古い魔界の男と、新しい魔界の男
「なるほど… ルビアが強いわけだ…」
コーナスは吹き出した肉を拾い、口に戻した。
「……きたない」
アキレアがボソッとつぶやく。
「もったいないだろ!?」
コーナスはもぐもぐしながら反論していた。
「もう!ちゃんとルビアちゃんの話しを聞いてあげて!」
ミモザが2人を叱り、ルビアに話しの続きを促す。
あたしは苦笑いしながら、話しを続けた。
「先日、とおさまの所に招待状が届きした。とおさまはずっと招待状を放置してたのですが、放置していた5人をまとめて受ける事にしたのです…」
「ご! 五人まとめて!? さすが魔王だな…」
コーナスはアゴをさすりながら話を聞いている。
「はい、とおさまは3人をあっという間に殺してしまいました。それがあまりにも一方的過ぎて、残り2人が戦意を無くしたのです」
ごくり…
コーナスとアキレア、ミモザが息を飲む音が聞こえたような気がした。
「とおさまは急にやる気を無くされて、あたしに残り2人の相手をさせると言い出したのです」
「無茶苦茶だな…」
コーナスはつぶやく。
「あたしは、仕方なく2人と戦いました。そこであたしは手を抜いてしまったのです。2人を殺したくなくて…」
ルビアは俯き、両手で服の裾を握りしめていた。
「その2人って?」
コーナスはお酒を一口飲んで質問する。
「たしか、武闘家のニゲラさんと、黒魔道士のマルバさん……だったような?」
クルクマが話していたことを思い出して答える。
「ニゲラとマルバ!?」
コーナスは思わず立ち上がる。
「コーナス、知ってるの?」
ミモザはコーナスの反応に驚く。
「あぁ、有名な2人だ。恐らくこの辺でニゲラやマルバに勝てる奴はいない…」
「そんな2人と戦わされたの!?」
ミモザが目を丸くして驚き、それと一緒に憤りを感じていた。
「そんな2人を相手に、手を抜いてって…」
コーナスは席に座り直し、お酒を飲む。
「ん?まさか2人同時に?」
コーナスはルビアを見る。
「え? はい、同時ですが?」
「な!なんだって!!!」
コーナスはまた立ち上がる。
「いや、いい。とにかく続きを…」
コーナスは座り直し、話しが進まないことを詫びる。
「あたしが2人との戦いに本気を出さなかったことに、とおさまがお怒りになって…。魔界をまわってマシになるまで帰ってくるなと言われたのです。それでシオンと旅に出ることになったのです」
あたしはシオンをチラッと見る。
シオンは肉料理を美味しそうに食べており、ルビアの話しは全く聞いてなかった。
「なるほど。それで『魔界を回る必要がある』と言っていたのか…。ところでシオンはなぜルビアと旅に出る事にしたのだ?」
コーナスはシオンを見る。
「シオンはルビアさまのお供ですからぁ」
うへへへ とシオンは笑っている。
「ルビアちゃんと、シオンちゃんて姉妹じゃないのよね?」
ミモザがルビアを見る。
実はあたしは100万人目の転生者で、シオンはあたしのサポートの為に召喚された…なんて言えるわけもなく困っていると
「シオンは、ルビアさまに一生ついて行くと決められてますぅ。だから、ルビアさまがどこに行っても付いて行くのですぅ」
シオンがクネクネしながら答えた。
「なるほど、そういう家系なんだな…」
コーナスが、なんかうまいこと納得してくれたので、
「そ… そうなんです。あたしとシオンはいつまでも一緒なんです」
あははは と、笑って誤魔化す。
あたしは俯き、少し躊躇しながら聞いた。
「みなさんは、あたしを軽蔑しないのですか?真剣な戦いで手を抜いてしまったあたしを…」
あたしは涙ぐんでいた。
コーナスは腕を組み、少し考えてから口を開いた。
「んー、確かに、オレの親世代はそんな考えをしている人が多いと思う。確かにその考え方は正しいと思う。オレの爺さんも誇り高く戦って死んだ。それはオレも誇りに思っているし、それが魔界の男だ。」
コーナスは一息つき、続けた。
「でもな、そんな強いヤツと戦えるのに、一回で終わりだなんてもったいないと思わないか?オレは何度も戦いたい。そして、お互いが強くなれたら、もっともっと戦いたい。オレはそう考えるぞ」
コーナスはニコッと笑った。
「そうよね!話しを聞いて思ったけど、ルビアちゃん全然悪くないじゃない!それより、お父さま、ちょっと無茶苦茶過ぎない? あ、悪口言ってゴメンなさい…」
ミモザが興奮気味に話し、自分の失言に気付いて詫びる。
「いえ、あたしも無茶苦茶だと思います。と、言うかずっと無茶苦茶なんです!なにかとあたしとケンカしようとするし!ケンカしたら手加減しないし!あたし、まだ子供って言っても聞かないし!!」
急にとおさまに腹が立ってきて、まくし立てる。
はぁはぁと、肩で息をするルビアを見て、コーナス達は大笑いしていた。
「ルビア、お前は何も悪くない。ここに居るみんながそう思っている。だから、安心してここに居てくれ。オレ達はずっと仲間なんだから!」
コーナスがルビアの頭を撫で、アキレアとミモザに「そうだろ?」と声をかけた。
「もちろんよ!ルビアちゃんも、シオンちゃんも私の妹みたいなものよ」
ミモザは微笑んで、あたし達を抱きしめてくれた。
「……あたりまえ」
アキレアがボソリとつぶやく。
「そうと決まれば、新しい仲間達に乾杯だ!新生『竜の牙』に、オレ達の最強伝説の始まりに!」
「「乾杯!!」」
一気にお酒を飲み干したコーナスは続けた。
「ところでルビア、今朝の戦いを聞かせてくれないか?オレはおまえ達の戦いを聞きたい」
コーナスは目を子供のように輝かせていた。




