ルビアの敗北
あたしには『魔力制御(大)』があるんだった。
今までの魔導は全力でぶっ放すだけで、威力しか考えてなかった…
ローダンセ試験官も言ってたように、魔導を制御する事が大切なのだった。
威力より制御=確実に当てて確実にダメージを与える。そして、仲間を巻き込まない(コレ大事)。
「よし、ちょっと試してみよう…」
ルビアは魔力に意識を向けてみると、全身の魔力の流れを感じることができた。
ヘレボルスはルビアが何か始めた事を感じ、バトルアックスを構えて様子を見ている。
「よし、いけそう…」
ルビアがつぶやき、ヘレボルスを見上げる。
「ルビアちゃん、何か面白いことしてくれそうね」
ヘレボルスが獰猛な笑みを浮かべる。
「ヘスちゃんさん、お待たせ」
ルビアは左手で右手首を握り集中すると、右腕にたくさんの小さな炎が纏わり付く。
「いきます!」
ルビアは大地を蹴りヘレボルスとの間合いを一気に詰めて、炎を纏った右腕で攻撃する。
ガギンっ!!
炎を纏った右腕の攻撃は、盾にしたバトルアックスに防がれた。
その瞬間、右腕を纏っていた炎が拳に集中する。
「ゼロ距離なら!!」
ルビアの拳に集中した炎はバトルアックスとの接地面で爆発し、ヘレボルスからバトルアックスを弾き飛ばした。
「な!! なに!?」
ヘレボルスから弾き飛ばされたバトルアックスは、空中をクルクルと回転しながら数百メートル先に落下。
「よしっ」
ルビアは両腕に小さな炎を纏わせ、腰を落としヘレボルスの太腿にラッシュをかける。
バトルアックスを弾き飛ばした時は、纏った炎を一気に放出したが、今回は小さな炎単体を拳に乗せる。
「うりゃぁぁぁあああ!!」
ヘレボルスの太腿でルビアの打撃と炎の小爆発が連続する。
「ぐぁ!!!」
ヘレボルスから苦痛の声が漏れた。ヘレボルスは背後に飛ぶ事で、ラッシュから逃れることに成功した。
「はぁ、はぁ」
ルビアは肩で息をし呼吸を整える。
(うまくいったけど、魔導と打撃を合わせるってめちゃめちゃしんどい…)
「いたぁ〜い。こんなに痛いのは久しぶりだわぁ」
ヘレボルスは太腿を撫で、手についた血を舐める。
「ただの思い付きでしたけど、うまくいきました」
ルビアは両手に残った感触を確かめるように、グーパーしている。
「ルビアちゃん、ホントに凄いのねぇ。ヘスちゃん嬉しいわ。怪我もすぐ治るし… 少し本気出してもよさそうね」
ヘレボルスが恍惚の表情になる。
そこからは一方的な闘いだった。
ルビアが気がつくと、目の前にはヘレボルスの拳があった。
まともに防御も出来ず、吹き飛ばされ地面に叩きつけられる。
数回バウンドしたところで、ようやく止まると目の前には足の甲が見えた。
そのまま上空に蹴り上げられる。ヘレボルスはジャンプするとルビア追い越し、上空から地面へ叩きつける。
ズガーーーン!!
ルビアは地面に叩きつけられ、バウンドすると更にヘレボルスの蹴りを受け草原と並行に飛ばされ、数百メートル先で地面に突き刺さっていたバトルアックスの側面に衝突し、ようやく停止した。
「ルビア!!!!」
「ルビアちゃん!!!!」
コーナスとミモザの悲痛な叫びが草原に響く。
「いかん!! 白魔導士達よ!早く回復魔法を!!」
ローダンセが叫び、白魔導士たちがルビアの元に走る。
「はぁはぁ、ちょっとやり過ぎちゃったかしら?」
ヘレボルスは肩で息をしてルビアの様子を見ていた。
ルビアはバトルアックスを背にしたまま項垂れて動かない。
「ルビアさま!!!!」
シオンがルビアの元に走り寄る。
「……うっ」
「ルビアさま!! 早く!回復魔法を!!お願い!!」
シオンはルビアを抱きしめて叫ぶ。
シオンに少し遅れて白魔導士たちが到着し、回復魔法をかける。
ミモザもルビアに駆け寄り、泣きそうになりながら白魔導士たちの回復魔法を見守る。
「……うぅ」
「もう、大丈夫です」
白魔導士の1人が、額から流れた汗を拭いながら微笑んだ。
「ルビアちゃん!!!」
「ルビアさまぁ!!!」
ミモザとシオンに抱きつかれて、ルビアは目をうっすらと開けた。
「あ、あたし…?」
ルビアは状況が分からずキョロキョロすると、ヘレボルスが近寄ってきた。
「ルビアちゃん、久しぶりに本気で闘えて楽しかったわ。ありがとう」
ヘレボルスは微笑むと、ルビアを優しく立たせる。
「あたし、負けちゃったのね。でも、なんか… 楽しかった」
ルビアはフラフラしながら笑っていた。
「ふふふ、あはははは あははははは」
ルビアとヘレボルスは地面に座り込み、楽しそうに笑った。
「ルビアちゃん、これから何をするの?」
「あたしは魔界を回ります。とおさまから『マシになった』って言われるように…」
「そう…。 またここにいらっしゃい。もっと強くなってあたしと遊びましょう」
「はい!でも、あまり痛いのは好きじゃないんですけど…」
「闘うのも楽しいけど、ルビアちゃんとはたくさんお話しもしたいわ。あたしの周りオシャレに興味がない人が多すぎて困ってるのよ」
ヘレボルスはため息をつく。
「あの黄色いワンピース、可愛かったですよね。ヘスちゃんさんにお似合いでした」
「でしょ!? ルビアちゃんだけよ、わかってくれるのは…」
「あははは」
巨人のオカマと、オニの少女のガールズトークはしばらく続いていた。
いつの間にか2人の周りにはたくさんの人が集まり、穏やかな時間が流れていた…




