ランク試験ー2
試験会場である広場では狼の獣人で30代くらいの男と、黒いローブを着たお爺さんが立っていた。
狼の獣人の男は筋肉隆々の体格をしており、革鎧を着て右手には木剣を2本持っていた。
ローブを着たお爺さんは、白く長い髭を右手で撫で、左手には身長と同じくらいの杖を持っている。
「こちらのお二人が試験官です」
ネリがあたし達を見て、2人を紹介する。
「オレはゲンゲ。近接戦の試験を担当している。お前達の近接戦ランクを評価するのが仕事だ」
狼の獣人『ゲンゲ』がニカッと笑い、牙がキランと光る。
「ワシはローダンセじゃ。黒魔道の担当じゃ。よろしくの」
お爺さん『ローダンセ』は、ふぉふぉふぉと笑っている。
「まずは近接戦から試験を行う。はじめはシオン…だったな。シオンはどっちだ?」
ゲンゲが一歩前に出て話始めると、ローダンセは広場の端に移動した。
「あぃー。シオンはわたしですぅ」
少し猫背でシオンが手を上げる。
「うむ。シオン、武器は何を使う?」
「シオンは、ショートソードですぅ」
「よし、ならばこの木剣を使いなさい」
ゲンゲが持っていた木剣のうち、1本をシオンに投げ渡した。
「あぃー」
シオンは木剣を握り、感触を確かめている。
「では、こちらで試験を始める。シオン、思い切りかかってきなさい」
ゲンゲは広場の中央に移動し、木剣を構えた。
「あぃー、では、いきますぅ」
シオンはゆっくりと広場の中央に移動し、右手で木剣をだらんともっている。
「シオン!がんばって!」
あたしがシオンに声をかけるのが合図となり試験が始まった。
シオンは少し屈むと大地を蹴り、一瞬でゲンゲとの間合いを詰める。
右手で木剣を持ち、柄の先端に置いた左手を押し込むことで右手を支点としたテコの原理で剣先のスピードを加速させ、右下から左上へ切り上げる。
「!!」
ゲンゲは一歩下がりギリギリで剣先を躱す。
シオンは両手で木剣を握ると、空振りした剣先をゲンゲの頭上から落とす。
「…っ!」
ゲンゲがバックステップで剣先を躱すと、シオンはまだ追撃をする。
シオンは左手を開き剣先を親指の付け根に合わせて、ゲンゲの喉元に照準を合わせる。
右手を引き絞り腰を落とすと右足を大きく踏み出し、腰の回転を右腕に伝え、木剣を捻りながらゲンゲの喉元へ突きを放つ。
「くっ!!!」
ゲンゲはシオンの木剣を横から払い、シオンの手から木剣を弾き飛ばした。
シオンの木剣はクルクルと宙を飛び、カランと乾いた音をたてて地面に落ちた。
「………」
一瞬の出来事にあたしは声が出なかった。
「うぉぉぉぉ!すげぇ!」
しばらくして、観覧席から歓声が起きる。
「あぃー、全部ハズレましたぁ」
シオンがだらんと手を下げて、猫背で立っている。
「シオン!いい攻撃だったぞ!」
ゲンゲは嬉しそうに叫び、試験終了を告げた。
ゲンゲとシオンが広場の端に居た、ネリやルビアの所に歩いてきた。
「シオン、お前はアイアン級だ。この年でここまで戦えるとは、将来が楽しみだな!コレがあるから、この仕事は面白い」
がははははは と豪快に笑うゲンゲは、シオンの頭を雑にグリグリと撫でている。
「あ、あぅ、首がもげる…」
シオンは迷惑そうな顔をしながら、うひひひと笑っていた。
「シオン!すごい!!」
あたしはシオンに抱きつき、ぴょんぴょん跳ねていた。
「あ、あぃー」
「シオン、近接戦は苦手って言ってたのに… すごいね!ビックリしたよ!」
「でも、シオンはあの三連撃を外したら逃げますよぉ」
「え?なんで?」
「ネタがバレたらもう当たらないからですぅ」
うへへへ とシオンは笑う。
横にいたゲンゲが話しに入ってきた。
「うむ、そうだな。実戦の場合、初見でダメージを与えられないなら、後は地力勝負になるだろう。そうなると、シオンはジリジリと押されて負ける事になる。初見であの攻撃を躱せるなら、それはシオン、そいつはお前より強いやつだろうからな。オレのようにな!」
がはははは と豪快に笑うゲンゲ。
「なるほどぉ…」
あたしは、『みんなそんなに考えて戦ってるんだなぁ』と、感心する。
「さぁ、次はルビアだな!オレを楽しませてくれよ」
ゲンゲがキランと牙を輝かせる。
「う、が…かんばります」
「ルビアの武器はなんだ?」
ゲンゲは腕を組み、首を傾げている。
「あたしは、ナックルです。いつもコレを使ってます」
ルビアは、さっき鑑定の店で鑑定してもらった龍の装飾がされた『ただのアイアンナックル』を取り出す。
「ほほー、素晴らしい装飾だな。では、広場の中央に行こう。試験の開始だ」
ゲンゲはゆっくりと広場の中央へ移動する。
「よろしくお願いします」
ルビアはナックルを嵌めながら、広場の中央へ移動した。




