていただいております。名前さえ呼び間違わなければ、とてもお優しい方ですから」
はははとジルバは笑うと、自分の口を塞ぎ戯けている。
「そうだな。みなが元気でなによりだよ」
コーナスはメイド達、一人一人の顔を見て笑う。
「コーナスさまもお元気そうで、なによりです。ミモザやアキレアはちゃんとコーナスさまのお世話をしていますか?」
ネコの獣人メイドはミモザとアキレアをチラリと見る。
「ははは、ミモザにもアキレアにもスゴく助けて貰ってるよ」
コーナスはミモザとアキレアを見て微笑んでいた。
ミモザは顔を赤くして俯いている。
「ん?何か音がしないか?」
コーナスは窓の外を見る。
「な!なんだアレは!?」
空に巨大な物体が浮いていた。
物体から『ゴウン… ゴウン…』と音が聞こえるようだ。
「アレはいったい?」
魔界には飛行船は存在せず、空を飛ぶのは鳥かドラゴンなどのモンスターくらいなのだ。
コーナス達は急いで屋敷から出て、空を見上げる。
同じ頃、ヘレボルスも出てきた。
「コーナスちゃん、アレなに?」
「わかりません。初めて見ます。新種のモンスターでしょうか?」
誰もが見た事の無い物体に戸惑っていると、空飛ぶ物体から無数の黒くて丸い物体が落ちた。
黒くて丸い物体は地表にぶつかると、激しく爆発し炎を撒き散らした。
「な!! なんだ!?」
あっという間にコロニーの町は破壊され、火の海に飲まれてしまう。
すると屋敷の上にも空飛ぶ物体が4機やってきて、黒くて丸い塊を落としてきた。
「にげろ!!」
コーナスは叫び、メイド達に逃げるように指示する。
屋敷にも黒い塊がぶつかり半壊し、火災が発生する。
「なかなか舐めたマネしてくれるじゃない…」
ヘレボルスは近くの木を抜き、槍のように空飛ぶ物体に向けて投げる。
木は物凄いスピードで空飛ぶ物体のうち1機を撃ち抜いた。
撃ち抜かれた物体は、高台の端の方に墜落し爆発した。
残り3機の物体から複数の紐がたれ、100名ほどの人が降りてきた。全員が緑色のヘルメットと服を着ており、手には見た事がない武器らしき物を持っている。
緑色の人が武器?を構え、統率された動きでこちらへ向かって、ある程度の距離で綺麗に並んで停止した。
「撃てっ!」
緑色の人の1人が叫ぶと、武器?から何かが破裂するような音が連続でする。
その瞬間、逃げていたメイド達は血を流して死んでいった。
「なにっ!?」
コーナスは咄嗟に竜化し、ミモザとアキレアの前に立つ。
「撃てっ!」
コーナス達に向けて、無数の何かが目に見えないスピードで飛んできた。
その何かは竜化したコーナスの鱗を突き破る。
コーナスの後ろではミモザとアキレアも血を流していた。
「コーナスちゃん!逃げなさい!」
ヘレボルスは叫ぶと、緑色の人に突撃する。
武器すら持たないコーナス達は、役に立たない。そのうえ、ヘレボルスの足手まといとなると判断したコーナスはミモザとアキレアに撤退を指示した。
「ヘスさま!」
コーナスはヘレボルスを見ると、一度だけ頷き撤退した。
ヘレボルスは少しだけ微笑み「またね…」とつぶやくと、鬼の形相になる。鬼の形相となったヘレボルスの一振りで、緑色の人は5人以上死んでいった。
しかし、ヘレボルスは数の暴力に負けることになる…
これで第1章 旅立ち編は終わりです。
次回からは第2章 反撃編です。
これからも毎日6時と18時に更新します。よろしくお願いします。




