乱入者
「あ〜ら、ずいぶんと楽しそうな事してるじゃなぁい?」
女性がよく使う言葉だが、声が妙に低い。
ルビアはゲンゲの肩の上で声がする方を見る。
そこには、ピンク色の髪をツインテールでふわっとまとめ、エラが張った四角い輪郭で、長いまつ毛をカールさせ、濃い目のアイメイクで小さな目を大きく見せる努力をして、大きめの口にある厚めの唇を真っ赤なルージュで彩った、身長が3m超えの巨人のオカマが立っていた。
「んな??」
ルビアぱ固まった。思考が停止し巨人のオカマから目が離せない。
「へ! ヘレボルスさま!!!」
ゲンゲの周りにいた白魔導士達は叫び片膝をつく。
「その名前で呼ぶんじゃねぇ!ヘスちゃんと呼べって言ってんだろが!ぶっ殺すぞ!」
ドスの効いた男の怒鳴り声で白魔導士達を威嚇するヘレボルス。
「ひっ!申し訳ありません!!」
白魔導士達はガタガタと震えながら土下座している。
ゲンゲはゆっくりとルビアを下ろし、ヘレボルスに片膝をつき、頭を下げる。
「あ〜ら、ゲンゲちゃん。ボロボロね。いい男が台無しよ?」
ヘレボルスはゲンゲを見ながら、猫撫で声で話しかける。
「はっ、ヘスさま。恥ずかしながら、ここにいるルビアの試験を行い、この様な無様な姿となっております」
「もう、ゲンゲちゃんは何度言ってもヘスちゃんって呼んでくれないんだから… いじわるね」
ヘレボルスがウインクを『バチコーーン!』とする。
ウインクの風圧で飛ばされそうな勢いだ…
「なるほどねぇ、こんな小さな子なのに… 。 へぇ、いい物持ってそうねぇ」
ヘレボルスはルビアを上から下までじっくりと見ると、舌舐めずりをする。
「ひっ…」
ルビアは生理的な嫌悪感に襲われる。
「ふふふ、ルビアちゃん、かわいいわねぇ。あたしはヘスちゃんよ。ちょっと気に入ったわ、今から少しだけ遊んであ・げ・る♪」
ヘレボルスは楽しそうにクルクル回りだした。
3mの巨人のオカマが回るだけで、周りに被害が出そうな勢いだ。
「え!? 遊ぶって…?」
あたしは何が起きているのか理解出来ず、オロオロしていると
「はぁ… ルビア、こうなったらダメだ。ヘスさまと戦うしかない…」
ゲンゲはため息をつき、立ち上がるとヘレボルスを見上げて進言した。
「ヘスさま!ルビアは今しがた私と激戦を行い疲労しております。少しだけお時間を頂きたい!ヘスさまも万全な状態のルビアと戦う方が、きっと楽しく思われると具申いたします!」
「んー、確かにねぇ。ヘロヘロのルビアちゃんと戦っても面白くないかもねぇ。わかったわ、夕方にしましょう!楽しみは取っておくのが、あたしの主義なのよ」
「ありがとうございます!」
ゲンゲは片膝をついて頭を下げた。
「んふふ、いいわよん。ゲンゲちゃんのお願いだものぉ。そうだ、ここは少し狭いから場所はコロニーの外にしましょ。いつもの場所ねぇ。んじゃ、また夕方ねぇ。またねぇ」
ヘレボルスはルビアに『バチコーーーン!』とウインクをして、鼻歌を歌いながら広場から出て行った。
「な… なんですか?いまの?」
ルビアはまだ混乱していた。
「アレはこのコロニーの主、ヘレボルス。巨人のオカマだ…」
ゲンゲは右のコメカミを押さえる。
「ゲンゲ殿、めんどくさいヤツが出てきましたなぁ」
ローダンセがやって来て、愚痴を溢す。
「うーむ。しかし、ああなっては下手に逆らわない方がいい」
「そうですなぁ。ルビア殿には申し訳ないが、少しお相手をしてやってくれんかのぉ。白魔道士はたくさん待機させておくから、安心してよいぞ」
ローダンセは、さらっと不安を煽るようなことを言う。
「えーと、あたしはヘレボルスさんと戦えばいいのですね?」
ルビアは状況を確認するように、2人を交互に見る。
「うむ。申し訳ないがそうしてくれると助かる。あと、ヘスちゃんと呼んでやってくれ。アレはなにかとめんどくさいんだ…」
ゲンゲは肩を落とし、ため息をはく。
「ルビア殿、とりあえずキズの治療をしておこう。こら!お前たち!白魔導士の仕事をせんか!!」
ローダンセは白魔道士達を叱り飛ばす。
「あ、だ…大丈夫です。もう治りましたから…」
ルビアが申し訳なさそうに、白魔導士達を止める。
「ん?そんな事はないじゃろう。あれだけの戦闘をして無傷なんて…」
「あ、無傷ではなかったのですが…。あたし、オニだから治るの速いんです」
てへへ と笑うルビア。
「それは、ルビアさまだけですよぉ」
シオンがぬぅと出てくる。
「ええ!?これも?」
ルビアは、『普通のオニ』がわからなくなってきていた。
ゲンゲがルビアの体を見る。
「…! 本当だ!オレが付けた傷がない…」
「でしょ? だから、もう大丈夫なんです」
「ほほー、不思議な事もあるもんじゃのぉ」
ローダンセは、しげしげとルビアを見ていた。
「あ、そうだ。ヘスちゃんさんと戦う前に、ちょっと仲間の所に行っていいですか?」
ルビアは早く試験の結果を仲間達に知らせたかったのだ。
「あぁ、もちろんだ。では、夕方、南側の門で待っておるぞ」
「ありがとうございます。それでは夕方、南の門にお伺いします」
ルビアは丁寧にお辞儀をして、コーナス達の所に走って行った。
「あの子はもっと強くなる。大事に育てなければならないな…」
ゲンゲはそうつぶやくと、ヘレボルスの屋敷に歩いて行った。




