ランク試験ー5
観覧席には逃げた見学者の他に、さっきの爆発音を聞いた野次馬などが集まり満席となり、騒めきが起きていた。
「あれ?ゲンゲ試験官って、いつもは革鎧じゃなかったっけ?」
「おい、ゲンゲ試験官を見ろ。いつもの木剣じゃないぞ。それにシールドを装備してるぞ!」
「なんだ?あのバスターソード、本物か?」
などなど…
コーナスもゲンゲの装備に戸惑いを感じていた。
「おいおい、ゲンゲ試験官がまた出ててきたと思ったらフル装備かよ!こりゃ、ルビアのやつゲンゲ試験官に気に入られたな?」
「え?どう言うこと?」
ミモザはいつもの試験と違う事に、ハラハラしている。
「ゲンゲ試験官が本気になる時はフル装備をしてくるらしいんだ。オレの時は革鎧に木剣だったけどな…」
少し悔しそうなコーナス。
「ええ!?あんな小さな子相手に、本気で戦うつもりなの?」
ミモザは驚き立ち上がってゲンゲを見る。
「ああ、ルビアはそれだけ力を持っているって事だ…」
コーナスはどこか誇らしげに語った。
広場の中央には、チェインメイルの要所要所にプレートを取り付けた機動性を重視した簡易のプレートメイルを装備して、左手にラージシールド、右手にバスターソードを持ったゲンゲ試験官と、チェインメイルの上に布の服を装備して、両手には龍の装飾がされた『ただのアイアンナックル』を嵌めたルビアが向かい合っていた。
「今日はとても楽しい日だ。シオンに続き、お前のような者と戦えるんだからな…」
ゲンゲは獰猛に笑う。
「ありがとうございます。あたし、精一杯頑張ります」
ルビアはナックルを握りしめる。
「では、試験をはじめよう。思い切りかかってきなさい」
ゲンゲが試験開始を宣言した。
「はい!いきます!」
ルビアは「ふぅっ」と短く息を吐き、気合いを入れゲンゲを『ギンっ』と睨む。
ルビアを中心に圧迫感が広がり、空気がビリビリと震える。広場を囲む結界がビシ!ビシビシっ!と音を立て、ヒビが広がる。
観客席からはどよめきが起きていた。
「始まるぞっ」
コーナスは食い入るように広場の2人を見ている。
「……」
ミモザは両手を合わせ、少し震えていた。
ルビアは少し身をかがめると、大地を蹴り一瞬でゲンゲとの間合いを詰めた。
ゲンゲは腰を落としてシールドを構える。
ガギンっ!!!
ルビアの右ストレートがシールドに防がれると、鉄と鉄がぶつかる音が響く。
ルビアはそのまま左右の拳で高速のラッシュをかける。
ゴガガガガガガガ!!
シールドへの打撃が速過ぎて、打撃音が1つの音に聞こえる。
ゲンゲはシールドを構えたままジリジリと押され、足下には二本の線が描かれていた。
「ぬぉぉぉ!」
ゲンゲが短く叫び、ルビアが腕を引くタイミングに合わせてシールドを短く押し返す。
ルビアはパンチのタイミングがズレ、一瞬のスキができた。
ゲンゲはそのスキを見逃さない。シールドバッシュを繰り出しルビアを吹き飛ばした。
「きゃ!!」
ルビアは吹き飛ばされると、体を捻り足と片手をついて着地する。
「ぬぅぅんっ!!!」
ゲンゲは着地したルビアの頭上にバスターソードを振り落とす。
「っ!!」
ルビアは両手を頭上でクロスしてバスターソードを受ける。
ガギンッ!!
ルビアを中心に地面が円形に沈み、砂埃が波紋のように広がった。
ルビアはバスターソードを押し返し、立ち上がると同時にゲンゲの腹に蹴りを入れる。
「ぐっ!」
ゲンゲは体を吹き飛ばされるが、片手をつく事で体勢を保つことに成功した。
「ふははは、ルビアやはりお前は最高だな!」
ゲンゲは叫ぶと、シールドを構えたまま突進し、ルビアに体当たりをする。
ルビアはシールドに足を軽くかけて跳躍すると、ゲンゲの背面を取り腰を深く落とす。
ゲンゲが振り向いたところを、右手で強烈な一撃を放つ。
強烈な一撃はゲンゲのシールドに命中し、高速ラッシュで限界に達していたシールドが破壊された。
「ふぅ」
ルビアが一息つき、拳を構える。
ゲンゲはシールドを捨て、バスターソードを両手で構える。
観覧席の見学者達は息を飲んで戦いを見守っていた。
次の瞬間、ゲンゲとルビアは同時に動いた。
ゲンゲはバスターソードをルビアの頭上に振り下ろすが、ルビアはサイドステップで回避しゲンゲの懐に潜り込む。
「しまっ…!!」
ゲンゲの言葉は最後まで発せなかった。
ルビアは上体を屈め、右拳を地面スレスレからゲンゲの腹に打撃を打ち込む。
「ぐぁっ!!」
ゲンゲは短く声をあげると、ルビアの上に覆いかぶさるように倒れた。
「……… うぉぁぁあああああ!!!」
あまりの出来事に観覧席の見学者達はしばらく声が出なかったが、遅れて大歓声となる。
「やりやがった!ルビアのやつ!やりやがったぞ!!」
コーナスは立ち上がり叫んでいる。
「……はぁ」
ミモザは緊張がとけて、腰を抜かしていた。
ルビアがゲンゲの下から這い出てくると、ギルドの白魔導士が走り寄ってきていた。
ルビアは大歓声に呆気にとられ観覧席を見回し、足下に倒れているゲンゲを見ると、深くお辞儀をしていた。
「ゲンゲ試験官、ありがとうございました」
白魔導士たちが回復魔法をかけようとした時、ゲンゲは気が付きフラフラと立ち上がる。
「見事だ、これにて試験は終了する。ルビア、お前のランクはプラチナ級だ」
そう言うと、ゲンゲはルビアを肩に乗せルビアを称えた。
「あ!ありがとうございました!!」
ゲンゲの肩の上には、満面の笑みを浮かべるルビアがいた。
その時、聞き覚えのない声がした。
「あ〜ら、ずいぶんと楽しそうなことしてるじゃなぁい?」




