新しい名前はルビア
この魔界にエビに転生しユニークスキル『略奪者』を使って、なんとか人型の生き物に生まれ変わることができた。
生まれてすぐの頃は、まわりの言葉が分からず、また体も自由に動かなかった。
まぁ、赤ちゃんだったので当たり前なのだけど…
かあさまやとうさま、メイドたちなど、あたしの周りの人たちはとても優しかった。
実はあたし(かえで)が、この赤ちゃんの体を略奪しているのに…
少し申し訳ない気持ちになる…
いまは生まれてから5年の月日が経っていた。
なんとか言葉もわかるようになり、体も自由に動くようになった。
あたしの部屋は天井から垂れたレースのカーテンに囲われたベッド、金で装飾された家具や燭台が所狭しと置いてある。
窓からの景色は眼下に町が広がっている。
どうやら、あたしはとんでもなく大金持ちのお嬢さまに生まれ変わったようだ。
部屋のドアがあき、金髪の長い髪を後ろで束ねている美しい女性が入ってきた。
女性は色白で目が大きく、まつげが長い。筋の通った鼻の下には薄い唇が付いていた。
身長は160㎝くらいで、細身なのに立派な胸と丸いお尻をしていた。同じ女性としても憧れるスタイルと美貌だ。
「ルビアちゃん、かあさまですよ」
女性は満面の笑みを浮かべて、ルビア(かえで)を抱き上げる。
女性の後ろにはメイドが1人付いており、微笑ましくあたしたちを見ていた。
女性がルビアに絵本を読み聞かせしたり、お話しをしたり楽しく過ごしていると、入り口で立っていたメイドが声をかける。
「リアリナさま、そろそろお時間となります」
「もうそんな時間?もっとルビアと遊んでいたいのに…。 ルビアちゃんゴメンね。かあさまはお仕事してきますね」
ルビアの母『リアリナ』は残念そうに部屋を出て行く。
今のあたしの名前は『ルビア』に変わった。『かえで』は事故で死んでしまったのだ。少し寂しい気もするが、これからは『ルビア』として生きていくと決心していた。
ある日、ふと思い出した。
運命の女神ルリアは
「異世界生活を楽しむためのサポートとして、シオンさんをつける」
と、言っていた。あれから5年も経ってしまったけど、まだ有効なのだろうか?
あたしは不安になり、右手を見る。
なにも書いてない、かわいい小さな手だった。
たしか、右手の掌に集中してシオンさんを呼び出す…
だったよね?
記憶を頼りに試してみる。
「シオンさん、来て…」
急に右手の掌が熱くなり、見るとなにか模様が浮き出てきた。
ばふんっ!
あたしの前で突然ケムリが発生し部屋中をケムリが充満するが、しばらくすると霧の様に消えてしまった。
ケムリが消えると、目の前には5歳くらいの女の子がお尻を突き上げたうつ伏せ状態で転がっていた。
「あの… シオンさん?」
あたしは恐る恐る聞いてみる。
「あぃー。シオンですぅ。かえでさま、やっと呼んでくれましたねぇ」
シオンはうつ伏せのまま動かない。
「ご…ゴメンね。いろいろあって…。 あと、あたし、かえでじゃなくなってルビアになったの」
「あぃー。ルビアさまですねぇ」
もそもそとシオンは立ち上がり、こちらを見た。
シオンは黒い髪のショートカットで、空豆のようなクリっとした目のかわいい女の子だった。
「えーと、シオンさんはあたしのサポートしてくれるのよね?」
「あぃー」
「サポートって、何してくれるの?この世界の事なんでも教えてくれるとか?」
「えー、それはムリですぅ。シオンはこの世界の事全く知りませんですぅ」
シオンは両肩を下げて、猫背になりフラフラしている。
「え?それじゃ、何が得意なの?」
「シオンはアサシンなので暗殺が得意ですぅ。でも、この体じゃ暗殺なんて無理ですぅ。でもでも、ずっとルビアさまの元にいますので、寂しくなったら抱っこして寝てくれていいですよぉ」
シオンは両手で自分を抱きしめてクネクネしている。
(使えねぇ…)
運命の女神ルリアに殺意を抱いた瞬間だった…
その時、不意に部屋のドアが開き、
「ルビアちぁーん。お仕事の休憩にきましたよー」
ニコニコしながらリアリナがメイドと入ってきた。
あたしは慌ててシオンを隠そうとしたが、リアリナはシオンに気がつく。
「あら?この子は?」
「か…かあさま、あの、この子はあたしの友達のシオンちゃんで、遊びに来てもらったの…」
「あらぁ、シオンちゃん。ありがとうね」
「あぃー。シオンはルビアさまのお供なので、ずっと離れないのですぅ」
シオンはまだクネクネしている。
「あら、そうなの?それじゃ、ここに住まなきゃいけないわね」
ふふふと笑っている。
(え? なに言ってるの??)
あたしだけがオロオロしている。
「あぃー。ここに住みますぅ。リアリナかあさまぁ」
シオンはリアリナに抱きつき、だらーんとしている。
「あらあら、ルビアの妹が出来ちゃったわ。やっぱりあの人の子ね、こんなに早く人が集まっちゃうなんて♪」
うふふふふと、上機嫌のままリアリナはメイドにシオンの部屋を準備するように指示していた。
「…え??」
1人混乱するあたしを置いて、なんのサポートも期待できそうもないシオンが家族の一員に加わってきたのだった。