魔王の娘
「頼むよ、酒の肴にはもってこいの話しじゃないか」
コーナスは子供のように目を輝かせている。
まるで知り合いの武勇伝を聞きたがる子供のようだった。
「わかりました…」
ルビアは苦笑いしながら話し始めた。
「まず初めに、あたし達の事を少し話します。あたしはオニで、シオンは人です。あたし達はある範囲内の魔力を感知でき、シオンはその中でも敵を見つける事ができるのです」
あたしはシオンを見ながら、ゆっくりと話しだした。
「そうか!だからシオンはあの時スライムに気がついていたのか」
コーナスは納得した顔をする。
「あたしはマヴロの力と、リアリナの力を受け継いだので黒魔道も使えるし、近接戦も得意なのです。シオンはあまり戦いは得意ではありませんが、不意打ちが得意です」
ルビアはあえて『暗殺』と言う言葉を避けた。
「わたしもシオンちゃんに助けてもらったわ。急にゴブリンの首が落ちて、後ろからシオンちゃんが現れた時はビックリしたわ」
ミモザはふふふと口元を隠して笑う。
「あたしとミモザさんが夜番の時、あたしは複数の魔力を感知しました。同時にシオンも感知して起きて来ました。とりあえず視界を確保するために、勝手にミモザさんの杖に魔法をかけました」
「あ!あの光ね!ビックリしたわ!急に明るくなったと思ったら、わたしの杖が光ってるんだもの!」
ミモザは少し興奮して早口になる。
「あたしは戦う為に、シオンに協力をお願いしました。シオンは不意打ちするために闇に隠れたのです」
「あぃー、シオンはアサシンなので暗殺が得意なのですぅ」
あっさりとシオンは『アサシン』をバラす。
「こんな小さい子供がアサシンだなんて…」
ミモザは少し悲しげな瞳でシオンを見つめる。
あたしは苦笑いしながら続けた。
「あたしは、とりあえずゴブリンの数を減らす為にマジックミサイルを使いました」
「それだよ!!オレはあんなマジックミサイル初めて見た!しかも7本!!アレはシビレたなぁ」
コーナスのお酒を飲むペースが上がる。
「あたしも初めて知ったのですが、普通はもっと小さくて5本が限界だそうですね…」
ルビアは気が付いた頃には7本のマジックミサイルを射出しており、マヴロとのケンカで当たり前に使っていたのだ。
「ゴブリンの後ろにはオークが居ましたので、先にオークを倒す事にしました。とりあえず1体目のアゴを叩いたら下アゴが砕けて、夢中でお腹に力一杯パンチしたら穴が開いちゃったんです…」
ルビアはコメカミ辺りをポリポリと掻きながら、みんなの反応を見る。
「………」
コーナスもミモザも口を開けてポカンとしている。
ちょっと引かれたかも…
と、思いながらも、もう後にも引けず話しを続ける。
「残り2体のオークと対峙していたら、突然オークの頭にボウガンの矢が刺さり倒れました。もう1体のオークが驚いて隙を見せたので、思い切り頭を蹴ったら頭が無くなりました…」
「すげぇ!! ルビアもシオンもすげぇな!」
コーナスが立ち上がり叫ぶ。
「オレはこんなすげぇヤツ見た事がない!いつかオレとも戦ってくれ!何度も何度も戦いを楽しもうぜ!」
コーナスがかなり興奮してきた。
(あ、コレとおさまと同じタイプだ…)
あたしはちょっとやっちまったなーと思いながら、はははと乾いた笑いで誤魔化す。
「コーナス、ルビアちゃんが困ってるでしょ!」
ミモザが嗜めると、コーナスは「スマン、スマン」と言いながら座る。
「その後は、ご存知のようにスライムに襲われて、コーナスさんに助けて貰いました」
「スライムと一緒にルビアちゃんも焼かれちゃって、回復魔法をかけたのに効果が出ないから、わたしルビアちゃんが死んじゃったって思って… すごく怖かった」
ミモザはあの時を思い出して泣きそうになる。
「すいません… あたし、オニだからケガが治るの早いんです。よくとおさまとケンカしてる時に腕とか足とか飛ばされるんだけど、すぐに治っちゃうんです…」
てへへ とあたしは笑う。
「は?」
コーナスもミモザも、アキレアでさえ声を出して固まっている。
「あれ?オニってそんな感じなんじゃ…?」
ルビアも固まってしまった。
「ルビアさまぁ、普通のオニは無くなった腕とか足とか生えてきませんよ」
シオンだけがクスクスと笑っていた。
「え?そうなの?」
「あぃー。そんな事できるのはルビアさまと、マヴロさまだけですぅ」
「ええー!うそー!あ、だからとおさまは、『オレに似て生えてくるんだから…』って言ってたのか」
「い…いや、まぁ、さすが魔王の娘だな…」
コーナスたちは、はははと苦笑いしていた。




