ランク試験ー3
あたしは広場の中央に立っていた。
周りには観覧席があり、何人かの見学者かいる。
目の前には狼の獣人『ゲンゲ』が立っており、腕を組んであたしを見ている。
あの日と同じように緊張はしているが、今はまったく違う感情があった。
(殺さなくていい…)
あたしはそれが嬉しかった…
「ルビア、準備はいいか?」
ゲンゲは低い声で聞いてきた。
「はい、よろしくお願いします」
あたしは両手のナックルを握りしめ、頭を下げる。
「うむ。では、試験を開始する。力いっぱいかかってきなさい」
ゲンゲはそう言うと木剣を正中に構え、ルビアの攻撃を待つ。
「ふぅ…」
あたしは短く息を吐き、気合いを入れゲンゲを『ギンッ』と睨む。
ルビアを中心に強烈な圧迫感が広がり空気がビリビリと震え、広場を囲む結界がビシっビシビシっと音を立ててヒビが入る。
観覧席からはどよめきが起きていた。
(あ、やっぱりここも結界張ってるんだ…)
「ほう。ルビア少し待て」
ゲンゲは木剣を下ろし、ルビアを制止した。
「え? あ、はい…」
ルビアを中心に広がっていた圧迫感が霧散する。
「ルビア、おまえを試験するには少し準備が必要なようだ。オレは準備をしてくるから、先に魔導の試験を受けてくれ」
「…はい。わかりました」
「ちなみにルビア、いまは何を装備している?」
「え?今はチェインメイルですが…」
鑑定の店を出る時、チェインメイルを荷物として持つには嵩張るため、布の服の下にチェインメイルを着用していたのだ。
「うむ。わかった。では、オレは準備をしてくる」
そう言うとゲンゲは広場の端にいる、魔導の試験官『ローダンセ』の近くに行き、なにか話しをした後、あたし達が入って来た方向と逆にある出入口に行ってしまった。
「ふぉふぉふぉ、ルビア殿。では先に魔導の試験をしようかの」
魔導の試験官『ローダンセ』がルビアの後ろから杖をつきながら歩いてやって来た。
「はい、よろしくお願いします」
ルビアは振り返りお辞儀をする。
ローダンセは身長が160cmくらいで少し腰が曲がっていた。白く長いヒゲは胸辺りまで伸びており、ローダンセの人生の長さを表していた。
「ふむ。ルビア殿、魔導は何が使えるのかの?」
ローダンセは白いヒゲを撫でながら、細い目を更に細くして聞いてきた。
「あたしは、四大魔法も二大魔法も使えますが、四大魔法の方が得意です」
「ほぉ!!そんな歳で全魔法を使えるとは!」
ローダンセは細い目を見開いて驚く。
(細い目って見開いて、やっと普通サイズなんだな…)
新たな発見をしても、口に出さないルビア…
「最近のヤツらは火の魔導しか使えないヤツとか、やっと四大魔法使えても、土はなんとか使えるが他はてんでダメなヤツとか… よくそれで『魔導士』だって言えるな!って内心腹立たしかったんじゃ」
ローダンセの変なスイッチが入ってしまった…
「は、はぁ…」
とりあえず、黙って聞いていようと思うルビア。
「あぁ、スマンスマン。つい興奮してしまったわい」
ローダンセはふぉふぉふぉと笑い、また細い目に戻った。
「では、今から魔導の試験を開始する。向こうに的を立てるから得意な魔導で攻撃しなさい」
そう言うと、ローダンセは杖を振る。
ルビア達から200mほど離れた所に、巨大な土の壁が現れた。土の壁は縦5m、横8mで奥行きは3mほどある。
「あの土の壁へ魔導を撃ち込むのじゃ。あれだけ大きければ破壊されることもあるまい」
ふぉ、ふぉ、ふぉと少し自慢気なローダンセ。
「はい、わかりました。まずは火の魔導を撃ち込みたいと思います」
ルビアは土の壁に右手を向け呪文を唱える。
「ファイヤーボール!」
ルビアの右手辺りに炎が複数現れ、1つに纏まりだす。
やがて炎はルビアの右手の前で直径2m程にまで成長し、『ボール』と言うには大きすぎる炎の塊となった。
「んな!! なんじゃと!?」
ローダンセがあまりの炎の大きさに一歩下がる。
観覧席からはどよめきが溢れていた。
ルビアの右手からファイヤーボールが土の壁に凄いスピードで飛んで行く。
ズッ… ズガーーーン!!!
ファイヤーボールは土の壁にぶつかると、土を赤く溶かし、ゆっくりと土の壁の体積を増やしたあと大爆発を起こした。
広場にいたルビア達に爆風が襲いかかる。
「ドーーム!」
ルビアが呪文を唱えると、ルビア達の前に巨大な土の壁が現れ、広場にいた者達を包み込んで爆風から守る。
広場の中では爆風が吹き荒れ、広場を囲っていた結界に無数のヒビが入っていた。
しばらくして爆風が収まり、ルビアが『ドーム』の魔道を解除すると、広場の中は巨大なモンスターが暴れた跡かと思うような惨状だった。
なんとか結界が爆風を抑えていたので、観客席には被害が出ていなかったが、多数の見学者が逃げだしてしまっていた。
「あ… ご… ごめんなさい…」
ルビアはやり過ぎてしまったと凹んでいた。
「は、ははは…」
ローダンセは腰を抜かして座り込んでいた…




